NTTドコモ<9437>が2020年12月3日、「通信容量20GB(ギガバイト)で月額2980円」というスマートフォン向け料金プラン「ahamo(アハモ)」を2021年3月から提供すると発表した。ライバルの大手キャリア2社どころか、格安スマホサービスと呼ばれるMVNO(仮想移動体通信事業者)よりも格安という価格破壊料金だ。ドコモの狙いは「MVNOつぶし」なのか?それとも…。
MVNO大手の日本通信<9424>は翌4日、同20GBに加えて月70分までの通話料金を含めて月額1980円という「SSDプラン」を発表した。同社は「MVNOつぶしではないかといわれているドコモの新料金に、MVNOの代表として対抗プランを投入する」と危機感をあらわにしている。
確かにMVNOが震え上がるのも無理はない。「格安」と人気を集めているMVNOですら、同20GBの料金は4000円台半ば。おそらくahamoが投入される頃にはMVNOがドコモに支払うパケット接続料も引き下げられるだろうが、それでも料金総額が減るだけに利幅は薄くなる。
おまけにahamoには追加料金なしでの5G(第5世代移動体通信)対応や海外でのデータ通信など、MVNOでは実現が難しい付加サービスもあり、「MVNOから大量に顧客が流出するのではないか」ともささやかれている。
比較表 | |||||||
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企業名 | プラン | 料金(税別) | 最大通信容量 | 容量超過後の通信速度 | 5G対応 | 無料国内通話 | 海外利用 |
NTTドコモ | ahamo | 2980円 | 20GB | 最大1Mbps | 無料 | 5分以内/回 | 20GBまで可・無料 |
楽天モバイル | Rakuten UN-LIMIT V | 2980円 | 自社エリア無制限 / 他社エリア5GB | 他社エリアのみ最大1Mbps | 無料 | アプリ使用でかけ放題 | 2GBまで可・無料 |
インターネットイニシアティブ | IIJmio | 3260円 | 12GB | 最大0.2Mbps | ☓ | オプション(600円〜) | 不可 |
NTTコミュニケーションズ | OCN モバイル ONE | 4400円 | 20GB | 最大0.2Mbps | ☓ | オプション(850円〜) | 音声・ショートメッセージのみ可 |
オプテージ | mineo | 4590円 | 20GB | 最大0.2Mbps | オプション(200円) | オプション(850円) | 音声・ショートメッセージのみ可 |
だが、ドコモが考えるahamoのターゲットは、MVNOではないだろう。なぜならMVNOの主要顧客層は、同3〜5GB程度の中容量データ通信を利用している層だからだ。同20GBのような大容量プランは、ドコモをはじめとする主要キャリアの方が強い。
理由は通信速度だ。主要キャリアの回線を再販売するMVNOは、1ユーザー当たりのデータ利用帯域を狭めに提供することで利益をあげており、主要キャリアよりも通信速度は遅い。ユーザーは高速通信が必要な動画やゲームを楽しむために大容量プランを選ぶ。いくら安くても、通信速度が遅くては本末転倒だからだ。
おそらくドコモが想定する「真のターゲット」は楽天モバイルだろう。楽天モバイルは「価格破壊」の旗手として自社エリアでは5Gを含むデータ通信が無制限、アプリ利用で通話かけ放題、同2GBまで海外でのデータ通信が無料となる月額2980円の「Rakuten UN-LIMIT V」プランを提供している。
料金といい内容といい、ドコモのahamoが楽天モバイルのRakuten UN-LIMIT Vを意識しているのが分かるだろう。ahamoはRakuten UN-LIMIT Vと真っ向からぶつかる料金プランなのだ。そもそもMVNOの多くが自社回線を利用しているドコモにとって、「お得意様」のMVNOをつぶしたところで何のメリットもない。
ドコモとしては「業界慣習」を無視した型破りな経営を展開する楽天モバイルを最も警戒しているはずだ。ahamoのサービスが始まる2021年3月には、楽天モバイルの人口カバー率は70%に広がる。
ドコモとしてはその段階でRakuten UN-LIMIT Vよりも魅力的な格安プランをぶつけることで、楽天モバイルの勢いを削ぐ狙いもありそうだ。
楽天モバイルはahamoに対抗して、さらに低料金のプランを投入するのだろうか?しかし、それは非常に難しい。同社は新規の基地局建設や1年間無料キャンペーンで、多額の先行投資を余儀なくされている。
このうえ料金を引き下げるとなると、経営戦略を根本から練り直すしかない。当然、楽天モバイルの売却や通信市場からの撤退も俎上に上るだろう。2021年3月、国内通信業界に「激震」が走るかもしれない。
文:M&A Online編集部