「らでぃっしゅぼーや」買収、ドコモの誤算、オイシックスの勝算

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NTTドコモ<9437>が、有機野菜の会員制宅配会社「らでぃっしゅぼーや」を、同業のオイシックスドット大地<3182>に売却します。ドコモは2012年にジャスダック上場のらでぃっしゅぼーやを、69億円で公開買い付けしていました。今回の売却金額は10億円。2000年に入って、ユニクロもトヨタも野村証券までもが「野菜じゃ野菜じゃ」と騒ぎ出し、ユニクロの大失敗も顧みずにドコモが手を伸ばして、見事な玉砕。手堅く市場を拡大するオイシックスに、足元を見られる形になってしまいました。ドコモの誤算は何が原因か、オイシックスの寡占化に未来はあるのか、という話です。

この記事では以下の情報が得られます。

①ドコモが野菜ビジネスに手を出した理由

②オイシックスの寡占化で市場拡大は見込めるか

らでぃっしゅぼーや
らでぃっしゅぼーや


端末競争から抜け出してソフト勝負へと軸足を変えた

2012年当時、ドコモが有機野菜の「らでぃっしゅぼーや」を買収した狙いは2つです。

①携帯端末競争から抜け出す

②インフラを構築してユーザーを囲い込む

2000年に入って、携帯電話業界は大きく変わりました。要素は2つ。「ナンバーポータビリティ」と「iPhone」の誕生です。これらの要素がドコモを本業とはかけ離れた出資や買収へと走らせます。

同じ電話番号で、携帯電話会社を自由に選べるナンバーポータビリティが始まったのは2006年。この好機を逃さず、ソフトバンクが「iPhone」を市場投入したのが2008年。市場で胡坐をかいていたドコモが冷や汗をかいた瞬間でした。

ドコモはソフトバンクに対して、ソフト力強化で対抗しようとします。2006年日本テレビホールディングス出資、2010年米パケットビデオ(動画コンテンツプラットフォーム)買収、エイベックス通信放送出資など、動画配信に力を入れました。

端末の争いから抜け出て、ソフト力でファンを獲得しようとしていたのです。企業戦略としては間違っていないと思います。もし、ドコモの戦略が上手くいっていれば、「いやー、あのころ、ソフトバンクが社運をかけてiPhoneとかいう端末を投入していましたけど、結局消費者が望んでいるのって、ソフトなんすよねー。あー片腹痛い」みたいなトップインタビューがあったかもしれません。

ところが、現実はそんなに甘くありませんでした。というよりも、iPhoneはあまりに偉大で、世界中の人々のライフスタイルを変えてしまうほどの力を持った逸品だったのです。ドコモがそれに気づいて、取り扱いを始めたのが2013年です。あまりに遅かったというほかありません。

さて、競争力をあさっての方向に向けてしまったドコモが、努力の方向性を”しあさって”の方向に向けてしまったのが、らでぃっしゅぼーやの買収です。


らでぃっしゅぼーや「ぱれっと」
らでぃっしゅぼーや「ぱれっと」


携帯端末で有機野菜販売網を築こうと目論んだドコモ

らでぃっしゅぼーやは、2012年2月期の売上高が220億4600万円。経常利益が3億1900万円の小規模企業。売上高4兆円を超えるドコモが欲しかったのは、同社が契約している2600軒の農家ネットワークでした。

同業の大地を守る会によると、日本の耕作面積における有機畑の割合はわずか0.22%。極めて数少ない農家との繋がりをもっていたのが、らでぃっしゅぼーやでした。

ドコモは自社が抱える6000万ものユーザーと農家を繋ぎ、野菜の販売網を築こうとしたのです。売買代金を携帯電話の料金に内包してしまえば、有機野菜が高い(らでぃっしゅぼーやの基本パックは野菜10選と果物で3,294円)というイメージを水面下に沈めることができると考えたのです。

狙いは悪くないのですが、ユーザーのことが見えていなかったと言わざるを得ません。アマゾンが2017年に高級自然食品スーパーの「ホールフーズ・マーケット」を買収したのが象徴的。一般消費者が生鮮食料品をネットで即決する時代は、まだまだ先です。

ドコモはdショッピングという自社の通販サイトで、野菜の取り扱いを始めましたが、マーケティング戦略もままならず、細々と運営する結果に。事業を拡大することもできず、農家を増やすこともできず、あえなく撃沈したという訳です。


オイシックス
オイシックス


業界の寡占化を着実に進めるオイシックス

オイシックスは、2017年に同業の大地を守る会と経営統合しました。オイシックスの会員数は14万人、大地を守る会が10万人。市場を食い合う戦略を改め、手を結んで市場を拡大する方向へと進みました。

そして、らでぃっしゅぼーやの買収です。同社の会員数は16万人。大地を守る会とらでぃっしゅぼーやを飲み込んだオイシックスは、巨大な有機野菜提供者となりました。

売上規模は580億円前後になると予想されます(オイシックス18年3月期予想380億円+らでぃっしゅぼーや200億円)。宅食の王者ヨシケイの売上高800億円に続いて、業界2位を獲得した形。

オイシックスが、上場企業の一つのマイルストーンである、1000億円企業に成長できるかどうか。それは、農家とのネットワークと巨大な会員を獲得した同社が、市場規模の拡大へとリソースをさけるかどうかにかかっています。

イタリアは有機畑の割合が8.6%、ドイツが6.1%。日本の0.22%と比べると3~40倍もの数字です。伸びしろは確実にある。それはユニクロをはじめとした数々の大企業が参入したことで、充分すぎるほどよくわかっています。

有機野菜という凄まじい手間や農業の規制、通信インフラの未整備を乗り越えられるか。そこにオイシックス成長の鍵が隠されていることは間違いありません。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由