三ッ星事件決定を受けて運用基準を明確化したナガホリの買収防衛策の事例

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ナガホリ本社(東京都台東区)

三ッ星事件決定を受けて運用基準を明確化したナガホリの買収防衛策の事例

大まかなまとめ:
・三ッ星の事例と同様、関係性が不明確な複数の株主による株式買増しに対抗した有事導入型買収防衛策の事案
・三ッ星事件各決定が出たことを受けて、同各決定が恣意的な判断がされる危険があると問題視して買収防衛策に基づく対抗措置発動を否定した「共同協調行為」と「非適格者」の判断基準を事後的に明確化し、公表した事案
・現在も株主との間で協議が継続中であり、今後の動向が注目される

1.はじめに

複数の株主による市場買集めに対する買収防衛策としての対抗措置の発動を「著しく不公正な方法」と裁判所が判断し、差止めを認めた三ッ星事件が記憶に新しい。

同事件は、複数の株主による、ウルフ・パック戦術を含む、経営支配権取得に向けられた「共同協調行為」の取扱いが脚光を浴びるきっかけとなっただけでなく、極めて限られた時間の中で、買収防衛策を適切に運用しなければならないという実務の難しさを改めて感じさせられた事案といえる。

三ッ星事件については、拙稿「三ッ星における買収防衛策に関する一連の司法判断の概要とポイント」においても検討したのであわせて参照されたい。

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三ッ星における買収防衛策に関する一連の司法判断の概要とポイント

三ッ星事件では、買収防衛策が2022年4月8日に導入され、同年5月18日に買収防衛策に基づく対抗措置が発動された。その後、買付者側であるアダージキャピタルの主張を認め、対抗措置の発動が「著しく不公正な方法」とし、最終的に、同年7月28日に、最高裁判所が許可抗告を棄却しているが、これとほぼ時期を同じくして、ジュエリーの製造卸大手である株式会社ナガホリ(以下「ナガホリ」という。東京証券取引所スタンダード市場に上場)において、リ・ジェネレーション株式会社(以下「リ・ジェネレーション」という)その他複数の株主らによる同時期での急速な市場買集めへの対抗のために導入した買収防衛策(以下「本件買収防衛策」という)に関する攻防が行われ、現在も継続している。なお、現在に至るまで本件買収防衛策に基づく対抗措置の発動はされていない。

本件買収防衛策は、下記の①から④に掲げる複数の株主による既に行われているナガホリ株式の買い集めに対抗したいわゆる有事導入型買収防衛策であり(その後、下記⑤のマイルストーンマネジメントが参加)、また、複数の株主らが否定している共同協調行為が行われたかどうかが問題となっている点で、三ッ星事件と類似する事案である。

①リ・ジェネレーション
②ナガホリがリ・ジェネレーションと実質的に共同してナガホリ株式の買付けをしていると当初判断した布山高士氏(以下「布山氏」という)
③ナガホリがリ・ジェネレーション(ないしリ・ジェネレーションの代表取締役である尾端氏)又は布山氏と実質的に共同してナガホリ株式の買付けを行っている可能性が否定できないと判断した個人3名(ナガホリによるプレスリリース上の呼称に倣い、かかる個人3名を総称して以下「本件連動取得者」という)
④ナガホリが入手した情報に基づき布山氏と実質的に共同してナガホリ株式の買付けを行っている可能性があると判断した法人及び個人複数名(同様にナガホリによるプレスリリース上の呼称に倣い、以下「布山氏関係者」という)
⑤マイルストーンマネジメント株式会社(以下「マイルストーンマネジメント」という)

ナガホリによるこれまでの一連の対応を見ると、三ッ星事件における裁判所の各決定を十分に分析検討した上で臨んでいるものと推察される。このことは、ナガホリの動きだけでなく、同社の代理人である太田洋弁護士による三ッ星事件における一連の裁判所の決定に関する評釈[1](以下「本件評釈」)における分析及び検討結果からも伺われる。

このように、ナガホリとその代理人弁護士は、同時期に出された類似の別事件における裁判所の決定をタイムリーに把握して、対応を臨機応変に変えていくという特徴的な行動を取っている点で、裁判所の審査が厳格で慎重な運用が求められる一方で、なお十分に確立されたとはいえない買収防衛策の設計及び運用(特に運用面)において大変参考となる事案である。

