「景気が悪くなると、不動産関連企業が買収される」は本当か?

alt
大都市に優良物件を持つ不動産企業はM&Aのターゲット?

2020年11月20日、三井住友ファイナンス&リース(F&L)が不動産投資信託(J-REIT)運営のケネディクス<4321>にTOB(株式公開買い付け)を実施し、子会社化すると発表した。「景気が悪い時には不動産関連企業が買収される」と言われるが本当なのか?

今年の不動産企業M&Aは過去10年で3位と活況

今年は11月26日までに不動産業界で33件のM&Aがあった。2011年以降の10年間ではすでに2番目。トップの2019年(35件)に迫る勢いだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で、日本経済は過去最悪の景気低迷に見舞われており、まさに「景気が悪い時には不動産関連企業が買収される」状況に見える。

M&A件数 実質経済成長率
2011 17 -0.1
2012 23 1.5
2013 18 2.0
2014 23 0.4
2015 13 1.2
2016 24 0.5
2017 30 2.2
2018 22 0.3
2019 35 0.7
2020 33 -5.3
*11/27時点 *暦年。2019年までは内閣府発表、2020年は10月のIMF予測

景気とは必ずしも連動しないが…

が、年ごとのM&A件数と実質経済成長率の関係をグラフにしてみると、完全に連動しているとは言い難い。たとえば過去10年間で35件と最高だった2019年の経済成長率は0.67%。確かに高くはないが、それよりも低い2018年(経済成長率0.28%)は22件だったし、2014年(同0.38%)も23件に留まっている。

なにより東日本大震災の影響でマイナス成長となった2011年(同-0.12%)が17件と少ない。さらに過去10年間で最も経済成長率が高かった2017年(同2.17%)は、30件と上から3番目の活況だった。必ずしも「景気が悪い時には不動産関連企業が買収される」というわけではなさそうだ。

とはいえ、買収した企業側の「背景」に本業の伸び悩みがあるのは明らか。三井住友F&Lは航空機リースに強いが、コロナ禍で航空需要は激減した。さらに超低金利が長期化し、リース事業では利益が出にくい環境になっている。三菱UFJリース<8593>が同業の日立キャピタル<8586>と2021年4月に合併するなど、生き残りのための業界再編も進む。

三井住友F&Lは非金融事業で安定した収益が見込める不動産事業を成長性の高い中核事業とするため、ケネディクスの買収に踏み切った。リース業にとっては「逆風」の低金利も不動産投資では「追い風」になるため、本業のリスクヘッジとしても機能する。

長期的に見れば不動産企業のM&Aは進む

本業の不振や収益補填(てん)のために不動産事業に力を入れる動きは業種を問わない。小売業界ではイオン<8267>が本業の小売業よりも自社のショッピングモールに専門店や映画館などを誘致し、その家賃で収益をあげているのは有名な話だ。今やそれが小売業界の「生き残りの方程式」になっている。

百貨店業界でも直営スペースを減らし、専門店に貸し出して家賃収入を増やす「大家化」が進む。高島屋<8233>は2018年9月に「日本橋髙島屋S.C.」をオープンしたが、新館がある日本橋高島屋三井ビルディングは地上32階建てのオフィスビルだ。高島屋は日本橋高島屋S. C.再開発で495億円を投資して武田薬品工業<4502>から土地を取得した。もはや不動産会社の体である。

1986年にNTTグループの電話局跡地などの遊休地活用のために設立されたエヌ・ティ・ティ都市開発も、2018年11月にNTT<9432>の完全子会社NTT-SHによるTOBが成立。東証一部での上場を廃止し、NTTと事実上「一体化」した。通信事業の先行き不透明感から、優良物件が多く収益性が高いNTT都市開発の利益を取り込むための不動産子会社再編だ。

コロナ禍は企業に世界経済の不透明感を思い知らせた。都市部に優良物件を持つ不動産業は景気に左右されにくく、長期安定した収益が見込める。短期的な景気動向とは必ずしもリンクしないとはいえ、長期的には「買い」の業界であることは間違いない。今後も不動産業をターゲットにしたM&Aや子会社再編は増加するだろう。

2020年の不動産関連企業の主なM&A

開示日 取引総額 内  容
1月7日 800 シェアリングテクノロジー<3989>、不動産売買・仲介子会社の名泗コンサルタントを牧野社長に譲渡
2月25日 0 三菱地所<8802>、伊豆熱川地域の別荘地事業をひまわりに譲渡
3月12日 非公表 三栄建築設計<3228>、建売分譲のマックホームを子会社化
4月1日 非公表 ケイアイスター不動産<3465>、不動産売買の東京ビッグハウスを子会社化
4月24日 非公表 APAMAN<8889>、茨城県で不動産仲介・賃貸管理のマイハウスを子会社化
5月11日 400 Lib Work<1431>、関東進出へ分譲住宅販売のタクエーホームを子会社化
5月19日 0.000001 ジェイホールディングス<2721>、投資用不動産の販売・仲介事業子会社のシナジー・コンサルティングを上野真司取締役に譲渡
6月12日 45,600 住友不動産<8830>、中国大連での分譲マンション開発子会社を合弁相手に譲渡
6月17日 898 エムジーホーム<8891>、戸建分譲のTAKI HOUSEを子会社化
7月28日 600 キャリアインデックス<6538>、Type Bee Groupから「キャッシュバック賃貸」事業を取得
8月12日 株式交換 プロスペクト<3528>、KeyHolder<4712>傘下の不動産子会社キーノートを子会社化
8月21日 非公表 ASIAN STAR<8946>、筆頭株主企業傘下の中国不動産3社を子会社化
9月30日 0.00205 ギガプライズ<3830>、不動産仲介子会社のフォーメンバーズを経営陣に譲渡
10月19日 非公表 大東建託<1878>、 資産運用型マンションのインヴァランスを子会社化
10月21日 124 プロスペクト<3528>、太陽光発電資産運用子会社をJトラスト<8508>へ譲渡
10月26日 非公表 穴吹興産<8928>、セコム<9735>傘下でマンション開発・分譲のセコムホームライフを子会社化
10月28日 3,000 アスコット<3264>、マンション分譲のTHEグローバル社<3271>を子会社化
11月11日 非公表 三越伊勢丹ホールディングス<3099>、不動産賃貸子会社の三越伊勢丹不動産を米ブラックストーンに譲渡
11月13日 36,700 オープンハウス<3288>、投資用マンション事業のプレサンスコーポレーション<3254>をTOBで子会社化
11月20日 131,900 三井住友ファイナンス&リース、不動産投資信託運営のケネディクス<4321>をTOBで子会社化
*取引総額(単位:百万円)および内容は開示時のもの。

(11月26日時点)

文:M&A Online編集部