【米国ベンチャーM&A】高まる自己健康管理の機運、KKRは医療情報サイトを買収

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高まる自己健康管理の機運、KKRは医療情報サイトを買収

米上院がオバマケアの一部廃止法案を否決

 先週、米上院で医療保険制度改革法(通称アフォーダブル・ケア・アクト;いわゆるオバマケア)の一部廃止法案(通称ヘルスケア・フリーダム・アクト;かなりトーンダウンしましたがオバマケアを廃止するというトランプ大統領の選挙公約のひとつ)が否決されました。共和党のなかでも2008年の大統領候補だったジョン・マケイン氏をはじめ3名の上院議員が反対票を投じています。

 ヘルスケア・フリーダム・アクトは、オバマケアのうち米国民の医療保険への加入義務や未加入の場合に課せられる罰金をなくすもので、連邦議会予算局によれば今後10年間の財政赤字を1千500億ドル削減できるというものでした。一方、この法案が成立すると米国民の医療保険料はさらに20%上昇し、無保険者が1千600万人増加するだろうという試算も同時に連邦議会予算局から発表されていました。

個人はセルフメディケーション、医療機関は診療の効率化に動く

 いずれにしても大多数の米国人にとって医療保険の高額化や条件悪化といった傾向は変わりそうにないので、医療費の自己負担を抑えるために日頃から健康に気を使ったり、なるべく自分で診断して市販薬で治療したりするセルフメディケーション(自己健康管理)の機運が高まっています。そういったニーズに応えようとする健康アプリなどのスターアップも少なくありません。

 オバマケアによって、メディケア(高齢者や障害者向けの公的医療保険)の支払い制度が、出来高払いから包括払いに変わっています。出来高払いでは医療機関が患者に提供したサービスごとに診療報酬を請求できましたが、包括払いでは病気の種類や状態によって診療報酬の金額が決まっていて、そこから患者に提供したサービスのコストを差し引いたものが医療機関の利益になります。

 包括払い制度は、医療費が際限なく増加することに歯止めをかけ、患者の回復が早ければ医療機関の利益も増える仕組みです。いかにコストを抑えつつ治療効果をあげられるか、データ解析をベースにした診療管理ソリューションなどのスタートアップも増えています。

全米最大の健康・医療情報サイトWebMDを投資ファンドのKKRが買収

 このような環境下で先週、プライベートエクイティ投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が医療情報サイトのWebMDを28億ドル(約3100億円)で買収するとの発表がありました。WebMDは、1996年にJim Clark氏とPavan Nigam氏(インターネット初期にウェブブラウザを開発したNetScapeの共同創業者)が設立しました。2000年のドットコムバブル崩壊を生き残り、2005年にNASDAQで株式公開しています。

 WebMDの本社はニューヨーク州ニューヨークにあり、従業員は1,815名、売上高7億ドル、純利益88百万ドル、時価総額24億ドルとなっています。WebMDは製薬会社からの広告収入の鈍化から株主の圧力が高まり、半年ほど前から売却先を探していて、入札した約100社のなかからKKRとの最終交渉に入ったそうです。

図 WebMDの株価推移 過去1年間

Yahooファイナンス https://stocks.finance.yahoo.c...

 WebMDは、WebMD.com(健康・医療情報)の他にも、 Medscape.com(医療教育)やMedicineNet.com(医学情報)を運営しています。WebMDは全米最大の健康・医療情報サイトで、一般消費者や医療従事者など毎月7千万人のユニークビジターがあるとのことです。

 KKRは2014年に買収したInternet Brandsで、自動車、医療、不動産、旅行、法律など、様々な情報サイトを運営しています。医療分野では、DentalPlans.com(歯科割引プラン)、VeinDirectory.org(静脈瘤情報)、AllAboutCounseling.com(カウンセリング情報)があり、WebMDと連携させることで、トラフィックの増加や広告収入の増加といった相乗効果を見込んでいるようです。

 ちなみにWebMDは、1999年に日本でソフトバンクと合弁会社を設立、2001年にはWebMD Japanをオープンしました。その後、ソフトバンクがブロードバンド通信に経営資源を集中させるなか、WebMD Japanは2002年にエムスリーに売却され、現在は医療情報サイトm3.comの一部として運営されています。

関連記事はこちら:「エムスリー M&Aを活用して業容を急拡大させ、医療業界に変革をもたらす」https://maonline.jp/articles/m30342

最近のテクノロジー関連のM&A

最近2~3週間で話題になったテクノロジー関連のM&Aは下記の通りです。

・AvistaをHydro Oneが買収(電力会社;$5.3B)
・WebMDをKKR/Internet Brandsが買収(医療情報サイト;$2.8B)
・BamboraをIngenicoが買収(オンライン決済;1.5Bユーロ)
・IntacctをSageが買収(クラウド会計;$850M)
・ShoreTelをMitel Networksが買収(IP通信システム;$430M)
・Winkをi.amが買収(個人情報検索)
・Source3をFacebookが買収(盗作防止)
・SongkickをWarner Musicが買収(コンサートチケット販売)
・Swipe LabsをUberが買収(写真共有アプリ)
・BrighterionをMasterCardが買収(不正取引対策)
・Rocket FuelをSizmekが買収(広告DSP)

記事提供:TransCap /M&A Online編集部