ワタミ<7522>が、海外の外食需要の取り込みに注力しています。
2023年7月17日に子会社Watami China Co. Ltd.(香港)を通じて海鮮丼店「つじ半」香港1号店を東涌にオープンしました。この店舗は、日本橋や神楽坂で「つじ半」を運営するMTK(東京都中央区)とライセンス契約を締結しての出店です。
7月4日には韓国のフライドチキンチェーン・ジェネシスBBQとの合弁会社を通して、「居酒屋 和民」の再出店となる1号店をソウル市内にオープンしました。
ワタミの海外店は2020年3月末に53ありましたが、コロナ禍で退店を余儀なくされ、2023年9月末に46店舗まで縮小。そこからの出店攻勢で再び53店舗まで拡大しています。この記事では以下の情報が得られます。
・ワタミの業績
・事業別の収益力
ワタミは2024年3月期にアメリカのテキサス州への「焼肉の和民」の出店を計画しています。同社によると、コロナ禍をきっかけとしてアメリカはインフレが進行。カジュアルレストランの客単価はコロナ前の25ドルから40ドル程度まで上がっているとしています。
円安も進行しており、アメリカに出店するチャンスと見ています。
ゼンショーホールディングス<7550>もアメリカやヨーロッパへの進出を強化中。2023年6月にアメリカやイギリスを中心に寿司のテイクアウト店を展開するSnowFox Topco Limitedの買収を発表。同社は5月にもドイツの寿司テイクアウト店運営会社Sushi Circle Gastronomie GmbHの取得も決定していました。
大手外食チェーンはアメリカやヨーロッパでの事業展開を商機と捉えています。
ワタミの海外外食事業は、2022年3月期は4,000万円の営業黒字だったものの、中国のロックダウンの影響を受けて2023年3月期は6億1,000万円の営業赤字に陥りました。
ロックダウンの解除によって、2024年3月期は再び黒字となる見込みです。
■ワタミ2024年事業別業績予想
2024年3月期の国内の外食事業の売上高は315億円、営業利益は5,000万円を見込んでいます。海外外食事業の売上高は58億円、営業利益は1億円を予想しています。
国内の外食事業はようやく黒字化が見えてきたものの、繁華街の大型店を中心に出店してきたワタミは十分に回復しているとは言えません。国内の宴会需要の完全回復への道のりは遠く、中期的な苦戦が予想されます。
海外外食事業は立ち直りが早く、利益率が高い効率的なビジネスとなりました。
なお、2019年3月期のワタミの国内外食事業の営業利益は11億5,000万円、海外外食事業は1億6,000万円でした。コロナ禍を境として稼ぐ力は逆転しています。
ワタミが注力しているのは、海外への出店だけではありません。インバウンド(訪日客)の取り込みも本格化しました。
7月18日にインバウンド出店戦略1号店として「すしの和 浅草田原町店」をオープンしました。「すしの和」は2021年12月に1号店を錦糸町駅前にオープンしていました。初出店時はコロナ禍を経た後の外食ニーズを取り込むべく、目的来店(明確な来店動機を持って飲食店に足を運ぶこと。居酒屋店は衝動来店が多いと言われてます)を狙った業態という位置づけでした。
「すしの和 浅草田原町店」は、日本人から海外観光客へとターゲットを移したのです。
グルメサイトのメニューを見る限り、2店舗に金額の差はありません。海外観光客向けの店舗は、集客に成功すると円安のために単価を上げやすいという特徴があります。「すしの和」は将来的に収益性を上げられる可能性があります。
ワタミは2023年3月期に14億7,400万円の営業利益(前年同期は35億7,700万円の営業損失)を出しました。
しかし、利益を出しているのは宅食事業のみ。主力の国内外食事業は2023年3月期に17億8,000万円の営業損失を出しています。16億円の助成金を得て、ようやく会社全体で黒字化をしているのが実情です。
2024年3月期は3つの事業で黒字化を計画していますが、ワタミは外食事業をいち早く立て直して収益力を上げなければならない理由があります。それが巨額の借金の返済。ワタミは2021年に日本政策投資銀行(東京都千代田区)が立ち上げたDBJ 飲食・宿泊支援ファンドを通して120億円を調達していました。
ワタミはこれを2029年3月期までに返済すると発表しています。
また、コロナ禍で無配としていた配当を見直し、2023年3月期から1株7.5円とする方針を示しました。巨額の返済を行いながら、株主還元も重視したのです。
ワタミは居酒屋企業の中でも、新常態への手早い一手を打ってきた会社。アメリカを含む海外出店やインバインド需要の獲得が業績にどう影響するのか、注目が集まります。
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