そこで、本稿では、ナガホリが三ッ星事件における一連の裁判所の決定を踏まえてどのように対応しているのか検討を試みる。

なお、本件では、ナガホリの子会社に対する貸付け及びその貸倒れ並びに子会社における従業員の過去の不正事案(以下「本件不正事案」という)も当事者間の争点の一つとなっているが、本稿では、ナガホリにおける買収防衛策に関する対応を主に扱うこととする。また、本稿では、2022年中になされた行為または発生した事象については、日付の記載のうち「2022年」との記載を省略することがある。

2.本件の経緯

本件の経緯は、大要以下のとおりである。

~2022年3月 リ・ジェネレーション、布山氏及びその他の複数の株主らが、ほぼ同時期にナガホリ株式を買い集める
4月5日 布山氏が、大量保有報告書を提出する(株券等保有割合5.73%、保有目的は「純投資」)
4月14日 リ・ジェネレーションが大量保有報告書を提出(株券等保有割合6.87%)、保有目的は「重要提案行為等を行うこと」
なお、同社が提出した大量保有報告書及び変更報告書(株券等保有割合6.87%→8.59%)によると、金商法上の提出期限(4月4日)を渡過
4月15日 ・リ・ジェネレーションが変更報告書(株券等保有割合8.59%→9.96%)を提出
・ナガホリが、リ・ジェネレーションに対し、大量保有報告書及び変更報告書の提出期限を徒過した理由、企業の実態、今後のナガホリとの関係に関する考えについての4月15日付質問状(以下「質問状(1)」という)を送付
4月20日 ナガホリが、本件買収防衛策の導入を検討するにあたり、同社取締役会の恣意的判断を防止するべく、ナガホリの業務執行を行う経営陣から独立性を有する独立社外取締役1名及び独立社外監査役2名から成る独立委員会を設置することを決議
4月21日 ナガホリが、リ・ジェネレーションから質問状(1)の回答がなかったことを受け、同社に対し4月21日付質問状(以下「質問状(2)」という)、布山氏に対し質問状を送付
4月22日 リ・ジェネレーション(所有割合[2]:10.89%)、布山氏(所有割合:9.84%)、本件連動取得者(所有割合:8.64%)、布山氏関係者(所有割合:2.76%)となり、これらの株主の所有割合の合計が32.14%となったことから、株主及びナガホリ取締役会が、十分に検討し、適切な判断を行うための時間と情報の確保を目的として、本件買収防衛策の導入をナガホリ取締役会で決議
4月25日 ・リ・ジェネレーションが、ナガホリに対して質問状(1)に対する4月22日付回答書(以下「回答書(1)」という)を送付
※当該回答書において、リ・ジェネレーションが第三者と意を通じて、実質的に共同してナガホリの株式の買付を行っている事実を否定
・ナガホリが、回答書(1)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し4月25日付質問状(以下「質問状(3)」という)を送付
5月6日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(2)及び質問状(3)に対する5月2日付回答書(以下「回答書(2)」という)を送付
※当該回答書において、リ・ジェネレーションが布山氏と意を通じて、実質的に共同してナガホリの株式の買付を行っている事実を否定
5月9日 ナガホリが、回答書(2)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し5月9日付質問状(以下「質問状4)」という)を送付
5月27日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(4)に対する5月27日付回答書(以下「回答書(3)」という)を送付
6月2日 ナガホリがリ・ジェネレーションに対し送付した書面で言及された大場武生氏が、同書面に記載された内容は大場氏の名誉を毀損するものであるとして、ナガホリに対し、損害賠償請求訴訟を提起
※その後、ナガホリの役員に対しても、任務懈怠を理由とする責任追及に係る損害賠償請求訴訟を提起
6月3日 ナガホリが、回答書(3)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し6月3日付回答及び質問状(以下「質問状(5)」という)を送付
6月27日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(5)に対する6月27日付回答書(以下「回答書(4)」という)を送付
6月29日 本件買収防衛策の導入について、ナガホリ定時株主総会で賛成多数にて可決(賛成63.5%)
7月14日 ナガホリが、回答書(4)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し7月14日付回答及び質問状(以下「質問状(6)」という)を送付
7月28日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(6)に対する7月28日付回答書兼質問状兼要望書(以下「回答書(5)」という)を送付
8月1日 マイルストーンマネジメントが、ナガホリに対し、本件買収防衛策に定められた手続に基づき、大規模買付行為等に係る通知書及び趣旨証明書(修正されたものも含む)を送付
※当該趣旨説明書では、
①マイルストーンマネジメントが、17,600株のナガホリ株式を保有し(所有割合約0.11%)、今後、最大で所有割合25%のナガホリ株式を市場において取得することとしたこと、
②同社による大規模買付行為等の目的が、ガバナンス強化・経営面における女性の積極的登用等であること、
③同社による大規模買付行為等後の方針が、マイルストーンマネジメントの代表取締役島﨑紀子をナガホリ役員として提案し、女性の積極的な登用及びその合理的な経営のための方策を提案することであること等が記載
