ソフトバンクグループ<9984>(以下:SBG)が、ヤフー<4689>の株式を売却し、ソフトバンク<9434>(以下:SBKK)がヤフーの増資を引き受けて連結子会社化しました。SBGは株式の売却で5265億円を調達することとなります。
変わっているのは、そのスキーム。ヤフーはSBGが保有する株式をTOBで買い付け、SBKKに第三者割当増資を実施して新株を発行しています。なぜ、SBGはSBKKに直接株式を売却しなかったのでしょうか。
そこには、SBGがSBKKから資金を吸い上げるという批判をかわすこと以上の深い理由がありました。
ヤフー株は250円から350円の間を行ったり来たりする、典型的な低位株です。2020年3月期の売上高は1兆100億円(前期比5.8%増)、営業利益は1453億円(3.4%増)と、業績は決して悪くはありません。成長性に乏しいと見られているのです。
SBGがヤフー株を売却したのは、投資家・孫正義氏らしい判断といえます。ヤフーをSBKKに付け替えた理由は、大きく2つあると考えられます。
1.SBGの資金調達と成長株への投資
2.SBKKの業績を急膨張させる
SBGは100%子会社のソフトバンクグループジャパンを通じて、ヤフーの株式を36%保有していました。今回は持株全てを売却します。
SBGは、さっそく決済プラットフォームのPayPayに460億円の追加出資を決めています。低位株を売って高成長株を買っており、華麗な投資術というほかありません。
更に、ヤフーを付け替えることで、株価が一度も公募価格1500円を上回らないSBKKを、泥沼から救済するという面もあります。
同社は2019年3月期の売上高が前期比4.6%増の3兆7463億円、営業利益が12.8%増の7194億5900万円でした。今回、ヤフーを連結子会社化したことにより、2020年3月期の売上高は28.1%増の4兆8000億円、営業利益は23.7%増の8900億円と急膨張することになります。ヤフーが”お化粧”となるのです。
今回の再編のわかりづらさは、ヤフーがSBGにTOBを実施し、更にSBKKに新株を発行していることにあります。なぜ、SBGがSBKKに直接ヤフー株を売却しなかったのでしょうか?
理由は3つあります。
1.SBGがSBKKから直接資金を調達することの批判回避
2.ヤフーの自社株買いによる既存株主への配慮
3.節税
SBGが直接ヤフー株をSBKKに売却すれば、子会社をATMにするなという、凄まじい批判が飛ぶことは間違いありません。従って、そのスキームは絶対に組めません。
そこで、ヤフーがSBGにTOBを実施する形にしたのです。買い付け価格は1株287円。発表があった前日の終値が302円ですので、SBGは市場よりも低い価格で売却したことになります。それにより、「ヤフーを子会社に高く売りつけた」といった批判を受けずに済みます。
さらに、ヤフーの株主にも配慮をしました。ヤフーがSBKKに実施する第三者割当増資の1株価格は302円です。SBGがヤフーに売却する株数は18億3400万株。SBKKが引き受ける株数は15億1100万株。すなわち、今回の付け替えスキームによりヤフーの自社株買いが行われ、グループ内の株式が18%引き締められたのです。
自社株買いは、株価の重要指数であるPERを割安水準に押し下げる効果があります。PERは株価の割安性を判断するものです。株価を1株当たりの利益で割って算出します。1株利益で算出するので、株数が引き締められると、1株当たりの利益が膨らんでPERが下がります。それが割安と判断されて、株価が上がる傾向があるのです。実際、ヤフーの株価は341円まで上昇しました。
こうして、ヤフーの既存株主もメリットを享受することができました。
そして節税のメリットも見逃せません。通常、ヤフー株を売却すると配当を受け取ることになり、課税対象となります。しかし、受取配当等の益金不算入制度により、3分の1超を保有するSBGは非課税になるのです。
節税効果によりSBG内部に資金が積み上がり、株主もそのメリットをうけることができる形に仕立てた、見事な手法です。
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