Sportip(東京都港区)は整体師・トレーナー向けAI(人工知能)解析アプリを手がける筑波大学発のスタートアップ。2018年9月に設立、同大学との産学連携によって生まれた高度な姿勢推定技術を応用し、個人に最適化された整体やフィットネスなどの指導をいつでも・どこでも・誰でも受けられる世界を目指している。

Sportipを起業した高久侑也最高経営責任者(CEO)は、中学時代に第一肋骨と鎖骨の間にある部分の異常により引き起こされる「胸郭出口症候群」の影響で血行障害に悩まされ続けていた。打ち込んできた野球も、健康上の問題から大学時代に断念する。
ところが後になって、この病気が姿勢や動作などにより改善する可能性があることを知った。「自分の身体に応じたフォーム指導や練習メニュー・ウォーミングアップの指導を受けることができれば、大学でも野球を続けられたのではないか」。その思いが同社の設立につながったという。
高久CEOは筑波大学体育専門学群体育・スポーツ経営学研究室で学んだ知識を元に、アプリ開発に乗り出す。フィットネスアプリは以前から提供されていたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大でジムの休業が相次ぎ、自宅での運動不足解消ニーズもあって利用者が増えている。
とはいえ、ほとんどのフィットネスアプリはインストラクターの「見本動作」を動画で流し、受講者はその動きをトレース(再現)するだけ。自分の動作が正しいかどうかも分からないし、自分に最適な運動であるとも限らない。ジムであればインストラクターによる個別指導が受けられるが、アプリでは難しい。
そこで同社が筑波大学との産学連携で開発したアプリが「Sportip Pro」。同アプリが目指しているのは、リアルなジムを超えるサービスの提供だ。体を動かす指導では個人の身体特性や身体データの正確な把握と、目的に応じた運動指導が必要となる。
しかし、大半のジムではインストラクターの経験や感覚に依存した指導を実施しているのが現状だ。「Sportip Pro」ではユーザーの筋力トレーニング、立位やトレーニング時の姿勢の解析、可動域の測定などを通じて、一人ひとりにに最適なトレーニングメニューを自動生成する。
投資ファンドからの期待も大きい。2020年5月にはマネックスグループ<8698>のCVC(コーポーレート・ベンチャー・キャピタル)であるマネックスベンチャーズ(東京都港区)によるMV1号投資事業有限責任組合、ソフトバンクグループ<9984>傘下でAI関連のスタートアップ投資に取り組むVC(ベンチャー・キャピタル)のディープコア(東京都文京区)、アスリートである為末大氏がCEOを務めるVCのDeportare Partners(東京都渋谷区)を引受先とする第三者割当増資を実施し、資金調達に成功している。Deportare Partnersとしては初の投資案件だ。デットファイナンス(借入金融)を含め、6640万円を調達したという。

コロナ禍での緊急事態宣言による営業自粛でジムが休業しても、「Sportip Pro」があればジムはリモート営業が可能になり、受講者も自宅でのフィットネスや指導を受けられる。コロナ禍で健康志向は高まっており、Sportipの取り組みは注目されそうだ。
文:M&A Online編集部