市議会議員の不正をローカル局が調査報道で暴く『はりぼて』

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©チューリップテレビ

ローカル局が調査報道で暴いた保守王国議員の不正

富山県のローカル局「チューリップテレビ」(TBS系)が4年前に開始した、富山市議会の不正を暴いた調査報道が映画化された。8月16日から公開中の『はりぼて』がそれで、2016年12月に同局が放送した『はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防~』の後もなお続いた、議会のさらなる腐敗と議員たちの開き直りともいえる顛末を追った政治ドキュメンタリーである。同局の報道記者である五百旗頭(いおきべ)幸雄、砂沢智史の両氏が監督を務めた。

映画『はりぼて』のあらすじ

2016年8月、チューリップテレビがニュース番組で、「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」とスクープ報道をした。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党の重鎮で、その後、自らの不正を認め議員を辞職。これを皮切りに与野党の議員の不正が次々と発覚し、半年の間に14人もの議員が辞職した。

不祥事の反省に立って富山市議会は、政務活動費の使い方について「全国一厳しい」と胸を張る条例を制定したが、3年半が経過した2020年、不正が発覚しても議員たちは辞職せず居座るようになっていった。

記者たちは議員を取材するなかで、政治家の非常識な姿や人間味のある滑稽さ、「はりぼて」を目のあたりにしていく。

あっけなく辞職する議員たちの滑稽な振る舞いは、観る者の笑いを誘わずにいられない。有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一とされる保守王国、富山県で起きた出来事は、地方のみならず国のあり方、社会のあり方に通じる普遍的な問いを投げかける。私たち有権者は議会や議員たちを笑うことしかできないのだろうか。果たして「はりぼて」は誰なのか?

丹念な取材がスクープに結実

本作に登場するチューリップテレビは1990年10月開局で、富山県にある民放テレビ3局の中で最も若い局である。従業員数は80人程度で報道部門の人数も先発局に見劣りする。そんな同局が放ったスクープ報道は、情報開示請求で議員の政務活動費の領収書を入手し、1枚1枚読み込むところから始まった。

その数、9700枚。領収書の品名に「政務報告会資料印刷」とあれば、実際に報告会が開かれていたか、会場の収容人数と資料の印刷部数は整合しているかなどを取材で検証する。

丹念な調査報道で固めた不正疑惑を、いよいよ議員本人にあてる。記者とカメラマンが議員の自宅を訪ね、領収書のコピーを示しながら「政務報告会は本当に開かれていたのですか?」と問い詰める。しどろもどろの答えに終始する議員。スリリングなシーンだ。

富山市議会議員の政務活動費の不正使用をめぐる同局の一連の報道は、2017年の放送界の主要な番組賞やジャーナリズム関連の賞を総なめにした。

メディアもまた「はりぼて」ではなかったか?

緊迫感の一方で、慌てた議員の表情からは、悪人というよりも人間味を感じさせる滑稽さが印象に残る。映画の公式サイトで、砂沢智史監督はこうコメントしている。

「富山市議会の不正問題は発覚してから4年が過ぎました。辞職した市議は裁判を経て、新たな人生をスタートしています。そんな中、今これを映画として世に出し、彼らの過去を掘り返すことは許されるのか。その悩みは今も抱えています。『はりぼて』で描いたのは『人間の弱さ』です。絶大な権力を振るった市議会の『ドン』は、辞職後に自らの不正を告白します。『遊ぶ金が欲しかった』その告白は生々しいものでした」

もう一人の監督である五百旗頭幸雄氏は、こう述べている。

「不正が発覚しても責任を取らなくなった市議たち。彼らにぶつけた厳しい言葉の数々が宙をさまよい、無力感となって戻ってきました。『はりぼて』があぶりだすのは。議会と当局の姿だけではありません。それらを許し、受け入れてきたメディアと市民を含む、4年間の実相です」

彼らのコメントからはスクープを飛ばした晴れがましさは微塵も感じられず、取材・報道することの痛みや、自分たちメディアもまた「はりぼて」ではなかったかという自責の念が読み取れる。本作にテレビ特番のようなサブタイトルを付けなかった理由も、そこにあると思われる。

人づきあいが濃い地方社会で、地元の名士である市議会議員の不正を暴き続けることは、放送局としても、そこで働く個人としても苦労を伴い、“世間”の批判の対象となりがちだ。そうした風潮があるにしても、「はりぼて」のようなローカル局の意欲的な調査報道に期待したい。この映画が地方議会への関心を高めるきっかけとなってほしいと、砂沢氏は前出のコメントを締めくくっている。

権力の監視役というマスメディアの伝統的な役割を体現した好例として、多くの人に観てもらいたい映画である。

文:堀木 三紀(映画ライター)

<作品データ>
『はりぼて』
監督:五百旗頭幸男 砂沢智史
撮影・編集:西田豊和
プロデューサー:服部寿人
語り:山根基世
声の出演:佐久田脩
テーマ音楽:「はりぼてのテーマ~愛すべき人間の性~」作曲・田渕夏海
音楽:田渕夏海
音楽プロデューサー:矢崎裕行
2020年/日本/日本語/カラー/ビスタ(1:1.85)/ステレオ/100分
配給:彩プロ
©チューリップテレビ
2020年8月16日(日)渋谷 ユーロスペースほか全国順次公開

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