サントリー食品インターナショナル株式会社(以下、サントリー)<2587>がフランスやスペインで長く愛され続けてきた果汁入り炭酸飲料『オランジーナ』(Orangina Schweppes Group)を買収したのは、2009年のことだ。
『オランジーナ』は、ヨーロッパをはじめ世界約60か国で販売されている欧州では有名な飲料ブランドだが、日本ではそれまで馴染みがあったとはいいがたい。買収に要した金額は3,000億円を越えた。同業他社と比較しても、1980年代からM&A戦略には前向きだったサントリーにとっても大型の買収となり、当時、大いに注目を集めた。
『オランジーナ』は快進撃を続けた。買収した翌年の2010年は1,200億円を超える売上規模。サントリー食品インターナショナルでも「2011年は主要ブランドへの積極的なマーケティング投資によるブランド力強化に注力し、『オランジーナ』に関しては売上高1,429億円をする」としている(2011年事業方針より)。
実際、発売後1か月後には当初計画の200万ケースを突破し、発売約3か月後には400万ケースを超えた。そのため、2011年の販売計画を、当初計画の4倍にあたる800万ケースに上方修正している。
サントリー食品インターナショナルでは、とかく「炭酸飲料」から離れがちだった30代以上の“大人世代”のユーザーも獲得したことが、好調要因であると分析している。
その証左として、料飲店での取扱いも進んだ。2012年で、取扱店舗数は約1,500店を数えた。『オランジーナ』としてそのまま飲用するだけではなく、『オランジーナ』を使ったカクテルとして多くの消費者に楽しまれた。
そのサントリー食品インターナショナルが『オランジーナ』の国内での生産・販売に踏み切ったのは買収から3年後、2012年のこと。日本ではペットボトルと缶の2種類を展開し、420mlペットボトルは、フランスで親しまれている丸みを帯びた瓶(フランスでは「バルビーボトル」という)をモチーフに開発した日本独自の容器だった。
実は、そのような海外グループ会社の清涼飲料ブランドを国内で生産販売する展開は、サントリー食品インターナショナルとしても初の試みだった。その意気込みを示すように、同社では、「日本・アジア・欧州・オセアニアのグループ会社間のシナジーを図ることで、グローバル戦略をいっそう加速させる」としている。
たしかに、国内生産・販売にともなってスタートしたリチャード・ギアが「フーテンの寅」に扮したテレビCMも注目を集めた。アジアでの展開でもサントリーの100%子会社であるサントリー食品アジア社が、2012年にインドのナラン・コネクト社と「サントリーナラン」社を設立する。サントリー食品アジア社がインドのナラン・コネクト社の株式を51%取得して設立した合弁会社だ。
サントリーナラン社は、アジアの巨大マーケットであるインドにおいて『オランジーナ』を販売する。サントリー食品インターナショナルでは、「ナラン・グループのインドにおけるマーケティング力や販売網と、サントリーグループの持つ商品開発力、生産技術力とのシナジー効果を発揮することで、インドでの積極的な事業展開を図る」とした。
ところが、現在は2016年実績が1,120万ケース(前年比85%)、2017年計画が1,020万ケース(前年比91%)と、市場に浸透するにつれて、成長率は鈍化し、ここにきて伸び悩みを見せているのも事実。ボストン・コンサルティング・グループが考案したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント戦略(PPM)における「金のなる木」になったということができるだろうか。
「金のなる木」では「市場成長率が期待できないため、その商品・事業の投資を必要最小限に抑えるとともにキャッシュを回収し、他の事業を”花形事業”に育てるための資金源とする必要がある」としている。
そのような意図があるかどうかは定かではないが、サントリー食品インターナショナルでは、この11月7日から期間限定で、『オランジーナ カシスオレンジ』(写真)を発売する。「オレンジピールエキスの爽やかさと、カシスの華やかで深みのある味わいで、大人のパーティーシーンを盛り上げる冬期限定の商品」という。
オレンジを中心に、レモン、マンダリンオレンジ、カシスといった5種類の果汁をブレンドすることで、華やかかつ複雑な味わいに仕上げた商品。パッケージは、フランス人アーティストのヴァージニー モーガンによる描きおろしのデザインラベルを採用した。
「期間限定商品」の販売などの戦略が、市場に浸透した『オランジーナ』の新たな起爆剤となるか。むしろ『オランジーナ』ブランドの深耕をめざすだけでなく、“大人の炭酸飲料”市場全体の深耕を図る意図もありそうだ。
文:M&A Online編集部