1971年に放映がスタートした特撮ドラマ『仮面ライダー』。その生誕50周年という記念すべき年に、東宝・カラー・円谷プロ・東映の4社が立ち上げたプロジェクト「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」4作品目の『シン・仮面ライダー』が公開となりました。
「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」は『シン・ゴジラ』(2016年)を皮切りに、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)、『シン・ウルトラマン』(2022年)が公開され、今回の『シン・仮面ライダー』が最後の作品となります。
関連記事はこちら
・最強コラボ!「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」が始動
筆者は公開初日に『シン・仮面ライダー』を鑑賞したのですが、まず「まごうことなき庵野秀明監督作品だな」という印象を持ちました。というのも、『シン・ゴジラ』も『シン・ウルトラマン』も公開された時は「いかにも庵野作品らしい」と言われたものですが、『シン・仮面ライダー』を見れば前2作品は樋口真嗣監督というクッションが一枚入っていたことを改めて感じます。
今回の『シン・仮面ライダー』はそのワンクッションが無い分、ある意味ちょっとわかりにくい世界観を感じますが、それこそがいかにもエヴァの庵野っぽく、個人的には喜びと苦笑いの混じった笑顔になりました。
『シン・仮面ライダー』における重要な要素である「プラーナ」やショッカーによる「ハビタット世界計画」など、よくわからない用語が当たり前のように登場し、特に説明もなく普通に使われ続けます(この辺りはネタバレ満載のパンフレットなどで確認すると良いと思います)。
もちろん、普通に予備知識なく『シン・仮面ライダー』を鑑賞しても十分楽しめる映画なのですが、本作は仮面ライダーや石ノ森章太郎、庵野作品の事情通にこそ、その神髄を堪能できる一本と言えるでしょう。
もちろん『シン・ゴジラ』にも『シン・ウルトラマン』にもそういった要素はあって、そこにオリジナルファンは喜び、時に反発したものです。
『シン・ゴジラ』でいえばグローリー丸(オリジナルでゴジラに壊された船・栄光丸へのオマージュ)を筆頭に、ゴジラの侵攻ルートが原典の1954年の『ゴジラ』をトレースしたものになっています。
『シン・ウルトラマン』では、胸にカラータイマーが無かった成田亨の最初のデザイン案を採用したところから始まり、禍威獣(かいじゅう)や禍特対(かとくたい)と言ったネーミングや、メタ的な怪獣スーツの流用をストーリーに落とし込んだり、当時の児童誌の情報を取り込んだりして魅せました。
『シン・仮面ライダー』は『シン・ウルトラマン』同様、長いテレビシリーズから重要なエピソードを切り出して再構築したうえで、石ノ森章太郎による漫画版などテレビシリーズ本編以外からもネタを発掘してきています。
さらに『シン・仮面ライダー』で庵野監督は、仮面ライダーの枠組みを通り越して複数の石ノ森章太郎作品から、エッセンスを抽出しています。特にクライマックスの暗所でのスピーディーなアクションシーンは、一見何が起きているのかわからない場面になっています。
これは少年時代の庵野監督が電波状況の悪いテレビで見ていたときに感じた、仮面ライダーの「良くわからないけれど、格好良い」という思い出の再現シーンと言えるでしょう。
庵野監督は「ノスタルジーは捨てたくない」と力説していましたが、クライマックスは仮面ライダーファンと庵野少年という二つのノスタルジーが詰め込まれていると思います。
さて、その『シン・仮面ライダー』ですが、興行3日間の数字が発表され、観客動員34.5万人、興行収入5.4億円を記録しました。これは同日公開の目黒蓮初主演映画『わたしの幸せな結婚』(動員47.9万人、興行収入6.5億円)に続く、2位の成績でした。
3月17日の朝から公開していた『わたしの幸せな結婚』と夜18時からの公開だった『シン・仮面ライダー』とで、その上映回数の差という見方も出来ますが、『シン・仮面ライダー』は17日の舞台挨拶と300スクリーンを超す中継イベント、その後メインキャストによるゲストビジットなど積極的にプロモーションを行った結果で2位というのは、ちょっと予想外でした。
ともあれ『シン・仮面ライダー』の数字自体は1月公開の『レジェンド&バタフライ』と同等の数字なので、悪くはありません。1位の『わたしの幸せな結婚』が強かったというのが正直なところです。
シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースの『シン・ウルトラマン』との対比でみても、観客動員が53.9%、興行収入で54.5%です。『シン・ウルトラマン』は金曜日の朝から公開していたこともあり、最初の3日間で観客動員で64万人、興行収入9.9億円を上げています。これは『シン・ゴジラ』対比で動員113%、興収117%というロケットスタートでした。
ただ『シン・ウルトラマン』の最終興行収入は44.4億円にとどまり、82.5億円の興行収入を上げた『シン・ゴジラ』の半分程度でしたので、最初の3日間だけではまだわかりません。IMAXや4Dなどのラージフォーマットを含めて、相応の興行規模は確保できると思われますので、ここからの粘りに期待したいところです。
●シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースの最終興行収入
作品名 | 最終興行収入 | 公開年 |
---|---|---|
『シン・ゴジラ』 | 82.5億円 |
2016年7月 |
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 | 102.8億円 |
2021年3月 |
『シン・ウルトラマン』 | 44.4億円 |
2022年5月 |
『シン・仮面ライダー』 | ??? |
2023年3月 |
興行通信社公表値よりM&A Online編集部作成
気になる『シン・仮面ライダー』の興行収入予想ですが、4作品のうち最も興行収入が良かった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は初日興行収入が8.3億円、最終興行収入は102.8億円でしたので、『シン・仮面ライダー』の大台突破(100億円ライン)は厳しいかもしれません。
そして、早くも続編の可能性についてですが、『シン・ゴジラ』の場合、ハリウッド版モンスターユニバースとの兼ね合いや、2023年11月に『永遠の0』の山崎貴監督による新作ゴジラ映画の公開が決まったこともあって、続編の可能性は低いと思われます。
一方で『シン・ウルトラマン』と『シン・仮面ライダー』は、庵野監督自身がインタビューなどで続編の構想に触れるなど、続編の可能性を残しています。原作を踏襲するのであれば、どちらも続編は成立します。どうなるか注目したいと思います。
文:村松健太郎(映画文筆屋)/編集:M&A Online編集部
※興行収入、観客動員は興行通信社調べ