継続疑義のワシントンホテルは、あの「ワシントンホテル」とは別会社

alt

老舗ビジネスホテルも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の「魔の手」からは逃れられなかった。ワシントンホテル<4691>が2022年3月期第1四半期決算短信で事実上の「経営危機」宣言となる「継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる」と注記したのだ。

かつては同じホテルチェーンだったが…

同四半期は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令の影響により、営業損失が15億1445万円、純損失は14億2760万円に達している。同社では2021年4月から役員報酬の減額幅を拡大したほか、社員給与の減額も実行。コスト削減と品質向上を目的に外注していた清掃を内製化するなど、コスト削減を徹底している。

ワシントンホテルと言えば、サンルート、東急インと並ぶ「ビジネスホテル御三家」…と思いきや、その「ワシントンホテル」とは別会社である。とはいえ、全く縁もゆかりもない企業というわけでもない。

ワシントンホテルの前身は、名古屋の地場百貨店である丸栄が開業した「国際ホテル丸栄」。1961年に丸栄を筆頭とする地元企業と藤田観光<9722>の出資で「株式会社名古屋国際ホテル」を設立。1964年に丸栄グループ栄町ビル内で「名古屋国際ホテル」をオープンした。

この藤田観光が「ビジネスホテル御三家」の一角を占める「ワシントンホテル」の運営企業だ。名古屋国際ホテルでコラボした両社は、1969年6月にワシントンホテル1号店の「国際ホテル別館ワシントンホテル」(のちに「名古屋第1ワシントンホテル」に改称)を開業する。

藤田観光直営の「ワシントンホテル」の1号店は、4年後の1973年に開業した「札幌第1ワシントンホテル(のちに「札幌ワシントンホテル」に改称)」だった。1979年4月には名古屋国際ホテルは「ワシントンホテル株式会社」に社名変更している。

分裂そして「コロナ禍」で再び提携の動き

両社は「ワシントンホテルチェーン」として、共同でビジネスホテルの全国展開に取り組んだ。ところが1997年2月にワシントンホテルが運営するホテル名を「ワシントンホテルプラザ」に変更し、「ワシントンホテルチェーン」は分裂した。

それでも当初は両社のチェーンが「ワシントングループホテル」との名称でまとまり、「ワシントン・カード」による会員特典サービスが一部維持されることとなった。が、藤田観光が会員特典ポイントを「藤田観光グループホテル・メンバーズカード」へ一本化するのに伴い、2012年2月末でワシントン・カードの相互利用を含む提携関係は完全に解消した。

ワシントンホテルは1998年4月から、朝食付きの安い宿泊料金をセールスポイントとする宿泊特化型ビジネスホテル「R&Bホテル」の全国展開をスタート。これを受けてワシントンホテルプラザは2000年に開業した「奈良ワシントンホテルプラザ」を最後に新規出店がなくなっている。

しかし、コロナ禍が再び両社の関係を深めつつある。2020年8月に藤田観光が運営する「ワシントンホテル」や「ホテルグレイスリー」など22施設が、ワシントンホテルの予約サイト兼会員ポイントプログラムである「宿泊ネット」に加盟した。

藤田観光も加盟したワシントンホテルの「宿泊ネット」(同社ホームページより)

藤田観光も2020年12月に全従業員1700人のうち700人のリストラに追い込まれるなど、厳しい状況が続いている。共に苦境にあるワシントンホテルと再び提携関係を強化し、コロナ禍での生き残りを賭ける可能性も高い。

ややこしい話だが、両社と関係のないワシントンホテルも存在した。「静岡ワシントンホテル 」と「旭川ワシントンホテル」がそれ。現在は廃業または改称したため、いずれも現存しない。

文:M&A Online編集部

関連記事はこちら
名門「椿山荘」の藤田観光が従業員700名削減の大リストラへ
藤田観光が赤字転落、訪日韓国人急減よりも婚礼部門の不振が深刻