事業売却を進めていた「武田薬品」が一転 企業買収を加速

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アイルランドの製薬会社シャイアーの買収で膨らんだ借入金の返済のために非中核事業の売却を進めてきた武田薬品工業<4502>が、中核事業と位置付ける、がん領域で企業買収を加速している。

同社は2022年1月10日に、免疫細胞の一種である「ガンマ・デルタT細胞」を用いた、がん治療薬を開発中の英国のバイオベンチャー・アダプテート・バイオセラピューティクスの買収を発表した。

これに先立つ2021年10月には同じガンマ・デルタT細胞の特性の探索に特化した企業である英国のガンマデルタ・セラピューティクスの買収を公表している。

武田薬品では、両社の技術に武田薬品の研究開発組織を組み合わせることで「ガンマ・デルタT細胞に関する最先端研究を進める」としている。ガンマ・デルタT細胞とはどのようなものなのか。

がんを効果的に攻撃する「ガンマ・デルタT細胞」

がん細胞などを殺傷できるT細胞の中に、微量に含まれているのがガンマ・デルタT細胞で、的確にがん細胞を見つけ出し、高い殺傷力でがん細胞を破壊してしまう力を持つ。微量なため利用するのが難しかったが技術の進歩とともに、がんを効果的に攻撃する技術として注目を集めるようになってきた。

アダプテート社は、遺伝子組み換え技術を用いて、がん細胞だけを効果的に攻撃し、健康な細胞を傷つけないように設計したガンマ・デルタT細胞を開発しており、人に投与する臨床試験の前段階の実験に取り組んでいる。

ガンマデルタ社はガンマ・デルタT細胞を利用した細胞療法の開発に取り組んでおり、2017年に武田薬品と業務提携し、共同開発を進めていた。

アダプテート社は、2019年に ガンマデルタ社から分離して設立された企業で、武田薬品も出資している。武田薬品による両社の買収は2022年6月までに完了する予定だ。

武田薬品は2021年3月に、T細胞を活用した、がん治療法を開発している米国のバイオベンチャー・マーベリック・セラピューティクスを買収しており、今回のアダプテート社の買収は、マーベリック社の研究を補完する狙いもあるという。

軸足は買収に

武田薬品は2018年に、日本最高額となるシャイアーの買収を発表したあと、売却総額1兆円を目標に、大阪本社など不動産事業の売却や、一般医薬品の武田コンシューマーヘルスケアの売却、2型糖尿病治療薬4製品の製造販売承認の売却などに取り組んできた。

すでに目標の1兆円は超えており、今回のがん領域のベンチャ―買収を境に、今後は売却から買収に軸足が移りそうだ。

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文:M&A Online編集部