2016年10月27日、米半導体大手クアルコムはオランダ半導体大手NXPセミコンダクターズを470億ドル(約4.9兆円)で買収すると発表した。半導体業界では過去最大規模の買収となる。
クアルコムは米カリフォルニア州サンディエゴに本社を持つファブレスメーカーで、スマートフォン向け半導体で圧倒的な強さを持ち、半導体生産に加え、数多くの関連特許を保有し、ライセンス料を大きな収益源とする。
NXPはフィリップスの半導体部門が分社した世界的な半導体サプライヤで、自動車、認証端末向けの半導体開発に強みを持つ。また、近距離無線通信(NFC)チップ「MIFARE(マイフェアー)」も生産している。
この買収は、クアルコムが、携帯電話分野への偏りを是正し、自動車、決済端末などIoT向け半導体市場で主導権を握る狙いから行われた。IoT普及に伴い、セキュリティーを高めるための半導体の需要は爆発的に拡大するとみられている。ソフトバンクグループ<9984>が英アーム・ホールディングスを、米アバゴ・テクノロジーが米ブロードコムを買収するなど、IoT市場をにらんだ巨額買収が続いている。
クアルコム、NXP間で重複事業は少なく、買収によるコスト削減効果は5億ドルにのぼるとされる。両社の売上高は合計で約350億ドルとなり、通信と車載で圧倒的な数量の製品群を備えることになる。
クアルコムはスマホ向け半導体で圧倒的な強さを誇ってきたが、たとえば中国で1150億円の罰金を課されるなど、各国の独禁法当局から調査を受け、さらに新興国を中心に価格下落圧力に直面している。今回の買収が成功すれば現在61%を占めている主力のスマホなど携帯端末向けの売上高比率は48%まで下がる一方、自動車・IoT向けの比率は現状の8%から29%まで上昇し、スマホ偏重の構造を一気に転換できる。
これらの思惑に基づく今回の買収は、2017年末までに完了する予定だった。アメリカの独占禁止法当局は、2017年4月には、この合併を承認。しかし、その後の進展ははかばかしいとは言えない。アメリカのメディアは、同社の行く手を阻む要因として次の3点を挙げている。
まずEUの独占禁止法当局の動きが挙げられる。欧州委員会は2017年6月9日、EU企業結合規則に基づく本格的な調査を開始したと発表。「半導体はあらゆる電子機器に使われ、われわれはこれらデバイス上の半導体に依存している。調査によって、消費者が引き続き競争力のある価格で安全かつ革新的な製品を手に入れる恩恵を受けられることを確かめたい」とした。
しかし6月および9月に、同委員会は、両社が取引の重要な細部を提供しないことを理由に調査を停止。この2度に渡る調査中断で、最終決定が来年に持ち越される可能性がでてきた。同委員会は、買収によるNXPの「MIFARE(マイフェアー)」の価格上昇も懸念している。
クアルコムはこの10月、欧州委員会に、クアルコムはNXPの標準的・基本的な特許は取得しない(NXPは他に売却してもかまわない)こと、NFCの特許について防衛的な目的以外に第三者に訴訟を提起しないことを提案したといわれる。しかしなお、当局は意見など聴取中である。
中国当局(MOFCOM)の動きからも、目が離せない。現在中国は、巨額の投資をして半導体産業を成長させようとしており、この合併を何らかの交渉の切り札に使ってもおかしくはない。中国にしてみれば、クアルコムあるいはNXPのどちらかからIPビジネスを切り離し自国に引き抜く絶好のチャンスといえる。中国の承認を得るための窮余の一策として、クアルコムがMIFARE技術を中国の会社に売却するのではないかとの推測も飛び交っている。中国は調査を意図的に遅らせることで、買収を混乱させる可能性があるというのが、米メディアの統一的な見解である。
さらに、クアルコムは、NXP1株あたり110ドルで380億ドルの買い付けを行おうとしている。そのためにはNXPの株主の70%ないし80%がその株を売る必要があるが、売却された割合はこの9月には3%強にまで下がっている。市場が、買い取り価格は安すぎNXPの評価が不当であると見ている証である。
NXPのクレマーCEOは、10月26日、「スケジュールがタイトゆえ、買収の完了は来年の初めになる可能性がある」と、初めて認めた。いずれにせよこの買収は、まだ多くの障害を乗り越える必要があり、先行きが注目される。
文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部
<参照URL>
https://www.fool.com/
https://www.eetimes.com/
https://www.reuters.com/
https://www.zacks.com/