8月4日 ナガホリが、マイルストーンマネジメントに対し、同社の本店所在地がレンタルオフィスであり営業実態が不明であること、本件買収防衛策の導入日から9営業日後の2022年5月11日に設立され、その後、ナガホリ株式の取得をし、大規模買い付け行為等を行おうとしていること等から、「貴社とリ・ジェネレーション又は布山氏との間に、当社株主の大量買集めに関して何らかの意思の連絡ないし連携があるのではないかと強く懸念しております」という旨を記載した「要請書」を送付
※8月9日、マイルストーンマネジメントが、ナガホリに対し、リ・ジェネレーション又は布山氏との間に何らの関係もないことを通知
8月5日 ナガホリが、回答書(5)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し8月5日付回答及び質問状(以下「質問状(7)」という)を送付
8月8日 ナガホリが、本件買収防衛策に基づき、マイルストーンマネジメントに対し、同社の大規模買付行為等に対する株主及び投資家判断並びにナガホリ取締役会及び独立委員会の評価・検討等のために必要と考えられる情報の提供を要請する「情報リスト」を送付(これに対し、マイルストーンマネジメントは8月25日に回答)
8月15日 ・ナガホリ独立委員会が、本件買収防衛策に基づく対抗措置発動の際の、非適格者の認定のための客観的な基準として、「『非適格者』認定基準」を制定することを決議した旨を公表
・リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(7)に対する8月15日付要望書を送付
※当該要望書において、リ・ジェネレーションがマイルストーンマネジメントとの間にナガホリの株式の買い集めに関して関係がないことを通知
8月24日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(7)に対する8月24日付回答書兼質問状兼要望書(以下「回答書(6)」という)を送付
8月31日 ナガホリが、回答書(6)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し8月31日付回答及び質問状(以下「質問状(8)」という)を送付
9月5日 ナガホリが、マイルストーンマネジメントに対し「追加情報リスト」を送付(9月20日に回答)
9月5日 ナガホリ独立委員会が「『非適格者』認定基準」を「共同協調行為等認定基準」(以下「共同協調行為等認定基準」という)に変更する等を決議した旨を公表
9月16日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(8)に対する9月16日付回答書兼質問状兼要望書(以下「回答書(7)」という)を送付
9月22日 ナガホリが、回答書(7)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し9月22日付回答及び質問状(以下「質問状(9)」という)を送付
9月29日 ナガホリが、マイルストーンマネジメントに対し「追加情報リスト(2)」を送付
10月17日 ・マイルストーンマネジメントが、ナガホリに対し、ナガホリ株式の大規模買付行為等を撤回する旨の通知書を送付
※当該通知書には、①マイルストーンマネジメントが、本件不正事案に係る報道等に関するナガホリの開示等を受け、ナガホリの情報開示・コンプライアンス体制に重大な疑義があり、現状では、株主に対する誠実な対応を期待することができないと考え、本大規模買付行為等を実施することは不可能であると判断し、本大規模買付行為等を撤回することとしたこと、②マイルストーンマネジメントが保有しているナガホリ株式を今後速やかに市場にて売却する予定であること等が記載
・布山氏が、ナガホリに対し、これまでの開示により大きな風評被害を受けており、これ以上当社株式に対する投資を継続することは大きな困難を伴うような状態に陥っていると考え、ナガホリ株式の売却を開始すること(但し、市場株価に悪影響が生じないように、順次売却を進めていくこと)等が記載した書面を送付
※同書面には、「今後は、布山氏が当社株式の大規模買付行為等について何らかの関与があるかのような公表を厳にしないよう」要請し、今後の開示等を踏まえ、名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟等の法的措置を執るか否かの決定をする旨が記載
10月20日 ナガホリが、マイルストーンマネジメントより、大規模買付行為等を撤回する旨等の意向を受けたことから、マイルストーンマネジメントを対象とした本件買収防衛策所定の手続の中止に関するお知らせを公表
※公表された書面には、リ・ジェネレーションらによるナガホリ株式の買集めの状況については、引き続き注視する旨が記載
10月26日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、質問状(9)に対する10月26日付回答書兼質問状兼要望書(以下「回答書(8)」という)を送付
10月27日 ナガホリが、株式の不自然な株価高騰について公表
11月4日 ・ナガホリが、回答書(8)を踏まえて、リ・ジェネレーションに対し11月4日付回答及び質問状(以下「質問状(10)」という。)を送付
・ナガホリが、リ・ジェネレーションに対する質問及び回答のまとめを公表
11月11日 リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、9月30日現在のナガホリの株主名簿の閲覧謄写請求を行う
※ナガホリは、会社所定の書式で請求するように回答したところ、現在に至るまで会社所定の書式での株主名簿の閲覧謄写請求は行われていない
11月21日 ・リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、株主総会の目的である事項を取締役6名の解任の件及び取締役4名選任の件とし、臨時株主総会招集の請求を行う
・リ・ジェネレーションが、ナガホリを相手方として、東京地裁に株主名簿閲覧謄写仮処分命令の申立てを行う

