【オプトホールディング】投資育成事業が成長の牽引役に

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まぽ

オプトHD 投資育成事業が成長の牽引役に

 インターネットのマーケティング支援企業であるオプトホールディング<2389>は、1994年にデカレックスとして創業した。1995年にオプトへ社名変更、2014年に持株会社体制へ移行し、現社名のオプトホールディングに商号変更した。

 ネット広告業界ではサイバーエージェント、アイレップ、セプテーニと並び主要4社に数えられる業界のトップ企業である。同社は、どのようなM&A(資本・業務提携)を活用し、成長軌道を描いてきたのだろうか。

【M&A戦略】大きな資本・業務提携と解消の意義は?

 オプトホールディングの沿革と主なM&Aは下表のとおりである。同社は2006年に電通と、2010年にCCCと資本・業務提携を行っているが、いずれも現在は提携を解消するに至っている。

オプトホールディングの沿革と主なM&A

年月 内容
1994年3月 東京都港区元麻布に有限会社デカレッグスとして設立。ファックスを用いたダイレクトメール等のマーケティング事業を開始
1995年4月 株式会社に組織変更同時に株式会社オプトに社名変更
1997年6月 本社を東京都港区赤坂に移転
1997年10月 eマーケティング事業を行うためウェブマーケティング事業部を設置
2000年3月 クレジットカード比較サイト「cardginza.com」運営開始
2000年4月 不動産情報サイト「e-sumai.com」運営開始
2000年7月 eマーケティング事業に専念するため、ファックスを用いたダイレクトメールサービスを株式会社セントメディアに営業譲渡
2000年10月 eマーケティング(インターネット広告)の効果測定システム「ADPLAN」を開発・販売開始
2002年12月 不動産情報サイト事業(e-sumai.com)を分社化し、共同出資により、株式会社イースマイを設立(平成17年4月に株式会社ネクストが吸収合併
2004年2月 日本証券業協会に株式を店頭登録
2004年6月 大阪支社を大阪府大阪市に開設
2004年12月 日本証券業協会への店頭登録を取消し、ジャスダック証券取引所に株式を上場
2005年5月 インターネット上でクラシファイド広告を取り扱う「株式会社クラシファイド」(現連結子会社)を設立
2005年8月 「eMFORCE Inc.」(現連結子会社)の株式を取得し、韓国におけるインターネット広告業事業を強化
2006年1月 株式会社電通とインターネットマーケティング分野全般における資本・業務提携
2006年6月 共同出資により、SEOサービスを提供する「クロスフィニティ株式会社」(現連結子会社)を設立
2006年7月 本社を東京都千代田区大手町に移転
2007年12月 株式会社電通との資本・業務提携を強化
2008年3月 株式会社電通による当社普通株式に対する公開買付け完了株式会社電通が筆頭株主となる
2009年5月 本社を東京都千代田区神田錦町に移転
2009年12月 中堅・中小企業向けインターネットマーケティングソリューションの提供を目的に「ソウルドアウト株式会社」(現連結子会社)を設立
2010年4月 ジャスダック証券取引所と大阪証券取引所の合併に伴い、大阪証券取引所JASDAQ市場(現 東京証券取引所JASDAQスタンダード)に上場
2010年12月 オープンデータプラットフォーム「Xrost」をリリース
2010年12月 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社と資本・業務提携
2011年7月 データプラットフォーム事業の推進を目的に「株式会社Platform ID」(現連結子会社)を設立
2011年11月 「株式会社エスワンオーインタラクティブ」(現連結子会社)の株式を取得し、広告事業を強化
2012年3月 本社を東京都千代田区四番町に移転
2013年1月 株式会社電通との資本・業務提携の内容を一部変更
2013年6月 米国展開及び情報収集の強化を目的に「OPT America, Inc.」(現連結子会社)の増資引受により連結子会社化
2013年10月 東京証券取引所 JASDAQ(スタンダード)から同市場第一部に上場
2014年3月 オムニチャネルソリューション事業の推進を目的に「株式会社コネクトム」(現連結子会社)を設立
2014年4月 動画配信プラットフォーム事業の強化を目的に「スキルアップ・ビデオテクノロジーズ株式会社」(現連結子会社)の株式を取得し、広告事業を強化
2014年7月 「株式会社ライトアップ」(現連結子会社)の株式を追加取得し、広告事業を強化
2014年9月 スマートデバイスにかかる広告事業の推進を目的に「株式会社グルーバー」(現連結子会社)を設立
2015年4月 持株会社体制へ移行し、「株式会社オプトホールディング」に商号変更、マーケティング事業を新設分割により、「株式会社オプト」へ承継
2016年3月 監査等委員会設置会社へ移行
2017年2月 株式会社電通との資本・業務提携を解消

