金利上昇容認も円安進行で見えた「1ドル=200円」への道

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「円安に打つ手なし」となりつつある日銀の植田総裁(Photo By Reuters)

日銀が10月31日に金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の上方修正を決めたにもかかわらず、円安が進んでいる。通貨信用下落の影響は大きい。市場の信用を失った韓国ウォンは、2008年に45%も下落した。日銀の円高誘導にもかかわらず1ドル=150円の壁を超えたままの状態になったことで、状況によっては1ドル=200円の大台を超える想定外の円安に陥る可能性も出てきた。

「利上げ表明」にもかかわらず円安進行の衝撃

日銀は長期金利の事実上の上限だった1%を一定程度上回ることを容認したが、為替市場は思惑通りに動かなかった。これは円の信用が大きく低下したことを意味する。日銀は今年7月のYCC上方修正後も円安が止まらないことについて、「米国の金利上昇が予想以上だった」(植田和男総裁)と日米の金利格差が大きいことをあげている。しかし、事態はそう簡単ではなさそうだ。

2022年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻や今年10月のパレスチナ・イスラエル戦争でも円高には転じておらず、「有事の円」神話も崩壊している。外国為替市場での日本円の地位も安泰ではない。BISサーベイによると、日本為替市場の世界シェアは2010年の6.2%から2022年には4.4%まで低下した。

円の通貨取引シェアも2019年から2022年までの3年間に8.4%から8.3%へダウンし、下げ止まる気配がない。これに対して、中国元のシェアは同期間に2.2%から3.5%に急増。アジアの基軸通貨としての日本円の地位も危うくなりつつある。

積み上がる「円安リスク」

さらに今後も円安のリスクが顕在化しそうだ。第一に岸田政権の所得減税に伴う財政規律への不安だ。2022年10月に英国のトラス首相(当時)が5年間で約450億ポンド(約8兆1500億円)の大型減税案を発表すると、財政悪化懸念から英ポンドが暴落した。

2023年の債務残高はGDP比で日本は258.2%と英国の106.2%を大きく上回る。財政悪化が市場で懸念されれば、英国どころではない通貨安に陥りかねない。「日本国債は日本国民が購入しているから問題ない」との意見も根強いが、日本の国家債務は2023年度末には1068兆円、一方で2023年6月末時点での国民金融資産は過去最高の2115兆円となり、資産が債務を大きく上回っていいる。

だが、その約半分が株式や投資信託、保険などで、流動性が高い現預金は1117兆円と国家債務と同水準に。国家債務が国民の現預金を上回った場合、為替市場が「危険水準に入った」と警戒して円が暴落する懸念もある。

そうでなくてもYCCで国債を買い支えた結果、6月末の国庫短期証券を除く国債・財投債の日銀の保有比率は53.24%と過半数を占める。長期デフレだった日本も円安に伴う物価高が進んでおり、インフレ抑制のための利上げが避けられない。現状で国債価格が下落すれば金融システムが不安定化するため、日銀もおいそれと利上げはできない。過大な政府債務により、中央銀行の物価安定能力が成約される「フィスカル・ドミナンス」に陥りかねない状況だ

中期的には自動車産業の不透明感も円安要因となる。2021年の国内製造品出荷額のうち、自動車は56兆3679億円と全体の17.1%を占める。しかし、日本車メーカーは電気自動車(EV)シフトに乗り遅れ、EVが新車販売の4分の1を占める中国自動車市場で大幅に販売が落ち込んだ。昨年までは疑問視していた市場も、今やEVシフトは当然の流れと織り込んでいる。外貨獲得の稼ぎ頭だった自動車産業の海外市場での販売が落ち込めば、円安もさらに加速する。

さまざまな要素から見ても円安が進むことはあっても、円高に転じることはなさそうだ。物価高が円安を招き、円安がさらなる物価高を招くという「悪循環」が日本経済を直撃するリスクが高まっている。

文:M&A Online

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