【マイ・ブルーオーシャン】新規事業のヒントここにあり “ネコ専用アパート”とは(2)

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ネコ専用アパートは単なるビジネスではない。その根底にある熱い思いを語る木津イチロウ氏

まだ誰も見ぬ“ブルーオーシャン”。未開拓の市場を見つけ、切り開いていった先人たちがどのようにしてビジネスチャンスをつかみ、事業を立ち上げていったのか。経験に基づいた話から新規事業のヒントを探っていく。
今回も前回に引き続き、ネコ専用アパートの経営およびコンサルタントを行う木津イチロウ氏に話を伺った。ネコ専用アパート経営のその先には、壮大な社会的使命を見据えていた。

ウェブサイトやブログで自ら発信

自宅であるネコ専用アパート「Gatos Apartment」について、ウェブサイトやブログなど自身の手で発信していくうちに、「どうやってネコ専用アパートを建てたのか」「見学したい」といった問い合わせがたくさんあったという。
実は、入居の問い合わせも自前のウェブサイトやSNS経由がほとんど。入居者の募集に際しては、「SUUMO」や「Yahoo!不動産」などの大手不動産情報サイト、ペット専門サイト、オシャレ系不動産情報サイトにも掲載したそうだが、これまで入居した人たちは自前のウェブサイトやSNS経由で申し込みをしてきた人ばかりだ。その結果を木津氏は次のように考察する。

掲載先
大手不動産情報サイト 他物件に埋もれてしまう、平均よりも高めの家賃など検索条件に引っかかりにくい
ペット専門サイト 当時、サイト来訪者のマインドは「ペット=犬」だった
オシャレ系
不動産情報サイト
問い合わせや内見はあるものの、ネコを飼っていない/飼うつもりもない人たちだった
「僕もネコ好きなので、自分で発信していると自ずとネコ好きの人たちが集まってくるんです。グラスルーツですよね。求めている人にきちんとリーチする確度が高まったのだと思います」(木津氏)

コンサルタントも手掛けることに

こうしたネコ専用アパートへの問い合わせに対して、はじめのうちは無償で答えていたが、何度も無料で相談するのが忍びないという相手方からの申し出で、一昨年ごろからコンサルタントとしても活動するように。

「アパート経営の経験がない方から、他物件と差別化を図るためにもネコ専用アパートを建てたいという相談を受けて、アパートの監修をすることになりました。これも全くの偶然です」(木津氏)

こうして2016年に出来上がったのが横浜にある「Seilan Apartment」だ。遺産相続の末、物件を新たに建てようとした相談主は、周辺に20㎡程度のワンルームはたくさんあったが、どれも空室という状況に危機感をおぼえ、木津氏に相談したのだという。家賃設定は周辺アパートよりも2、3割高かったが、3ヶ月ほどで満室となった。

ネコ専用アパートをやると入居者が集まるという認識が世に広まり、日本全国から問い合わせが相次いだ。主に相談してくるのは、遺産相続などで土地や物件がある人、無類のネコ好き、投資目的の人の3タイプだという。

「それでも半分くらいの人たちはネコ専用アパートを建てるのをあきらめてしまいます。僕くらいの熱量を引き継げないと言って(笑)」(木津氏)

“ネコノミクス”への危惧

今後も空室に困っている大家と、ネコを飼いたいけど飼える物件が見つけられない人との橋渡しをしていきたいという木津氏。さらにその両者を啓蒙して、ネコのことを深く理解している“ネコリテラシー”の高い飼い主を増やしつつ、ネコを飼いたい人たちが満足できる環境を増やしていきたいと語る。

「近年の“ネコノミクス”というブームにのって、“ネコリテラシー”の低い人がネコを飼うことで、無責任な飼い方をしてネコを捨てたりしなければいいなと思っています。そして、大家さんの“ネコリテラシー”も高めて、健全なネコ専用アパートを増やしていきたいですね」(木津氏)

殺処分されるネコを減らしたい

ボランティアの人たちの活動で、ネコの殺処分数は減少傾向にある。一昨年の12万匹から昨年は9万匹へと減った。その数を今後もっと減らしていきたいと木津氏は言う。

「20代、30代の若い人が殺処分されるネコを引き取って安心して飼える環境で暮らせる社会にしていきたいんです。そのためには、まずはネコを飼いたくても飼えない人たちが飼えるようになるインフラを整えること。そうしないとネコを飼う人のパイが増えません。ネコを飼える環境を増やし、かつその環境を人間にとってもネコにとっても快適な空間にすることを目指しています」(木津氏)

マイホームの建設から、ネコに導かれるようにして“ブルーオーシャン”を切り開いていった木津氏。今後の活動もきっとユニークなものになっていくにちがいない。

取材・文:M&A Online編集部