「東京2020オリンピック」が幕を開けた。コロナ禍で1年延期され、大半の競技会場が無観客となるなど異例の五輪となったが、連日のように、世界中を熱くするドラマが生まれている。では過去、五輪とM&Aの関係はどうなのだろうか。2000年以降の五輪イヤー(夏季大会)に起きた主なM&Aにフォーカスしてみると。
東京五輪が本来であれば開催されていた2020年。実は、日本のM&A史を飾る超大型案件が相次いだ。取引金額の歴代トップ10に3件がランクインしたのだ。
半導体設計子会社の英アームを約4.2兆円で売却することを発表したソフトバンクグループの案件は日本企業が関わるM&Aとして過去2番目の規模となった。売却先は米国の半導体メーカー、エヌビディア。ソフトバンクグループは2016年にアームを3.3兆円で買収しており、わずか4年の間に「買い手」と「売り手」の双方を演じ、1億円近い差益を手にする“千両役者”ぶりだ。
セブン&アイ・ホールディングスが米コンビニ3位のスピードウェイを2.2兆円で買収する案件は歴代5位。国内塗料最大手の日本ペイントホールディングスがシンガポール企業の傘下に入る案件では買収金額が1.2兆円近くに上り、こちらは歴代10位に位置する。
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仕切り直しの形で五輪イヤーとなった2021年も大型M&Aには事欠かない。3月に日立製作所が米IT企業のグローバルロジックを1兆386億円で買収すると発表したのを筆頭に、1000億円超の案件は上期だけで11件を数え、2020年の年間件数(12件)にほぼ肩を並べる。
過去の五輪イヤーをみても、世間の注目を集めたM&Aが少なくない。2016年に当時、経営再建中のシャープが台湾の鴻海精密工業の傘下に入ったほか、2012年には新日本製鉄と住友金属工業が合併して新日鉄住金(現日本製鉄)をスタートさせた。
金融では2004年、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが経営統合で合意し、今日の三菱UFJフィナンシャル・グループに発展した。
シドニー五輪の2000年には国内初の敵対的TOB(株式公開買い付け)が起きた。村上世彰氏率いる村上ファンドが標的としたのは不動産会社の昭栄(東証2部、現ヒューリック)。日本企業の間で、敵対的TOBは長らくタブー視されてきたが、ここ数年は抵抗感が薄れつつあり、今年は日本製鉄が東京製綱に実行したことにも表れている。
ちなみに、前回の東京五輪の1964年には、財閥解体で分割されていた新三菱重工業、三菱日本重工業、三菱造船の3社合併で三菱重工業が発足した。
◎過去の夏季五輪と主なM&A
開催年 | 開催地 | 主なM&A |
2021年 | 東京 | ヤフーとLINEの経営統合が完了し、新生「Zホールディングス」誕生 |
日立製作所、米IT企業のグローバルロジックを1兆円超で買収すると発表 | ||
2020年 | 東京 | <1年延期> |
ソフトバンクG、半導体設計子会社の英アームを米エヌビディアに4.2兆円で売却すると発表 | ||
セブン&アイHD、米コンビニ大手のスピードウェイを2.2兆円で買収すると発表 | ||
日本ペイントHD、シンガポールの塗料大手ウットラムグループの傘下に | ||
NTT、携帯子会社のNTTドコモを4.2兆円で完全子会社化 | ||
2016年 | リオデジャネイロ | 台湾の鴻海精密工業、シャープを3888億円で買収 |
ソフトバンクG、半導体設計大手の英アームを3.3兆円で買収すると発表 | ||
2012年 | ロンドン | 新日本製鉄と住友金属工業が合併し、新日鉄住金(現日本製鉄)が発足 |
ソフトバンク、米携帯大手のスプリント・ネクステルを1.8兆円で買収すると発表 | ||
2008年 | 北京 | 武田薬品工業、米バイオ医薬品のミレニアム・ファーマシューティカルズを9000億円で買収を発表 |
米シティグループ、日興証券を買収(2009年に三井住友銀行に売却) |
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2004年 |
アテネ |
三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが経営統合(2005年10月)で基本合意 |
2000年 |
シドニー |
金融再生委員会、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)をソフトバンクなど3社連合に譲渡を決定 |
三和・東海・東洋信託銀行が経営統合を発表(UFJグループへ) |
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村上ファンド、不動産会社の昭栄(現ヒューリック)に対して国内初の敵対的TOBを実施 |
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第二電電(DDI)、国際電信電話(KDD)、日本移動体通信(IDO)が合併してKDDIが発足 |
文:M&A Online編集部