「新型コロナ感染拡大」にもかかわらず、自転車業界が好調な理由

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新型コロナの影響で「自転車特需」が?(写真はイメージです)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で日本経済の深刻な落ち込みが懸念されるが、一方で好調な業界がある。自転車業界がそれ。マスクや医薬品などの「コロナ関連」ならばともかく、無関係としか思えない自転車業界が、なぜ「消費の逆風下」にもかかわらず好調なのか?

「新型コロナ不況」が懸念される上期に2ケタ増予想

全国で約450店舗の自転車専門販売店「サイクルベースあさひ」を展開する、あさひ<3333>決算が注目されている。2020年4月3日に発表した同社の2020年2月期決算は、売上高が約598億円(対前期比4.2%増)、営業利益が約40億円(同2.3%増)、経常利益が約42億円(同5.5%増)、当期純利益が25億円(同8.4%増)。増収増益の好決算ではあるが、取り立てて目立つ内容ではなかった。

「サイクルベースあさひ」の店内(同社ホームページより)

しかし、投資家を驚かせたのは2020年8月中間期の決算予想だった。売上高は約374億円(対前期比10.0%増)、営業利益が約45億円(同19.2%増)、経常利益が約45億円(同16.2%増)、当期純利益が31億円(同19.9%増)と、いずれも2ケタ増を予測しているのだ。

2020年3月~8月といえば、新型コロナウイルス感染症による経済の落ち込みが最も厳しいとみられている期間。その時期に2桁の増収増益を予想する企業など、ほとんどない。しかも自転車は食料品や衣料などの生活必需品とは違い、今すぐなくても困らない「不要不急」の最たる商品だ。

もちろん、あさひが目立ちたいがために適当な予想をぶち上げているわけではない。同社が決算と同日に発表した2021年2月期の初月に当たる2020年3月の営業速報によると、売上高は対前年同月比で21.3%増、客数は同14.1%増、客単価も7.1%増と、いずれも好調だった。

事実、自転車は売れており「品薄」の状況にある。全国で価格が高い電動アシスト自転車を中心に、入荷待ちの状態だ。これは新年度から自転車通学を始める新中・高校生の新規購入月に当たるという季節的な要因もある。とはいえこれは毎年恒例のことで、メーカー、店舗ともに十分な在庫を抱えていたはずだ。

新型コロナ禍で「自転車見直し」の動き

だが、今年は新型コロナウイルス感染症の拡大という「異常事態」が起こった。国産自転車メーカーの多くは自転車用フレームを中国から輸入しており、一足先に感染が拡大した現地部品メーカーからの供給が滞り、生産台数が激減したのだ。品薄を受けて消費者が自転車を買い急いだため、販売単価も上昇した。

1月7日を100とする株価比較だと、あさひは3月6日には77まで落ち込んだが強気の決算予想を受けて4月7日には90まで回復。同日の日経平均株価が80に留まっていることからも、株価の回復が早いことが分かる。その他の自転車関連銘柄でも、シマノ<7309>が86、ブリヂストンサイクルの親会社であるブリヂストン<5108>が81と、それぞれ日経平均を上回る株価の回復を見せた。

1月7日を100とした時の株価推移
  1月7日 2月7日 3月6日 4月7日
あさひ 100 98 77 90
シマノ 100 100 83 86
ブリヂストン 100 99 85 81
日経平均株価 100 101 88 80

今後は中国からの部品供給の回復を受けて、バックオーダー(受注残)処理に伴う販売増が見込まれる。さらには2020年4月8日の緊急事態宣言でスポーツクラブが全面営業自粛となる大都市圏で代替の運動手段として自転車が注目されていることや、感染を心配して電車やバスなどの密閉された交通機関での移動を嫌う人たちが自転車による移動に切り替えるなどの「コロナ特需」もありそうだ。

新型コロナウイルス感染症の拡大で厳しい外出制限を課している米ニューヨークでも、ビル・デブラシオ市長が感染拡大を防ぐための市民向けガイドラインで「自分と他者を守るため、ラッシュアワーの時間帯に地下鉄を利用しないようにして、自転車などの代替手段で通勤しよう」と呼びかけたのを受けて、利用者が急増している。

二ューヨークのレンタル自転車サービス会社Citi Bikeは同3月12日、利用率が前年比で最大67%増加したと発表。ニューヨーク市運輸局も同日、気温の上昇と同ガイドラインの発表により、イースト川にかかる橋での自転車通行量が前年比で50%も増加したと公表した。新型コロナウイルスの感染拡大は、計らずも自転車の「追い風」になりそうだ。

文:M&A Online編集部