以上のように、いずれの株主も相互の関係を否定していること、幾度にもわたり質問と回答が繰り返されている。なお、本件買収防衛策の導入は株主総会決議により承認されている。

3.共同協調行為等認定基準

(1) 事後的な共同協調行為等認定基準の策定・公表

本件買収防衛策は、東京機械製作所事件における買収防衛策と基本的に同様の内容(当該買収防衛策を倣って設計したものと推測される三ッ星事件における買収防衛策とも概ね同様の内容)となっており、対象となる大規模買付行為等には、買付行為を伴わない「共同協調行為」、すなわち、「(買付)行為の実施の有無に拘らず、当社の特定株主グループが、当社の他の株主…との間で行う行為であり、かつ、当該行為の結果として当該他の株主が当該特定株主グループの共同保有者に該当するに至るような合意その他の行為、又は当該特定株主グループと当該他の株主との間にその一方が他方を実質的に支配し若しくはそれらの者が共同ないし協調して行動する関係…を樹立するあらゆる行為…(但し、当社が発行者である株券等につき当該特定の株主と当該他の株主の株券等保有割合の合計が 20%以上となるような場合に限ります)」が含まれている。

また、本件買収防衛策により無償割当てを受ける新株予約権を行使できず、かつ、取得条項に基づき普通株式の交付を受けられない「非適格者」の範囲には、大規模買付者並びにその共同保有者及び特別関係者に限らず、これらの者の「関係者」、すなわち、「これらの者が実質的に支配し又はこれらの者と共同ないし協調して行動する者」が含まれている。

もっとも、本件買収防衛策の運用において最も特徴的なのが、4月20日に導入後、ナガホリの独立委員会がこの「共同協調行為」と「非適格者」の判断基準を明確化し、開示したことである(8月15日に、「『非適格者』認定基準」が制定され、その後、9月5日に同基準を「共同協調行為等認定基準」に改訂。以下「本認定基準」という)。

本認定基準は、独立委員会による(ⅰ)本買収防衛策で定義される大規模買付者を含む「非適格者」の認定に際して「これらの者が実質的に支配し又はこれらの者と共同ないし協調して行動する者」に当たるか否かを判定するための基準として用いること、(ⅱ)「大規模買付者」の認定の前提となる「大規模買付行為等」の認定に際して「当該特定株主グループと当該他の株主との間にその一方が他方を実質的に支配し若しくはそれらの者が共同ないし協調して行動する関係」が樹立されたか否かを判定するための基準として用いることが規定され、「非適格者」や「大規模買付行為等」としての「共同協調行為」を認定するために客観的な基準として制定されている。

