【3分で読める!ポストM&A成功のtips】シナジーとは何か?…「魔法」の言葉に惑わされるな

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みなさんの会社のM&Aに関連する稟議書には、次のようなワードが使われていないだろうか。「XX事業基盤の構築」「XXとXXの融合」「XXを活用した更なる成長」……挙げていくとキリがないが、もしこのような言葉が稟議書に並んでいたら、注意したほうがいい。これらは曖昧な「シナジー」を積み増すときによく使われる言葉だからだ。

買収価格を正当化するために「シナジー」を積み増していないか?

最近は、M&Aは経営戦略実現のための“手段”という意識も以前に比べると浸透してきたが、それでもやはり、いつの間にかM&A自体が目的化してしまうケースは少なくない。買うことが前提になってしまうと、買収価格が引き上がっていっても後戻りできず、買収価格を正当化するための「シナジー」を積み増す(妄想する)ことになる。

ポストM&Aにおいても、この「シナジー」が関係者を惑わす。買収を正当化するために積み増された「シナジー」は具体化するにも具体化しようがない。困難だ。実際に、「実務現場では、こんなシナジーなんて出ないと分かっているが、上から言われて無理やりシナジー創出プランを“作文”するしかなかった」という話は複数企業のM&A担当者から聞かれる。

なぜ、このような事態が起きてしまうのか? 1つには「シナジー」という言葉の便利さに原因があるように思う。近年でいえば、ビッグデータ、AI、デジタルトランスフォーメーションといったビッグワードが世の中を賑やかせているが、この「シナジー」もなかなか使い勝手の良い魔法の言葉だ。何となく意味は伝わるが実態がない。人によって解釈が異なるのに、使うと何となく分かった気になる。

そこで、今回は「シナジー」という言葉のおすすめの取り扱い方についてお伝えしたい。言い換えれば、「シナジー」の区別だ。

経営のトップマターであることを忘れるな

そもそも「シナジー」とはどのような意味を持つのか? 大辞林第三版によれば、「①共同作用。相乗作用。② 経営戦略で、販売・設備・技術などの機能を重層的に活用することにより、利益が相乗的に生みだされるという効果。」ということだ。要は、シナジー効果を創出するということは、2つ以上の機能を組み合わせて11>2の効果を出すことだ。

しかしながら、「シナジー」という言葉を多用すると、短期的に2社で何ができるかという“コラボレーション(協業)”の発想が強くなってしまい、戦略面・意識面ともに悪影響が出てしまう。戦略面では、中長期的に2社が融合して事業戦略を実現するという意識が弱くなり、当初の買収目的がないがしろにされやすくなる。意識面では、現場レベルでの機能や業務で協業する取組みと捉えられ、経営のトップマターであるという意識が薄くなってしまう。

シナジーを「メイン」と「サブ」に区別

本来M&Aは、自社の経営戦略を実現する上での手段であり、その実現のためには、買収後に被買収企業と摩擦や痛みが生じるものである。それが“コラボレーション”に甘んじてしまうと、結局、短期的かつ表面的な効果しか出ず、本来のM&Aの目的が達成されなくなってしまう。これは大問題だ。

そこで、「シナジー」を「M&Aで狙う主要効果」と「M&Aの副次的効果」に区別して呼ぶことをおすすめしたい。簡単に言えば、「メインシナジー」と「サブシナジー」だ。

「メインシナジー」とは、まさにM&Aの目的である。バリューチェーンの補強や事業ポートフォリオの再編など、自力では実現困難な効果をいう。一方、「サブシナジー」とはM&Aの主目的ではないが、統合すると付随的に得られる効果、要はオマケである。例えば、主要効果が関東エリアの販路獲得による売上向上だった場合、副次的効果としては関東の営業拠点集約によるコスト削減などが挙げられる。

根拠の薄いシナジーを排除する

「シナジー」を区別して呼ぶことによる効用としては、まず創出すべき必須シナジーが明確になり、買収検討時に根拠の薄いシナジーを排除できるという点だ。また、ポストM&Aにおいて、何のシナジー創出にリソースを最も割くべきなのか優先順位が明確になる。

つまり、「シナジー」を正確に定義することで、それがM&Aの目的をよりクリアに浮かび上がらせ、ポストM&Aにおいても、やるべきことが明確になるのだ。言葉が人を動かす。ならば、言葉を正確に捉えることが肝要だ。

さて、皆さんの会社のM&Aにおいて、メインシナジーとサブシナジーを区別することができるだろうか? もし、即答できなければ、それは「シナジー」というマジックワードに惑わされているということなのかもしれない。

文:経営コンサルタント、MAVIS PARTNERS代表 田中 大貴