東洋建設と大豊建設の買収劇、共通キーワードは「旧村上ファンド系」

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麻生の傘下に入ることになった「大豊建設」…建設工事の現場(東京都中央区)

建設業界でここへきて大型M&Aが連続している。ターゲットは東洋建設と大豊建設。前者には前田建設工業を中核とするインフロニア・ホールディングス、後者には九州の企業グループ「麻生」(福岡県飯塚市)が買収者として名乗りを上げた。一見無関係に見える二つ買収劇だが、実は共通するキーワードがある。それは、「旧村上ファンド系」だ。

インフロニア、東洋建設に580億円TOB

インフロニア・ホールディングスは3月22日、海洋土木大手の東洋建設にTOB(株式公開買い付け)を行い、完全子会社化すると発表した。現在、傘下の前田建設を通じて東洋建設株の20%余りを保有し、持ち分法適用関連会社としている。買付代金は最大約580億円に上る。

その東洋建設の大株主として名を連ねていたのが旧村上ファンドの流れをくむ投資会社の一つ、レノ(東京都渋谷区)。持ち株比率はインフロニアがTOBを発表する直前まで7.31%だった。

ところが、レノは3月30日に持ち株比率が1.89%に低下したとする大量保有の変更報告書(報告義務発生日は3月23日)を提出。TOBのアナウンスで東洋建設株が急伸すると、すかさず保有株の約3分の2を売却したのだ。

レノによる5%超の新規保有が明らかになったのは昨年1月。その後、買い増しのペースは鈍く、持ち株比率が10%を超えることはなく、特段の株主要求があったわけでもない。とはいえ、当の東洋建設にとっては、物言う株主の代名詞、旧村上ファンド系が株主として関与してきたことが相当なプレッシャーになっていたのは間違いない。

「西松建設」株は昨年末までにすべて売却

それもそのはず。建設業界では2020年以降、準大手の西松建設、中堅の大豊建設が旧村上系の標的となり、大規模な自社株買いによる株主還元や経営の見直しなどの要求を突きつけられ、四苦八苦していたからだ。

旧村上系のシティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)はピーク時に、西松建設株の約25%を保有。最終的に、自社株買いと伊藤忠商事による株式取得に応じて西松建設株のすべてを昨年12月までに売却した。

大豊建設にいたっては同じくシティによる持ち株比率が今年1月に38.67%(直近は39.06%)と4割近くに達し、経営の主導権を旧村上系に握られていたのも同然だった。

こうした状況下、東洋建設は旧村上系の機先を制する形で、インフロニアの傘下に入ることを決断。インフロニアも東洋建設が得意とする港湾・海上分野の技術・ノウハウを取り込み、港湾インフラのコンセッション(民間事業者による公共施設運営)事業や洋上風力発電などへの展開に弾みをつける狙いがある。

大豊建設、麻生が「ホワイトナイト」に

一方、大豊建設には「ホワイトナイト」(白馬の騎士)として麻生が救済の手を差し伸べ、筆頭株主の旧村上系との対立関係が解消に向かうことになった。大豊建設は年度末を1週間後に控えた3月24日、セメント事業や医療関連事業を手がける麻生の傘下に入ると発表した。

麻生は総額403億円の第三者割当増資を引き受け、大豊建設の株式50.74%を取得し、子会社化する。一方、大豊建設は調達資金をもとに自社株買いを行い、シティは全保有株について応じる予定だ。

麻生といえば、その名前の通り、麻生太郎元首相・現自民党副総裁の身内企業。2018年には特殊土木大手の日特建設をTOBで子会社化している。

建設は旧村上系が動きを活発化させている業界の一つ。シティは東亜建設工業株を9.35%、三井住友建設株を6.25%保有していることが大量保有報告書で判明しており、株式市場では今後、買い増しが進むのかどうか、その動向が注目されている。

文:M&A Online編集部

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