ストライク<6196>が主催するイベントが、2026年1月29日に開催された。今回のテーマは「成長戦略としての海外M&Aの実態 ~海外市場獲得への有力な一手~」。株式会社M&A戦略アドバイザーズ 代表取締役社長 兼 Managing Partnerの粟林稔氏が登壇し、モデレーターを株式会社ストライク クロスボーダーM&Aチーム 豊住孝文アドバイザーが務めた。
トークセッションは、多くの企業が海外M&Aに対して抱く「ハードルの高さ」についての言及から始まった。粟林氏は、その要因として「言葉の問題」「海外事業に適した人材の不足」「円安の弊害」の3点を挙げた。しかし、これらの課題を乗り越えてでも海外M&Aをめざす企業には、明確な目的があると指摘した。
粟林氏は、海外M&Aの目的は多岐にわたるが、そのすべてに共通する最も重要なことは「優秀な人材の獲得」であると断言した。事業がうまくいっている企業を買収すれば、優秀な経営陣やスタッフを一度に獲得できる。ゼロから事業を立ち上げることに比べ、人材獲得の面でM&Aは非常に有効な手段であると語った。これに対し豊住アドバイザーは、「買い手企業側で経営を担える人材がいない、という理由で案件が見送りになるケースが実際に多い」と補足した。粟林氏はさらに、自社にない優秀な人材を現地で獲得するためにM&Aを行うという視点が極めて重要だと強調した。
そのほか、買収後の統合プロセス(PMI)において日本企業が陥りがちな失敗例として、買収先の企業文化を無視し、日本のやり方を押し付けてしまうケースが挙げられる。粟林氏は、「買収先を支配するのではなく、対等なパートナーとして共に成長していく姿勢が不可欠だ」と述べた。現地の経営陣を信頼し、彼らが能力を最大限に発揮できる環境を整えることの重要性を強調。そのための具体的な方法として、取締役会の機能と会計監査の機能を活用し、ガバナンスを効かせつつも、日々の業務には過度に干渉しない姿勢が求められると語った。
日本と海外、特にアメリカでは物価や報酬水準が大きく異なる。「この違いを認識せず、日本の基準で現地の報酬を決めてしまうと、優秀な人材の流出につながりかねない」と粟林氏は指摘。豊住アドバイザーも、「アメリカでは、エントリーレベルでも日本円で1000万円を超える報酬は珍しくない」と実情に触れた。粟林氏は、現地の物価にスライドした報酬体系を許容する姿勢がなければ、優秀な人材は定着しないと警鐘を鳴らした。
上記のほか、セッションでは、実際のデータを基に近年の海外M&Aの動向が解説された。2024年の日本企業によるM&Aのうち、海外案件は件数ベースで約2割、金額ベースでは約7割を占め、特に米国企業との取引が金額の大部分を占めていることが示された。
粟林氏は、日本企業がクロスボーダーM&Aを進める上で直面する大きな課題として、「日本特有の意思決定プロセス」「海外企業の価値算定(バリュエーション)」「言葉の壁と人材不足という思い込み」「外国側の規制」の4点を挙げた。特に「意思決定の遅さ」と「価値算定方法の違い」は、多くの日本企業がチャンスを逃す原因になっていると指摘。欧米企業ではトップダウンで迅速に意思決定が進むのに対し、日本企業では担当者レベルでの情報収集から始まり、経営層の判断を仰ぐまでに時間がかかりすぎ、スピード感のある交渉についていけないことが多いと語った。
企業価値の評価方法についても、日本と欧米では大きな違いがあると粟林氏は指摘した。日本では過去の実績や純資産を基にした評価が主流であるのに対し、欧米では企業の将来性や生み出すシナジーを重視する。「この価値観の違いを理解し、柔軟な評価を行わなければ、将来性を見込んで価格を提示してくる世界の買い手と競争することは難しい」と、その課題を強調した。
セッションの終盤では、海外M&Aを成功させるための具体的なアプローチについて議論が交わされた。粟林氏は、銀行などから紹介される「売り込み案件」を待つだけでなく、自社の戦略に基づいて能動的に対象企業を探しにいく「プロアクティブ・アプローチ」の重要性を強調した。この方法であれば、入札案件のように時間に追われることなく、自社のペースで交渉を進めることができる。また、専門家を介してアプローチすることで、相手企業のトップと直接交渉のテーブルにつける可能性も高まるとその利点を説明した。
最後に粟林氏は、海外M&Aの成功の鍵を改めてまとめ、「M&Aは本業ではない事業会社こそ、専門家の力を借りるべきだ」と述べ、セッションを締めくくった。海外市場への進出は、もはや一部の大企業だけのものではない。本セッションは、多くの中堅・中小企業にとっても、海外M&Aが現実的かつ有力な成長戦略の一つであることを力強く示すものとなった。
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