M&AOnline編集部作成

電通との資本・業務提携の狙いと結果

 オプトは2006年より電通と資本・業務提携を行ってきた。業務提携の狙いとしてはインターネット広告関連の事業領域における業務提携関係を構築し、密接な協業を推進することであった。

 具体的には、ダイレクト系広告主(インターネット、電話等を通じた直接的な顧客獲得や商品、サービス販売を重視する広告主)に対するサービスの提供、SEM(サーチエンジンマーケティング)領域における協業、データベースやテクノロジーの活用などについて、強固な協力体制の整備を進めていくことであった。

 しかし、2017年に提携解消に至っている。社長の鉢嶺氏は自身のブログで「電通と提携後、実に約11年間。業績&株価面で成果に乏しかったのは忸怩たる思い」と綴っている。提携解消の理由としては成果が出なかったということである。

CCCとの資本・業務提携の狙いと結果

 オプトは2010年に、TSUTAYAを展開するCCCとの資本・業務提携も行った。ネットとリアル店舗などのサービス連携による広告商品の開発を実現するために、合弁会社「Platform ID」を設立し、CCCの顧客基盤に対するサービスとオプトが展開するeマーケティングサービスとの連携を行うことを目的とした提携だ。

 一方で、その際にオプトの株式を当時の同社の主要株主である電通デジタル・ホールディングスがCCCへ売却することで取得し、電通との提携を一部変更している。その後2014年、オプトがCCCの保有する自社株式をTOBにより買い戻すことで提携を解消している。

 提携解消後もCCCの「Tポイント」に関連するインターネット上の利用データの分析業務を中心とする共同出資会社「Platform ID」での協業関係は維持する方針とした。

【企業概要】3つの事業領域

オプトホールディングの公式ホームページ(出典:http://www.opt.ne.jp/holding/business/によると、3つの事業領域から成り、

事業創造プラットフォーム構想
マーケティング事業、投資育成事業、海外事業で、成長に挑戦する企業と人を応援し、次代を切り拓くイノベーションを生み出し、未来の世界への繁栄エンジンとなること。

としている。

マーケティング事業では、

現在の柱である「広告代理事業」に加え、注力5分野(動画・アドテク・オムニチャネル・ソーシャル・ビッグデータ)を第二の柱として強化していきます。

投資育成事業では、

投資テーマ:インターネットを活用し既存ビジネスをディスラプトとするビジネスモデル でかつ、業界でNO.1になれる可能性がある企業
投資セグメント:シェアリングエコノミー、ダイレクトトレーディング、ディスラプティブテクノロジー

海外事業では、

英語圏、中国語圏を始め、グローバルに対応しております。

としている。

「一人一人が社長」の社是に込めた意味

 企業理念には「一人一人が社長」と掲げているが、そこには「自立した人材の集合体でありたい」ということがベースにある。その上で今後コアとなるのは事業家志向の人材としている。新事業を立ち上げようとすれば、必ず既成概念の壁にぶつかるものだが、「どうすれば乗り越えることができるか」とプラスの方向に考えられる人だけが成功する、という考えを持っている。

 オプトホールディングは挑戦意欲を持つ人に、事業創造のプラットフォームとして社員に学歴・年齢・性別に関係なくチャンスを与えている。いつまでもベンチャー精神を忘れない企業でありたいという方針を持っている企業だ。

【経営陣】創業者の鉢嶺登氏を中心に、金融関係出身者など多彩な顔ぶれ

 代表取締役社長グループCEOの鉢嶺登氏は1967年、千葉県出身。1991年早稲田大学商学部を卒業し、森ビルで3年間の勤務の後、1994年米国で急成長しているダイレクトマーケティング業を日本で展開するため、オプトを設立した。1999年にeマーケティングに特化し、2004年にJASDAQに上場、2005年には電通とeマーケティング分野全般における資本・業務提携を結んだ。2010年には、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)とデータベースマーケティング事業において資本・業務提携を結ぶ。

