2021年度税制改正に向けた政府・与党の論議が活発化している。新型コロナウイルス感染拡大による急速な経済悪化への対応が焦点で、ポストコロナ社会を見据えた措置も求められる。こうした状況を背景に、経済産業省は2020年度税制改正で見送られた自社株対価M&Aの税優遇拡充を改めて要望しており、論議の行方が注目される。
自社株対価M&Aは買収会社が手元の買収資金を調達せずとも買収対象の会社(対象会社)の株式を取得することが可能で、対象会社の株主が買収会社の株式を保有することで買収に伴うシナジー効果を享受できる。欧米の大規模なM&Aでは現金対価より株式対価が用いられる場合が多い。
日本でも自社株対価M&Aが促進されれば、大規模な事業再編の促進や企業の収益性・生産性向上に資することが期待されるが、自社株対価M&Aに応じた株主の株式譲渡益などへの課税がネックとされている。
2020年度税制改正では、経産省が自社株対価M&Aにかかる課税繰延措置の導入を要望。政府・与党の税制調査会は「事務方間で詰め切っていない」として税制支援を見送ったが、引き続き検討する事項として残された。
一方、米国ではトランプ大統領が2020年3月の記者会見で、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)で経営難に陥った企業への財政支援をめぐり「自社株買いを実施してほしくない」と言及。政府の支援資金については「従業員のために使われるべきだ」と主張し、株主や経営陣に還元されることを禁じる条件をつけるよう主張した。
コロナ禍による経済の先行き不透明感が強まる中、米企業も貴重な手元資金を温存しようと自社株買いを抑制。米S&P500種の構成企業における2020年4~6月期の自社株買いは8年ぶりの低水準で、前年同期と比べてほぼ半減した。
とは言え、米国では自社株買いがマーケットを押し上げてきた側面が否めない。株価の下支え役が不在となる状況が長引けば、景気への悪影響が懸念されそうだ。
こうした中、バイデン次期米大統領がトランプ氏の方針を覆す方向に舵を切るのかが注目される。先の大統領選では、コロナ禍で打撃を受けた経済の立て直しを最優先する姿勢を打ち出した。
米連邦準備理事会(FRB)は国内の大手銀行に対して2020年末まで、自社株買いと増配を禁止している。ただし年明け後の対応は、年内に実施するストレステスト(健全性審査)の結果を基に、金融機関の財務に与える景気後退などの影響を見極めて判断することにしている。
2021年度の与党税制改正大綱は12月10日ごろまとめられる見通し。自社株対価M&Aの税優遇拡充をめぐっては、日本経済団体連合会も産業競争力強化法における「特別事業再編計画」の認定要件廃止や繰延措置の恒久化などを提言している。
文:M&A Online編集部
関連リンク:令和3年度経済産業省税制改正要望について
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