(2) 三ッ星事件各決定との関係

ナガホリの特別委員会が本件買収防衛策の導入当時には明示されていなかった本認定基準を制定したのは、三ッ星事件での大阪地裁における原決定及び保全異議決定が特別委員会による共同協調行為の認定基準が包括的で不明確であり、恣意的に運用される危険性があるとし、また、大阪高裁における保全抗告審においては、「本件臨時株主総会における相手力の議案に贊成の態度を示した株主につき、その言い分等を確認することなく本件対応方針における非適格者と認定してこれを公表し、非適格者と認定された複数の株主から抗議を受けたことにより事後的にこれらの者に反論の機会を与えたり、非適格者認定を撤回するなどしており…、非適格者を認定するに当たりその要件や必要な手続を慎重かつ十分に検討したとはにわかにいい難く、現経営陣が自己の都合で、思うままに本件対応方針の非適格者の認定を行ったのではないかと評せざるを得ないところである」などと述べ、買収防衛策に基づく対抗措置の相当性を否定して差止めを認めたことを踏まえて、将来の対抗措置発動の有効性をめぐる紛争に備えたものと思われる。

この点に関して、ナガホリ代理人である太田弁護士は、本件評釈において、「①三ッ星の取締役会や独立委員会が、どのような場合に共同協調行為があったと認定するか、共同協調行動者と認定するかについての客観的な認定基準等を策定していなかった点や、②『非適格者』としての認定に先立ってその対象者に告知・聴聞の機会を付与しなかったことを問題視されたことが示唆されている」と評価したうえで、「今後、複数の投資家が対象会社の株式を買い上がって経営支配権を奪取しようとしていることがうかがわれる場合に、対象会社側が有事導入型買収防衛策の導入をもって対抗する場合には、…①で述べた客観的な認定基準を策定することや、…②で述べた告知・聴聞の機会を付与すること等が実務上重要となるものと解される」としている。

ナガホリ及びその代理人弁護士は、このような三ッ星事件に関する検討結果を踏まえて、①の認定基準を充足させる意図で、特別委員会の名義において、本認定基準を制定したものと推察される。なお、②の告知・聴聞の機会については、ナガホリは現状、リ・ジェネレーションをはじめとする株主らに対して「非適格者」の認定をまだ行っていないものの、上記2の経緯のとおり繰り返されている質問及び回答のやりとりにおいて、慎重に株主間の関係を問うており、このことは、本件買収防衛策上の大規模買付ルールの実施という面だけでなく、告知・聴聞の機会付与の実践も意味しているのではないかと推察される。

(3) 共同協調行為等認定基準の概要

共同協調行為等認定基準では、「認定の対象者」について、「各項目のうち、原則として、下記1)に加えて最低1つ以上の項目で関連性が認められることを条件として」、「各項目の要素に加え、買収者との間での意思の連絡が『ない』ことを窺わせる直接・間接の事実の有無についても勘案した上で、総合判断の方法により行われるべきものとする」とされ、1)から13)までの項目が列挙されている。なお、「下記1)に加えて」と記載されている通り、1)から13)までの項目は並列関係ではない。

1) 対象会社の株式を取得している時期が、買収者による…買収に向けた行動が行われている期間と重なり合っているか
2) 取得した対象会社株式の数量が相当程度の数量に達しているか
3) 対象会社の株式の取得を開始した時期が、…買収者の買収に向けた行動が開始された時期に近接し、又は…買収者の行動に関連するイベントと近接しているか
4) 市場における対象会社株式の取引状況が異常な時期…において、…買収者による対象会社の株式取得の時期及び態様…の特徴との間に共通性がみられるか
5) 買収者が株式を取得している(又は取得していた)他の上場会社の株式を取得していたことがあり、かつ、その取得時期や保有期間が買収者のそれと重なり合っているか
6) 上記5)の重なり合う期間において、当該他の会社…に対する株主権(共益権)の行使が買収者のそれに同調したものであったか。同調したものであったとした場合に、…その同調の程度はどの程度か
7) 上記5)記載の当該他の上場会社において、認定対象者及び買収者…による議決権等の共益権の行使の結果、取締役その他の役員の選解任が行われた場合において、当該変更後の役員の在任期間中に当該他の上場会社において企業価値又は株主価値のき損の恐れ…が生じているか。生じているとして企業価値又は株主価値のき損の恐れはどの程度か
8) 買収者との間で、直接・間接に出資関係ないし資金の貸借関係等が存在している又は存在していたことがあるか
9) 買収者との間で、…人的関係が存在するか
10) 対象会社に対する株主権(共益権)の行使が買収者のそれに同調したものであったか。同調したものであったとして、…その同調の程度はどの程度か(なお、この 10)を唯一の根拠として「非適格者」と認定してはならないものとする。)
11) 対象会社の事業や経営方針に関する言動等が買収者のそれと類似しているか。…その類似の程度はどの程度か(なお、この11)を唯一の根拠として「非適格者」と認定してはならないものとする。)
12) その代理人やアドバイザーが、…買収者との間において意思の連絡が容易となるような関係を有しているか(直接的なものであると間接的なものであるとを問わない。)
13) その他、買収者との間で意思の連絡があることを窺わせる直接・間接の事実はあるか

