閉店ラッシュ?「高級パンブーム終焉」の意外な真実と、これから

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「行列で並んでも買いたかった」高級食パンも今や…(写真はイメージ)

一世を風靡(ふうび)し、店頭に長蛇の列ができるほど活況を呈していた高級食パン業界に「逆風」が吹いている。1斤で1000円近くするプレミアム食パンを販売するベーカリーの閉店が相次いでいるというのだ。果たして「高級食パンブーム」は本当に終わったのか?これからベーカリー業界で何が起こるのか?

実は「まだ増え続けている」ベーカリー

まずは「高級食パン業界」に「逆風」が吹いているのは本当なのか?民間調査サイトの「開店閉店」によると、ベーカリーでは3月5日から4月4日までの1カ月間に「開店」が66店舗に対して「閉店」は16店舗。1カ月間で50店舗の純増となった。すべての開閉店を網羅(もうら)しているわけではないが、傾向として現在も旺盛な出店意欲がうかがえる。

とはいえ新規参入の増加で市場が飽和し、競争が激化しているのは事実だ。高級食パン専門ではないが、2月に関東私鉄大手の小田急グループが子会社の北欧トーキョーが運営するベーカリー「HOKUO」の全39店舗を閉店(うち10店舗はドンクへ譲渡)。同月には2021年11月に営業停止していたベルベ(神奈川県大和市)が横浜地裁に自己破産を申請して倒産している(一部店舗は元従業員が営業を再開)。

積極出店が裏目に出て人気ベーカリーながら倒産したベルベ(同社ホームページより)

しかし、こうした「逆風」は業界では周知の事実だった。帝国データバンクが2020年2月に発表した「パン製造小売業者の倒産動向調査(2019年)」によると、2019年に同業者の倒産は前年比2.1倍の31件と、調査を開始した2010年以降で最多となっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前から、ベーカリーの淘汰は進んでいたようだ。つまり高級食パンを含む「ベーカリーの危機」は最近の話ではなく、とうに始まっていたのである。

負債金額では「5000万円未満」が22件と小規模倒産が7割で、30年以上の社歴がある老舗業者が11社と全体を3割以上を占める。古くから運営している小規模な「町のパン屋さん」が過当競争に敗れている構図が浮き彫りになった。

高級食パン業界の淘汰と再編は必至

「むだに高い高級食パンが見放され、本当においしい個人経営の老舗パン屋が見直されている」との見方もある。そうした老舗パン屋も存在するのだろうが、傾向としては小規模なベーカリーほど苦戦しているようだ。ベーカリー業界への新規参入が増えて競争が激化しているのに加え、人手不足や後継者問題も足を引っ張っている。

一方、大手ではベルベのように人気店でありながら、大量出店が裏目に出て倒産するケースが目立つ。各社の積極出店で競争が激化するから負けじと出店を加速し、それが企業財務を圧迫するという構造だ。小麦や燃料費などの原材料値上げで収益が圧迫されれば、ベーカリー業界で生き残るための再編が起こるのは間違いない。

さらに「巣ごもり需要」で高級食パン人気が上昇したが、外食の復活で食パンにかける費用を抑える動きも強まるだろう。コロナ禍前後に開業し、高級食パンブームに乗って短期間に出店攻勢をかけた小規模チェーンでは、すでに閉店が相次いでいる。

ベーカリーは店舗の初期投資額が65平方mの店舗で約1700万円と高く、早朝からの仕込みで働き手の募集が難しい上に人件費負担も重い。立地も重要で、テナント家賃もそれなりにかかる。そのため、資本力の大きいベーカリーチェーンが残る構図になるだろう。

高級食パンチェーンは「乃が美」の乃が美ホールディングス(大阪市)や「一本堂」を運営するIFC(東京都新宿区)、銀座仁志川(東京都中央区)の3社を軸に再編が進みそうだ。大手3社が、経営が行き詰まった個人経営のベーカリーや高級食パンの小規模チェーンを競争でつぶしていくのか、飲み込んでいくのかにも注目だ。

高級食パンベーカリーチェーン上位の「乃が美」(同社ホームページより)

文:M&A Online編集部

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