ペッパーフード一瀬邦夫氏は悪材料を出し尽くして二代目社長に花道を用意したか

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ステーキレストラン「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービス<3053>の創業者・一瀬邦夫氏が、2022年8月12日に代表取締役社長を辞任しました。一瀬邦夫氏の長男で副社長だった一瀬健作氏が、代表取締役社長に就任しました。一瀬邦夫氏は取締役からも退きました。

一瀬邦夫体制のペッパーフードサービスは2022年12月期通期業績予想の下方修正を行い、株主優待も廃止を決定。悪材料となるものとすべて出し尽くしたように見えます。長男に会社を託す親心なのでしょうか。

この記事では以下の情報が得られます。

・ペッパーフードサービスの業績推移
・コロナ禍の一瀬邦夫が再建策として実施した内容と成果

黒字から赤字予想へと変わったカラクリ

ペッパーフードサービスは2022年8月12日に通期業績の下方修正を発表しました。2022年12月期通期は2億1,600万円の純利益を予想していましたが、一転して10億9,000万円の純損失となる見込みです。

ペッパーフードサービスは2021年12月期に、25億700万円の新型コロナウイルス感染拡大に伴う協力金を計上し、3億8,700万円の純利益を出していました。

■ペッパーフードサービス業績推移

決算短信より筆者作成(売上高の目盛りは左軸、純利益の目盛りは右軸)

2022年12月期第2四半期においても、10億5,100万円の協力金を計上しています。しかし、8億6,800万円の純損失(前年同期間は1億8,300万円の純損失)となりました。

理由は、収益性の低下した店舗の減損損失11億9,900万円を計上したため。

2022年12月期第2四半期は8億6,800万円の純損失であり、通期で10億9,000万円の純損失を予想していることを考えると、これ以上の店舗の大きな減損損失はないのではないかと予想できます。

2022年12月期通期業績の下方修正において、ペッパーフードサービスは「ディナー帯の売上回復は厳しい状況が続いた為」と説明しています。しかし、黒字予想から大赤字に陥った一番の要因はこの減損損失です。

また、ペッパーフードサービスは個人株主をつなぎとめるための切り札、年2回贈呈の優待食事券を廃止すると8月12日に発表。386円だった株価は8月16日に一時247円の安値をつけました。

一瀬邦夫氏が長男に経営権を譲るに際して、悪材料を出し尽くそうとした様子が見て取れます。ここからは業績や株価が上がるだけの状態にしたという配慮なのかもしれません。

いきなり!ステーキ事業単体では営業黒字化を実現

「いきなり!ステーキ」は新型コロナウイルス感染拡大前、凄まじい勢いで出店したことはよく知られています。2018年12月末は397店舗。1年間で209店舗も増加しています。2019年12月末は493店舗であり、96店舗増加しました。

決算短信より筆者作成(2021年12月期の店舗数は閉店見込数を含む)

高速で出店しすぎたため、1店舗当たりの収益性が悪化します。コロナ前の2018年12月期から1店舗当たりの売上高は急速に下がりました。2017年12月期は1店舗当たりの売上高は1億4,400万円。翌年は5.1%減少して1億3,600万円。店舗数が最高潮に達した2019年12月期は前年から15.1%減少して1億1,600万円となりました。

決算短信より筆者作成

ペッパーフードサービスはコロナ禍で急速に収益性が悪化し、2020年12月期第2四半期に55億5,900万円の債務超過に転落します。財務状況改善に向けた素早い動きは目を見張るものがありました。ペッパーランチ事業を85億円で投資ファンドJ-STAR(東京都千代田区)に売却。更に経営支援を行うアドバンテッジアドバイザーズ(東京都港区)と業務提携契約を締結し、グループ内のファンドを割当先とする第三者割当増資を実施して100億円を調達しました。

飲食店の退店はタダでできるわけではありません。原状回復費用などで多額の費用が発生します。自己資本に厚みをつけたペッパーフードサービスは、出店した際と同様の猛烈なスピードで退店を進めました。2021年12月末時点での店舗数は287。前年と比較して206店舗減少しています。2021年12月末は退店途中の店舗があるので数値は確定していないものの、100店舗前後を退店したものと予想できます。

いきなり!ステーキ事業単体では、2021年12月期に3億6,900万円の利益を出しています。

決算短信より筆者作成(売上高の目盛りは左軸、事業利益の目盛りは右軸)

2022年12月期第2四半期においても、いきなり!ステーキ事業は前年同期比34.8%増となる1億300万円の事業利益を出しています。不採算店を閉じたことにより、安定的に黒字を出せる体制は作れています。

ただし、レストラン事業や商品販売事業は未だ赤字の状態。主力事業は安定しはじめたため、一瀬健作氏は別事業の立て直しに尽力しなければなりません。一瀬邦夫氏と同様のリーダーシップを発揮できるか、注目が集まります。

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