「あの時」何があったのか 『TELL ME ~hideと見た景色~』

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©2022「TELLME」製作委員会

X JAPAN解散とhide急逝 当時を振り返って

私は、決して音楽に詳しいわけでも、ロックに傾倒しているわけでもなく、X JAPANというバンドについてもhideというギタリストの存在についても極々一般的なことを知っているだけの者です。とは言え、1979年生まれの筆者にとって、1997年のX JAPAN解散から翌年のhide急逝という一連のショックな出来事は今も記憶に残っています。

1997年のあの日、私は大学浪人生でした。予備校の学食でバンギャ系のファッションに身を包んだ一団が、まるでお通夜のような雰囲気を醸しだしていました。失礼にならない範囲でその様子を見ると、テーブルに置いてあったスポーツ新聞に「X JAPAN解散」の文字がありました。

X JAPANが独自の地位を確立していることは知っていましたし、熱烈なファンがいることも知っていましたので、ファン心理を考えるとそのショックは相当なものだろうと思ったものです。結局、その年の紅白歌合戦でのパフォーマンスを最後にX JAPANは解散しました。

熱心なファンではなかったものの、X JAPANのメンバーがバンド活動中に並行してソロ活動をしていることは知っていましたし、映画のタイトルになった「TELL ME」という楽曲も、hideがX JAPAN在籍中に発表した8㎝シングル盤を持っていました。

音楽に限らず、ありとあらゆる創作物に対して言えることだと思いますが、”創造”とは作者のこだわりである”独自性”と収益に結び付ける”大衆性”という相反するものとの戦いだと思います。偉そうに音楽論を語れるほどの身分ではありませんが、hideのソロワークを聞いて、その相反する要素のバランスの良さを感じました。

そんな思いもあったので、X JAPAN解散直後の1998年の年明け早々にhideが「hide with Spread Beaver」として動き出すと聞いた時には素直に嬉しくて、ファーストシングルの「ROCKET DIVE」は発売日にレコードショップで購入した記憶があります。

しかし、その新曲発売から4か月も経たない5月2日にhideは急逝してしまいました。

無事大学生になっていた私は、休暇中にテレビを見ていると「元X JAPANのギタリストhideが死亡」というショッキングな速報が流れてきました。報道が過熱を帯びるなか、熱心なファンではない私ですら随分と感傷的になったものです。

映画『TELL ME ~hideと見た景色~』は、hideの急逝から物語が始まります。hideが亡くなったのはhide with Spread Beaverが順調に動き出した、その矢先のことでした。

映画『TELL ME ~hideと見た景色~』のあらすじ

hide with Spread Beaverのメンバー、さらにパーソナルマネージャーを務めた実弟の松本裕士(演:今井翼)は大きな混乱と喪失の中でhideを弔ったあと、すでに完成していたhide with Spread Beaver の2枚のニューシングルの発売の可否、製作中だったニューアルバムの製作、その先に予定されていたライブツアーについて動き出さなくてはいけませんでした。

2枚のニューシングル(「ピンクスパイダー」と「ever free」)の発売こそ予定通り行えたものの、hideという大きすぎる存在が消えたことで、以降のアルバム製作とツアーに行き詰まってしまいます。

ニューアルバムについては製作が遅々として進まず、発売無期延期の可能性も出ていました。そんな中でhideの創作上のパートナーであるI.N.A.(演:塚本高史)を中心とした関係者たちの尽力により、新曲「HURRY GO ROUND」が完成します。

映画『TELL ME ~hideと見た景色~』では、この新曲の創出が、それまで行き詰っていた状況を打破したと描かれています。

その後、当初の予定より曲数を減らした形でhide with Spread Beaver名義としては初のニューアルバム「Ja,Zoo」が完成します。さらに、既存のhideの歌唱映像にhide with Spread Beaverのバンドメンバーが生で演奏を付け加えるという前代未聞のライブツアーを始動させます。今でこそライブフィルムツアーはめずらしくありませんが、この当時(1998年)では斬新な方法だったのです。

ちなみに映画『TELL ME ~hideと見た景色~』は、このライブツアーをクライマックスに持ってきています。hide本人の歌唱音源を使ったライブシーンは、ヒットナンバーのメドレーということも相まって、見ていてテンションが自然と上がります。

クライマックスのライブシーンに注目

とはいえ、映画『TELL ME ~hideと見た景色~』に注文がないわけではありません。クライマックスのライブシーンも実物の映像のほかに再現のパートがありますが、楽曲の合間に家族たちの姿を挿入したりという気持ちはわかるものの、そこは演奏シーンだけで押し通してくれた方が良かったです。

また、諸事情もあるかと思われますが、劇中ではhideが音楽を始めたところからhide with Spread Beaverまでの間に在籍した大きな二つのバンドのことはほとんど語られておらず、hideの足跡を辿るという意味では微妙な気持ちになるファンもいるかもしれません。

一方、キャスティングは正解。演者たちも健闘していると言っていいでしょう。

ミュージシャンに限らずスポーツ選手や料理人など、特殊な技能を持っている人物を中心に据える時、その特殊技能を有する人に演技をさせるか、演技が上手い人に技能を習得させるか、という選択肢があります。

最近ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』『エルヴィス』は後者で、ラミ・マレック(フレディ役)やオースティン・バトラー(エルヴィス役)にトレーニングを積ませ、歌唱シーンを演じています。

一方で、本作では前者を選びました。劇中でhide with Spread Beaverを演じる面々はhide役のJUONを含め、ほとんどが現役のミュージシャンです。演技経験の少なかった彼らは自主的にワークショップなどに参加し演技を学んだと語っています。

hide with Spread Beaverのメンバーは今でも活躍している面々が多いですし、hideの楽曲の良さを伝えるためにも演奏シーンに重きを置いた方が正解だと言えるでしょう。

映画『TELL ME ~hideと見た景色~』は“あの時”を知る人々の記憶を呼び戻し、hideの死後、彼の音楽を知った人々にとっては「“あの時”なにがあったのか」を追体験することができる映画です。

いろいろな感情が出ては消える作品ゆえ、ネット上でも賛否両論ありそうです。

文:村松健太郎(映画文筆屋)/編集:M&A Online編集部

『TELL ME ~hideと見た景色~』  
7月8日(金)全国公開
出演:今井翼 塚本高史 JUON 津田健次郎 細田善彦
監督:塚本連平
脚本:福田卓郎 塚本連平
原作:松本裕士「兄弟 追憶のhide」(講談社文庫刊)
原案協力:I.N.A.「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡」(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス刊)
配給:KADOKAWA 
製作:映画「TELLME」製作委員会
©2022「TELLME」製作委員会
2022年/111分/ビスタサイズ/5.1ch

【hideオフィシャルサイト】
http://www.hide-city.com