ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の、高関税制裁をめぐる応酬は「チキンゲーム」にもたとえられ、国際社会がかたずをのんで見守っている。世界1位と2位の経済大国の競り合いは、全世界にどのような影響をもたらすか。米英メディアの報道を整理した。
米CNNと米ワシントン・ポストは4月10日、そろって米中貿易戦争が生み出す「負け組」と「勝ち組」についての記事を掲載した。CNNは痛手を負う国としてアジア全域およびヨーロッパ諸国を、甘い汁を味わう国として中南米と中東を挙げ、ワシントン・ポストも大豆輸出を例にブラジルの独り勝ちを予測した。一方、英BBCは4月13日、金融市場は比較的冷静であり、現時点での国際社会への影響は限定的なものと報じた。
【CNN】台湾、マレーシアを筆頭に、アジア全体が「傷つく」
CNNの記事は、アジア経済全体が貿易戦争に巻き込まれることになると警告した。影響を受ける具体的な国として筆頭に挙げたのは台湾やマレーシア。これらの国は米国向けの輸出品に使われる中間財を中国に輸出しているためである。「中国から米国への大幅輸出減は、中国のみならず多くの中間財を中国に輸出している国々にも大きな影響を与えるだろう」と指摘した。
次に「負け組」として挙げたのが韓国。同国は中国と米国を最大の貿易相手国としており、貿易戦争が勃発すれば最大の被害国の1つになりうるとした。中国の製造業に大きく依存している香港、大型金融センターのシンガポールも同様に被害を免れえないと述べた。
日本については、英市場調査会社キャピタル・エコノミクスのコメントを紹介し、輸出の19%を米国と中国にそれぞれ依存しているものの、意外にも「直接的な衝撃は比較的少ないだろう」と推測した。ただし「貿易緊張が高まれば、株式市場のボラティリティ(価格変動)と円の変動によって大幅な影響を受ける可能性がある」と付け加えている。
アジアのみならずヨーロッパ諸国も巻き添えに
CNNは続けて「影響はさらにヨーロッパ諸国にも波及するだろう」と推測している。その根拠として、欧州中央銀行(ECB)のボードメンバーが「米中貿易戦争の脅威が貸出金利の上昇と株価押し下げをもたらしている」と述べたことを紹介。同記事によれば、経済コンサルティング会社のオックスフォード・エコノミクスは「本当の危機は米国が中国の家電をターゲットにした時だろう。進行している小競り合いがコントロールできなくなったら、世界全体として大きく成長が妨げられる」と警鐘を鳴らしている。
一方で同記事内の論者は「すべての国が敗者になるわけではない」と口をそろえている。大豆を例とすれば、米国からの輸出減に伴って中国は中南米の大豆で代替するだろうと指摘。さらに中東も恩恵を受けると推測した。理由としては米国の化石燃料に対し中国が関税を課することで、中東が今まで以上に大きなシェアを獲得すると考えられること。ポリエチレンについても、米国製品に中国が課税するならば、中近東への依存が強まると分析している。
【ワシントン・ポスト】漁夫の利を得るのはブラジル
同様の論調は4月10日の米ワシントン・ポストの記事にも見られる。同紙は大豆産地として知られる米中西部が打撃を受ける可能性にふれた上で、中国がブラジルで大豆など農作物の物流インフラに巨額の資本を投じている現況を指摘。「米中貿易競争で勝者となるのはブラジルだろう」とコメントしている。
【BBC】 両国の「小競り合い」であり、極端な悲観論に傾くべき理由は乏しい
英BBCは4月13日、両国の貿易制裁措置を「2大経済大国間の小競り合い」とし、全面的な貿易戦争に発展する「最初の一撃」であると評した。現段階では、鉄鋼やアルミニウムなど措置の影響を受ける貿易額はごくわずかであると試算している。もっとも一昨年の2国間貿易で米国が中国に対し3470億ドルの赤字だったことを説明し、米国内にくすぶる不満が技術や著作権といった米知的財産権の追加関税の提案につながったと分析。この提案が実際に大きな影響を及ぼすおそれはあるとコメントした。
しかし、BBCは米国も中国も紛争激化のリスクを軽減するため、世界貿易機関(WTO)の手続きを利用していることに着目。「(両国とも)ルールに基づくシステムに、いくらかの価値を認めている」と評価した。そのうえで、現在のところ「打撃はそれほど深刻ではない」とし、「金融市場の比較的穏やかな反応は、投資家が全面的な貿易戦争回避の見込みがあると考えていることを示唆するものである」としめくくっている。
<参照記事>
http://money.cnn.com/2018/04/1...
https://www.washingtonpost.com...
http://www.bbc.com/news/busine...
文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部