 また、役員としては森ビルに同期入社で現取締役副社長グループCOOの野内 敦氏、興銀出身の箕田秀策氏、リクルート出身の水谷智之氏らがいる。

【大株主】社長の資産管理会社が筆頭株主、役員や創業メンバーも名を連ねる

 2016年末時点では、個人株主としては代表取締役社長グループCEOの鉢嶺登氏が16.33%、取締役副社長グループCOOの野内敦氏が3.81%を保有し、創業メンバーの海老根智仁氏が4.78%、小林正樹氏が1.5%を保有していた。

 ところが、2017年2月に電通との資本業務提携を解消することで合意したため、第二位株主の電通デジタル・ホールディングスは、保有するオプトの株式をオプトホールディング、オプト経営陣、ファンド(EVO FUND)に売却し、保有比率は0%となった。2017年3月末の大株主は下表のとおりである。

株主名 保有株数(株) 持株比率(%)
HIBC株式会社※ 4,899,200 20.56%
BNYM
TREATY DTT 10
1,549,700 6.5%
海老根 智仁 1,436,900 6.03%
MSCO
CUSTOMER SECURITIES
1,116,264 4.68%
BNP
PARIBAS LONDON BRANCH FOR PRIME BROKERAGE CLEARANCE ACC FOR THIRD PARTY
900,000 3.77%
野内 敦 885,000 3.71%
株式会社マイナビ 755,800 3.17%
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 607.1 2.54%
BNY
GCM CLIENT ACCOUNT JPRD AC ISG (FE-AC)
585,284 2.45%
小林 正樹 450,800 1.89%

・上記のほか、自己株式が1,200,000株ある
・※HIBC株式会社は代表取締役の社長鉢嶺登氏が全株式を所有する資産管理会社である

2017年3月末現在、同社有価証券報告書より作成

【財務分析】ここ数年は、売上・利益の伸びも鈍化

 売上高の推移は下図のとおり。2004年に上場してから2008年までは順調に売上高を伸ばしていたが、その後はほぼ横ばいの推移をしている。その間に電通やCCCとの資本業務提携を行っていたが、思ったほど実績が上がっておらず、提携解消に至った一端が読み取れる。

 下図に見るように営業利益・当期純利益についても同様で、2008年あたりからほぼ横ばいで推移している。2014年の営業利益が突出しているが、これは投資育成事業でホットリンク株の売却益が大きく出たためである。

 なお、下図に見るように、有利子負債残高と有利子負債/EBITDA(有利子負債が営業キャッシュフローで返済するのに何年かかるかを示す指標)やD/Eレシオ(デットエクイティレシオ=企業の資金源泉のうち、負債が資本の何倍に当たるかを示す指標)がここ数年で上昇している。

 有利子負債が増加し始めた2014年は”投資の年”として位置づけられており、同年にラスクル、グノシーへの投資も行っている。本業での伸びが鈍化している中で投資育成事業の強化が近年の課題となっており、今後も継続していくものと思われるが財務の適正水準から判断すると、これまで通りの積極的な投資は難しいかもしれない。

【株価】連結子会社のソウルドアウトが7月12日付で上場

 オプトが66%出資をしているソウルドアウト<6553>が7月12日付で東証マザーズに上場した。時価総額100億円を超える銘柄と見られており、ヤフーも出資していることから安心感のある銘柄として人気化することを見越して、オプトの株価も上昇している。

【まとめ】本業でのM&Aとベンチャー企業育成としての出資

 オプトはこれまで大きな資本・業務提携を2度行ってきたが、際立った成果を残すには至らなかった。それとは別に、投資育成事業としてベンチャー企業を中心に数多くの出資を行ってきた。それがベンチャーリンク株の売却益やソウルドアウト上場による直近の株価上昇にもつながっている。

 オプトが2015年12月に発表しているオプトグループ発企業の時価総額は1兆4,000億円を超える(定義については下記参照)。本業の業績に直結するようなM&Aについては結果が出せているとは言いがたいが、ベンチャー企業育成の出資に関しては一定の成果を上げていると言えるのではないだろうか。

  1. オプトグループが出資している上場企業の直近12月末時点の時価総額
  2. オプトグループが出資して上場した後、他社にM&Aされた企業はM&A時点での時価総額
  3. オプトグループの出資企業が、他の上場企業に株式交換でM&Aされた際、その時点でオプトが保有した、そのM&Aした上場企業の年末時点数字
  4. オプトグループの出資企業が、他企業にM&Aされた時点の時価総額
  5. オプトグループあるいはオプトグループの出資企業の出身者が起業した企業の集計可能な年末時点数字

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部