衆院選は自民党ではなく「宏池会」の勝利、経済対策に期待広がる

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「良くて20議席減、下手をすると40議席以上減らして自民党の単独過半数割れ」とまで言われた10月31日投開票の衆院選だったが、ふたを開けてみると自民党が衆院の常任委員会の委員長ポストを独占し、各委員会で過半数の委員を確保できる絶対安定多数の261議席をギリギリながら単独で確保した。これは自民党ではなく、岸田文雄首相が率いる宏池会の勝利だ。

自民党内で宏池会の影響力が向上

最初に断っておくが、「宏池会の勝利」とは「宏池会だから選挙に勝った」とか「宏池会が議席を増やした」という意味ではない。選挙の結果、自民党内のパワーバランスで宏池会の影響力が大幅に増したということだ。

宏池会は改選前から5議席減らした41議席で、同じく10議席減らして37議席にとどまった二階俊博前幹事長が率いる志帥会を抜いて党内4位の派閥となった。とはいえ、最大派閥で安倍晋三元首相が所属する清和政策研究会(細田派)の半分にも達していない。

開票終了時の自民党の派閥情勢

正式名称 派閥名 議席数 改選前議席数 議席数増減 議席シェア 改選前議席シェア シェア増減
清和政策研究会 細田派 89 97 -8 34.1% 35.1% -1.0%
志公会 麻生派 48 53 -5 18.4% 19.2% -0.8%
平成研究会 旧竹下派 46 54 -8 17.6% 19.6% -1.9%
宏池会 岸田派 41 46 -5 15.7% 16.7% -1.0%
志帥会 二階派 37 47 -10 14.2% 17.0% -2.9%
水月会 石破派 13 16 -3 5.0% 5.8% -0.8%
近未来政治研究会 石原派 6 10 -4 2.3% 3.6% -1.3%
自民党獲得議席数 261 276 -15

後退する安倍・麻生両元首相の発言力

それでも自身が小選挙区で落選した甘利明幹事長の後任に、安倍元首相に近い高市早苗政調会長や志公会(麻生派)の河野太郎広報本部長を推す声があったものの、岸田首相は平成研究会(旧竹下派)の茂木敏充外務大臣を充てる方針を固めた。玉突き人事となる重要閣僚の外相には、宏池会所属で「首相を目指す」と公言している林芳正元文部科学相の就任が有力視されている。

林氏と言えば、ほんの数カ月前までは志帥会が党公認候補として推していた河村建夫元官房長官と同じ衆院山口3区で無所属での立候補も辞さない構えで二階前幹事長を激怒させた。しかし、菅義偉前首相による事実上の更迭で二階幹事長の影響力が急速に低下。林氏が党の公認を勝ち取って、参議院からの鞍(くら)替え当選を果たした。

話はそれだけでは済まない。6月に総務省が国勢調査の結果から試算した小選挙区の割り振りによると、山口県は現在の4区から3区へ減少する。山口県では3区と4区の合区もありうる。そうなると3区で当選を果たした林氏と4区を地盤とする安倍前首相が、党の公認を巡って争うことになる。

山口4区は下関市と長門市。かつて安倍家は長門市、林家は下関市を地盤としていた。人口は下関市が県下最大の25万6000人なのに対して、長門市はわずか3万2000人。地元では3区と4区が合区された場合は、東京大学進学まで下関市で育ち、地縁もある林氏が有利との見方が根強い。

さらに安倍元首相は首相に2度も就任した「過去の人」なのに対し、林氏は年齢も若く首相を目指す「次世代の人」だけに勢いもある。

安倍前首相はそうした選挙区事情もあり、林氏を牽制するために高市政調会長を幹事長にコンバートさせるべく甘利幹事長の辞意表明直後から働きかけたようだが、岸田首相が受け入れなかったと見られる。一方、麻生太郎副総裁は林氏と同じく首相を目指している河野太郎広報本部長の幹事長就任に動いたようだが、これも叶わなかったようだ。

30年ぶりに「経済に強い」政権が誕生

発足当時は安倍元首相や麻生副総裁の支持を得るために汲々としていた岸田首相だが、衆院選の善戦で状況は一変した。二階前幹事長の事実上の失脚に加えて、甘利幹事長の辞任に伴う3A(安倍・麻生・甘利)の発言力低下で、2012年12月の政権奪還以来続いた自民党の「安倍・麻生・二階時代」が終わり、宮沢喜一政権(在1991年11月~1993年8月)以来の新たな「宏池会時代」に入ることになる。

予想外の善戦で自民党は「宏池会の時代」へ(自民党ホームページより)

宏池会は保守本流の一角で、創立者の池田勇人元首相が「所得倍増計画」を成功させたこともあり、経済政策に力を入れてきた派閥だ。通商関係を重視するため外交や安全保障政策は穏健派で、歴史認識問題などで右傾化傾向が強かった安倍政権よりもリベラルだ。

そのため立憲民主党などのリベラル野党が政策で差別化できなかったため埋没し、右傾化傾向が強い日本維新の会が議席を増やした可能性もある。

衆院選の投開票日から一夜明けた11月1日の日経平均株価は、先週末の終値から一時、700円以上値上がりした。岸田首相が総裁選で勝利した9月29日に、日本銀行がほぼ3カ月ぶりとなる上場投資信託(ETF)買い入れで701億円を投入したにもかかわらず、同639円67銭(2.12%)安の2万9544円29銭に急落したのと対照的だ。

これは衆院選での善戦と党内旧体制の影響力低下により、岸田首相が党内の実力者から横やりを入れられることなく、フリーハンドで景気対策を打ち出せるとの期待が高まっているのかもしれない。

岸田首相は11月1日の記者会見で大型経済対策を同月半ばまでに策定し、年内のできるだけ早期に補正予算を成立させる方針を示した。「GoToトラベル」の再開や生活困窮者への給付金などの「成長と分配」を意識した施策も盛り込まれる見通しだ。

10月に設置した「新しい資本主義実現会議」での議論が、岸田政権が推進する景気対策の指針となりそうだ。同会議は11月上旬に経済対策に反映させる緊急提言を出すとともに、2022年春までに新たな経済社会の全体像をまとめる方針だ。

会議の有識者メンバーは以下の通り。翁百合日本総合研究所理事長、川邊健太郎 Zホールディングス社長、櫻田謙悟経済同友会代表幹事、澤田 拓子塩野義製薬取締役副社長、渋澤健シブサワ・アンド・カンパニー社長、諏訪貴子ダイヤ精機社長、十倉雅和日本経済団体連合会会長、冨山和彦経営共創基盤グループ会長、平野未来シナモン社長、松尾豊東京大学大学院工学系研究科教授、三村明夫日本商工会議所会頭、村上由美子 MPower Partners GP, Limited. ゼネラル・パートナー、米良はるかREADYFOR CEO、柳川範之東京大学大学院経済学研究科教授、芳野友子日本労働組合総連合会会長

文:M&A Online編集部


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