【企業力分析】ワタミ 強烈な個性の創業者

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画像はイメージです。

 今回は、ワタミ<7522>を分析してみることにする。ワタミは、創業者である渡邉美樹氏の思いを大切に社員全員が「地球上で 一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」というスローガンのもと、外食・介護 ・宅食・農業・環境事業に取り組んでいる。
(編集部注:ワタミは、2015年10月2日100%子会社で介護付有料老人ホーム事業などを展開するワタミの介護を損保ジャパン日本興亜ホールディングスへ株式譲渡する「株式譲渡契約書」を締結したことを発表した。)
 
 2006年から15年3月期までの連結財務諸表10年分を分析する。

 企業力総合評価は、109.23P⇒101.06P⇒105.34P⇒104.21P⇒103.98P⇒101.09P⇒101.89P⇒97.05P⇒73.01P⇒30.18P
と推移している。14年急激に悪化したが、それまでもギリギリ100Pであったので、長期的に経営は良くはなかった。14年に悪化成り行き倍率1年(前年97.05Pで14年は73.01Pでその差24.04P悪化。14年は破綻懸念60Pまで13.01Pしかなく、来期同じトレンドで悪化すると、後1年で破綻懸念へ突入する。)の指摘どおり、15年破綻懸念領域に入ってしまった。

 企業力総合評価と下位各親指標を俯瞰してみると、ほとんどの親指標が赤信号領域や、赤信号への悪化であるのに、資産効率は悪化してきたとはいえ、青信号領域にとどまっている。この組み合わせは、売上高至上主義の企業によく現れる組み合わせである。以前、創業者の渡邉美樹氏が「売上高1兆円を目指す」と宣言したことを思い出すが、SPLENDID21の分析の面白さがここにある。このグラフ群は決算書と従業員数だけの完全な定量分析である。しかし、その結果は、「売上高至上主義」という経営者の性質が読める。06年82,672百万円の売上高は14年163,155百万円のピークだった。

 営業効率(もうかるか)・資本効率(株主評価)は14年赤青ゼロ判別、15年は完全に赤信号領域に突入し、12,857百万円の当期損失を計上した。
       

 生産効率(人材の利用度)は10年間ずっと赤信号領域である。生産効率の主要指標は、1人当たりの売上高で、15年7,245千円であった(売上高を期末従業員数で除して計算)。1人当たりの売上高が低ければ、その範囲でしか給料が払えず労働条件が厳しくなる。

 資産効率(資産の利用度)は、資産を使っていかに効率的に売り上げを上げたかの指標である。売上高を必死に上げようとすれば、資産合計も増えてしまう。売上高以上に資産合計が増加しているのである。ただし、売上高増加の努力が実を結び、赤信号領域まで落ちていない。

 流動性(短期資金繰り)は、9年連続赤信号領域である。

 安全性(長期資金繰り)は、15年は、ほぼ底値となった。安全性は主に資産合計と純資産合計の関係である(自己資本比率=純資産合計÷資産合計×100)で、資産効率に指摘したとおり資産合計が増加しているため、純資産合計を増やすこと、つまり利益を積み上げなければならない。純資産を上げるには利益以外には増資をすれば改善するが、過去10年ワタミは増資していない。売上高増加で総資産合計が大きくなる速度に利益が追い付かず、加えて14年、15年は赤字に。さらに、増資もないため、純資産合計と総資産合計のバランスが崩れたと言える。ここでも売上高至上主義のホコロビが見える。

 安全性の各下位指標を見てみよう。
                                

 固定比率は、固定資産合計÷純資産合計、固定長期適合比率は、固定資産合計÷(固定負債合計+純資産合計)である。
上記で説明した売り上げが上がると総資産合計が増えるが、その内訳である固定資産も当然増える。店舗や工場などを購入するためである。固定比率は06年242.31%から15年1113.71%で純資産合計の増加をはるかにしのぐ勢いで固定資産が増加したことを示す。

 固定長期適合比率は06年94.52%から15年127.88%であるから、固定比率ほど増加しない。これは、分母の固定負債合計の増加が原因である。固定負債合計の多くが長期借入金、社債、リース債務などだ。利益で賄えず、増資をしないため純資産が増えず、借金で賄っている事が読み取れる。

 同じ売上高を増加させる企業でも、十分な利益と増資のランスをとっているアークランドサービス(とんかつ「かつや」)は成長しているグラフになる。売上高は、11年9,697百万円から15年17,623百万円と強烈な増収である点、資産効率の形状もワタミと同じであることを確認いただきたい。

<まとめ>
 売上高の目標は多くの人にとって分かりやすく、明るい希望を感じさせるため、掲げる価値は十分にある。しかし、陰で経営者は、売り上げと資産、資産と純資産の関係を理解し、時系列も含めバランスを取らなければならない。数字を読めていればこのような分析結果にはならないだろう。

文:株式会社SPLENDID21 代表取締役社長 山本純子