1979年から「ビッグコミックオリジナル」で連載中の長寿マンガ「釣りバカ日誌」。社長と平社員という身分の違いはあれど、釣りという共通の趣味で結ばれたスーさんとハマちゃんの友情を軸に、さまざまなドタバタ劇が繰り広げられる。映画やテレビドラマ化など映像化もされ、多くの人が一度は読んだり、見たりしたことがあるはずだ。そんな、もはや国民的マンガともいえる「釣りバカ」にもM&Aが度々登場するのをご存知だろうか?
グローバル化が押し進む中、ハマちゃんこと浜崎伝助が勤める、鈴木建設の子会社「鈴建リース」に米国の建設会社「マース・コーポ」からM&Aの話が舞い込む。
社長秘書として交渉の場に同席することになったハマちゃん。まずは、先方から対等な合併を行い、新会社を設立したいという提案を受け、合併の条件などが提示される。
マース・コーポからの提案条件 | |
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出資比率 | 鈴建リース社56%、鈴建本社44% →鈴建リース28%、マース・コーポ28%、鈴建本社44%とする |
株式譲渡価格 | 一株240円とする |
これに対し、ハマちゃんたちはM&A後の人事などのアフターM&Aについてや、株式譲渡の方法、価格の交渉をしていく。
最初にマース・コーポ側が提示した買値は、交渉時点での株価と同額。これは鈴建リース側にとっては当然のことながら魅力的ではない。そこで10日後に行われた2度目の交渉時にその点を問うのだが、マース・コーポ側の代表は鈴建リースが信用できるかどうかを試していたと言い、実際のところは480円という倍の買値を考えていると打ち明ける。
情報の漏洩は双方の株価にすぐに影響を与えるからだ。M&A交渉のセンシティブさが実感できるエピソードになっている。
佐々木常務が仕切る開発事業室では、他事業との業務提携なども含めた市場リサーチも担当することに。トップであるスーさんが静養中の間に、鈴建の株価は少しずつ上がる動きを見せていた。外資のハゲタカファンドが鈴建を狙っているという情報を耳にした佐々木常務は、開発事業室の総力を上げて情報収集をするが、大した情報は集まらず、株価の伸びは景気回復と鈴建の将来性を見据えたものによるものと判断。ところが、米国のコングロマリット「イカルス」からTOBを仕掛けられることになってしまう。イカルスは、買い付け価格700円で2ヶ月の間に51%の株式取得を目指すと宣言。
個人株主をはじめ、生保および投資信託、取引先が持つ株をどちらが多く確保できるかが、このTOB合戦のポイントだ。そうこうしているうちに、1ヶ月も経たないうちにイカルスの持ち株は40%となり、この戦いの行方は鈴木建設の系列会社で大口株主でもある和気総業会長の未亡人、静さんの動向に委ねられた。そこで釣り仲間として故・和気総業会長にも、会長夫人にもかわいがられていたハマちゃんの出番となる。
金か情か。鈴建の存亡を左右する一大事なのだが、巡り巡っていく株券の行方にハマちゃんたちが翻弄される姿には思わず笑ってしまうはずだ。
「釣りバカ」にM&A関連の話が出てくるのも、時代の流れを反映してのものだろう。とはいえ、こうしたマンガの中でもまだまだ「M&A=ハゲタカ」という扱いになりがちなのは否めない。「その方がドラマがあるから」といえばそれまでだが、M&Aに対する理解が一般的に深まっていけば、そのうち当然のようにマンガの中でもM&Aが企業戦略の一つとしてポジティブに描かれる日がやってくるはずだ。
文:M&A Onlline編集部