「GoToトラベル再開」で観光関連株値上がり、リスクは?

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観光業者は「GoTo トラベル再開」に期待する(写真はイメージ)

岸田文雄首相が「GoTo トラベル」の再開を約束し、観光関連株が急騰している。2021年10月11日の取引開始直後に日本航空<9201>は前日終値比18円高の2535円、ANAホールディングス<9202>は同28円50銭高の2747円50銭、エイチ・アイ・エス<9603>は同50円高の2672円、藤田観光<9722>は同11円高の2526円で、それぞれ寄り付いた。この株高はどこまで続くのか?そして「GoTo トラベル」再開にリスクはないのだろうか?

「GoTo トラベル」再び

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5回にわたる大流行で、観光業界も大きな打撃を受けた。帝国データバンクの調査によると、コロナ禍によるホテル・旅館(112件)や旅行業(29件)など観光関連の倒産は206件と、飲食店の369件、建設・工事業の220件に次ぐ。

2020年7月に1兆6794億円の予算が投入され旅費の一部を補助する「GoTo トラベル」キャンペーンが始まったものの、新型コロナの感染再拡大で同12月に中断されたままだ。岸田首相は2021年10月4日の就任会見で「大型で思い切った経済対策を実現したい」と表明し、観光など分野別専門会議の設置をはじめとする「GoTo トラベル」復活に向けた準備を進めると表明した。

GoToトラベルが復活すれば観光関連企業の業績も上向きに転じるだけに、業界の期待も大きい。しかし、リスクもある。

リスク1 コロナ禍の再拡大

第1のリスクは前回の「GoTo トラベル」で問題となった、コロナ感染の再拡大だ。政府は因果関係を否定しているが、前回の「GoTo トラベル」で東京や大阪などの大都市圏から地方へコロナ感染が拡大したと言われている。

日本のワクチン接種率はすでに60%を超えており、前回キャンペーン時よりも影響は小さいと予想される。岸田首相はワクチン接種証明書や陰性証明の提示で割引率をアップする「GoTo 2.0」を提唱。新型コロナの再拡大を抑えつつ、観光需要を引き上げる方針だ。

しかし、ワクチンを接種したにもかかわらず新型コロナに感染する「ブレークスルー感染」が多発。日本よりも早くワクチン接種が進んだ国でも、未接種者を中心に感染爆発が起こった。接種証明書だけでは「GoTo トラベル」による感染拡大を防げない可能性もある。

さらに、陰性を証明するための検査は面倒な上に旅行直前でなければ意味がなく、陽性だった場合は予約をキャンセルしなくてはならない。こうした使い勝手の悪さから、誰でも手軽に利用できた前回の「GoTo トラベル」よりも利用者が減少する懸念がある。

リスク2 「コロナ後」の行動変容

コロナ禍で消費者の行動が変わり、旅行需要は元に戻らないのではないかとの指摘もある。最も懸念されるのは2019年度に全旅行市場の17%を占め、個人需要に比べて利益率が高い法人需要の回復だ。

2020年度の法人税は11兆2000億円と想定よりも3兆2000億円、前年度を4000億円ほど上回った。コロナ禍にもかかわらず、企業の増益決算が増えたためだ。その理由として企業の販売管理費の削減があり、これに出張の交通費や宿泊費といった旅費交通費も含まれる。コロナ禍で出張を中止したが、売り上げや業務遂行への支障がなかった企業も少なくない。

こうした企業では「コロナ後」も出張を増やさない可能性が高い。「GoTo トラベル」で個人需要が増加しても、利益率の高い法人需要が持ち直さない限り、旅行事業者の業績は厳しい状況が続きそうだ。

リスク3 企業間格差の拡大

前回の「GoTo トラベル」では上限はあるものの、旅行代金の35%を割り引き、観光地の飲食店や土産物店で利用できる15%分の割引クーポン券を付与した。その結果、個人客が「高い料金の宿を使ったほうがお得」とばかりに高級旅館やホテルに殺到。コロナ禍で経営が厳しい中小の宿泊施設に恩恵がなかったとの指摘もあった。

岸田総理は「GoTo 2.0」で中小宿泊施設の割引率を引き上げるなどの優遇策を検討している。しかし、割引率は引き上げられても、割引額そのものは高級旅館やホテルの方が大きい。「せっかく割引があるのだから、高級宿に泊まろう」と考える消費者も多いだろう。

さらに、広告宣伝やキャンペーンなどの販売促進費も大手の方が潤沢にある。経営が厳しい中小旅行業者にとって、「GoTo トラベル」が十分な救済策になるどうかは制度設計次第だ。よほど中小宿泊施設に有利な条件にしない限り、大手と中小の観光業者間で格差が拡大することになるだろう。

文:M&A Online編集部