上記項目を大別すると、以下の通り分類できる。
 ①対象会社の株式取得の時期及び態様に関する項目:1)~4)
 ②買収者との過去の共同協調行為の有無に関する項目:5)~7)
 ③買収者との関係性に関する項目:8)、9)
 ④対象会社に対する権利行使に関する項目:10)、11)
 ⑤それぞれのアドバイザーの関係性に関する項目:12)
 ⑥意思の連絡の有無に関する項目:13)

以上のようにあらゆる角度から網羅的に項目を設けており、また、対象会社に対する(議決権の行使などの)株主としての権利行使に関する項目において、「唯一の根拠として「非適格者」と認定してはならないものとする。」と記載されていることから、一般株主に予見可能性を与え、三ッ星事件において問題視された一般株主に権利行使への萎縮効果という悪影響を及ぼさないように配慮がなされている。

もっとも、「各項目のうち、原則として、下記1)に加えて最低1つ以上の項目で関連性が認められることを条件として」と記載され、項目に「該当すること」までは記載されていないことや、「総合判断の方法により行われるべきものとする」と記載されていることから、あくまで、いずれかの項目を充足しなければいけないという建付けにはなっていない。これは、基準を設けたことで、それを掻い潜ろうとする行為を防ぐためと思われる。

一般株主に権利行使への萎縮効果防止の趣旨や、現経営陣及び特別委員会の判断による恣意性排除の趣旨から、今後、買収防衛策を導入する際には、ナガホリの上記のような事例を参考として、導入時点の段階で共同協調行為及び非適格者の客観的な基準を設ける事例が増えることが予想される。

4.おわりに

ナガホリは、2022年10月27日に、マイルストーンマネジメントが大規模買付行為の撤回を表明し、布山高士氏が保有する当社株式の売却の意向を表明した以降も株価が短期間で異常に急騰している旨を公表した。

また、11月21日には、リ・ジェネレーションが、ナガホリに対し、株主総会の目的である事項を取締役の解任の件及び取締役選任の件とし、臨時株主総会招集の請求を行い、また、ナガホリを相手方として、東京地裁に株主名簿閲覧謄写仮処分命令の申立てを行っていることから、今後、状況によっては、買収防衛策に基づく対抗措置の発動に至る可能性もある。その場合、これまでの質問と回答を踏まえて、本認定基準の枠組みの中で、どのような事情と理由をもって「非適格者」の該当性の認定を行うのか注目に値する。

ナガホリとしては、質問状の送付により、リ・ジェネレーションをはじめとする株主らによる共同協調行為と疑われる行動を牽制しつつ、対抗措置を発動し紛争に発展した場合に備えて、共同協調行為を疎明するための準備を進めているものと想像する。

また、並行して、本件に関してなんらかの出口を模索するべく、(「ホワイトナイト」と呼ぶかどうかは別として)リ・ジェネレーションらの保有株式の受け皿となりうる者らとの間で水面下での交渉している可能性もある。

今後、本件がどのように収束していくのか、引き続き当事者間のやり取りに注視する事案である。

以 上

[1] 太田洋「三ッ星事件の各決定に関する分析と検討-日本版ウルフ・パックが突きつける課題-」旬刊商事法務2307号(2022年10月5日号)35頁以下参照。

[2] 「所有割合」とは、(ⅰ)ナガホリが2021年11月15日に提出した第61期第2四半期報告書に記載された2021年9月30日現在のナガホリの発行済株式総数から、(ⅱ)同報告書に記載された2021年9月30日現在のナガホリが所有する自己株式数及び単元未満株式を控除した株式数に占める割合(小数点以下第三位を四捨五入)をいう。

文:柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)
正木 達也(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)