2022年1月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比10件増の64件となり、1月として過去10年で2020年(74件)に次ぐ2番目の高水準だった。前年同月を上回るのは昨年9月以来4カ月ぶり。前年1月は新型コロナウイルス感染拡大を受けた2回目の緊急事態宣言と重なり、20件の大幅減となったが、コロナ3年目の今年は好調な出足を見せた。
一方、1月の取引金額は2317億円(公表分を集計)で、前年同月(4374億円)のほぼ半分にとどまった。1000億円を超える大型案件がなかったためだが、日本製鉄によるタイ電炉大手の買収(880億円)をはじめ、上位には比較的粒ぞろいの案件が並んだ。
上場企業の適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。
1月のM&A64件の内訳は買収55件、売却9件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は12件(買収9件、売却3件)だった。
2021年のM&A件数は877件を数え、前年(849件)を28件上回るとともに、リーマンショック(2008年、870件)後の最多を記録し、コロナ禍をバネに活況を呈する展開となった。年明け1月も、こうした流れをひとまず受け継いだ形だ。
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金額トップは日本製鉄がタイの電炉メーカー大手のGスチール、GJスチールの2社を子会社化する案件。米投資ファンドが保有する両社の株式を2月中に取得したうえで、その後、TOB(株式公開買い付け)を行い、完全子会社化する計画で、買収総額は最大880億円となる見通し。
日本製鉄は1960年代からタイに製品加工拠点を設け、自動車、家電向けに高級鋼を供給してきた。タイでは高級鋼以外の一般的な薄板製品の需要も堅調に推移している。こうした中、東南アジアで鉄源(鋼の原料)一貫生産体制の確立を課題としていた。傘下に収めるGスチール、GJスチールはタイで唯一、電炉から熱延工程までの一貫製造設備を持つ。
通信工事大手のミライト・ホールディングスは西武ホールディングス傘下で総合建設業の西武建設(東京都豊島区)の株式95%を取得し、3月末に子会社化すると発表した。取得金額は620億円。通信キャリア各社による設備投資の抑制で主力の通信工事需要が減少する中、街づくりやグリーン発電などの成長領域で事業展開を加速するのが狙い。
西武建設は西武鉄道が全額を出資し、鉄道関連工事や沿線開発を手がけてきた。西武HDは経営改革としてアセットライト(保有資産の軽減)な事業運営を推進中。グループで保有するホテルも売却を進め、運営に特化する姿勢を明確にしている。
ミニストップは韓国で約2600店舗のコンビニエンスストアを運営する子会社の韓国ミニストップを、韓国ロッテに約304億円で譲渡することを決めた。韓国には1990年に進出したが、近年は業績が低迷していた。今後は日本国内やベトナムに経営資源を集中させる。
今年もM&Aが活発化の様相を見せているのがドラッグストアだ。
業界トップのウエルシアホールディングスは中堅のコクミン(大阪市、約190店舗)を子会社化することを決めた。ウエルシアは昨年12月に、中国・四国で約130店舗を展開するププレひまわり(広島県福山市)子会社化したばかり。
また、北陸最大手のクスリのアオキホールディングスは、岩手・宮城県で食品スーパー6店舗を経営するホーマス・キリン(岩手県一関市)とその関連会社を吸収合併する。地場食品スーパーの買収は最近2年間で6件に上る。ドラッグストアでの生鮮食品の取り扱い強化を狙いとする。
大型売却に踏み切るのは丸紅。傘下の米穀物大手ガビロンを再編したうえで、全株式をカナダの同業大手バイテラに2022年度中に売却する。売却金額は未確定だが、合計で3000億~4000億円の資金回収を見込む。丸紅は2012年にガビロンを2800億円超で買収したが、2020年3月期に800億円規模の減損処理を強いられ、穀物事業の戦略見直しを検討していた。肥料などの一部事業は丸紅側に移管する。
買付代金が最大714億円に上る片倉工業のMBO(経営陣による買収)は1月上旬、不成立に終わった。投資ファンドが関与しない過去最大規模のMBOとして注目されていたが、予定数まで株式を取得できず、株式の非公開化を断念し、一転、上場を維持することになった。
◎1月M&A:金額上位(10億円超)
1 | 日本製鉄 | タイの電炉メーカー大手のGスチールとGJスチールを子会社化 | 880億円 |
2 | ミライト・ホールディングス | 西武ホールディングス傘下の西武建設(東京都豊島区)を子会社化 | 620億円 |
3 | ミニストップ | コンビニ事業の韓国子会社を韓国ロッテに譲渡 | 304億円 |
4 | 愛三工業 | デンソーからフューエルポンプモジュール事業を取得 | 190億円 |
5 | GMOインターネット | サイバーセキュリティー事業のイエラエセキュリティ(東京都渋谷区)を子会社化 | 92.6億円 |
6 | リンテック | 米Spinnakerからラベル用粘着紙・粘着フィルム事業を取得 | 46.6億円 |
7 | ワールドホールディングス | J.フロントリテイリング傘下で人材サービス事業のディンプル(大阪市)を子会社化 | 37.8億円 |
8 | ソラスト | 都内で認可保育所を運営する「こころケアプラン」(東京都千代田区)を子会社化 | 33.4億円 |
9 | ワールド | 子供服大手のナルミヤ・インターナショナルをTOBで子会社化 | 33億円 |
10 | トランコム | シンガポール物流会社Starlink Resourcesなど2社を子会社化 | 11.4億円 |
11 | スカラ | システム開発のエッグ(鳥取県米子市)を子会社化 | 10億円 |
文:M&A Online編集部