【M&Aを成功に導く法務・知財の勘どころ 6】PMI でシナジーを出すことの観点を変えてみる

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M&Aにおける「ゴール」とは…(写真はイメージです)

本シリーズでは、M&Aの主幹部門が、ディールの効率・確度を上げるために、法務・知財部門とどのように協力すればよいのかをわかりやすく解説してきた。今回はPMI(Post Merger Integration)、M&A成立後の統合プロセスについて述べる。

「そもそも論」に立ち返れ

PMIは難しい、想定していたシナジー(相乗効果)を思っていたほど出せていないといった話を聞くことがよくある。確かに、それぞれ独自に成長してきた企業が、いきなり統合してシナジーを出すといっても難しいだろう。

では、どのようにPMIを進めていけばよいのか、そもそも論に立ち返り、見方を変えれば、取るべき方針が見えてくる。

まず、そもそも論を考えてみる。M&Aは、今後の自社の成長戦略を立てる上で計画する事業に足りないリソースがあった場合に、例えばスペック、時間のタイミングや採算の点等から、自前で充足することができないとの判断になれば進めていくものである。すなわち、M&A候補のソーシングの段階で、事業戦略案での足りないリソースの領域に対象企業が加わることで、どのような効果が生じ得るか、立てた事業戦略を遂行することができそうかを考える。

PMI、シナジーというと、2社が融合して、それぞれの企業の出せる成果を足したものプラスアルファの効果を出すことであると捉えられていると思う。先ず自社単独では成すことが難しかった事業戦略のストーリーを達成できたかの観点で見る。そして、2社を足した以上の効果があるかを見る。

この効果というのは、どちらもプラスになる必要はなく、買手が損をしても、対象企業が損した分を埋め合わせる以上の効果を上げることができれば良いのである。PMIのフェーズでは、それぞれの企業がゴールを念頭に置きつつ、実際の現場で衝突し合いながら、シナジーを創り出していく。それぞれ生い立ちが違う企業はぶつかり合うが、事業戦略が示すゴールが見えていれば、進むべき道を間違わず、シナジーを出すことができるのである。

IPランドスケープを有効活用

実際の進め方であるが、まず事業戦略を立てた後、どのような企業が加われば足りないリソースを補い、その事業戦略を達成できるのか、必要な企業の要件を出す。その要件に技術要素が含まれていれば、要件を満たす企業の候補を知財部門と連携しながら本シリーズ第3回(記事はこちら)で解説したIPランドスケープの手法も用いて探索していく。

その後、より合いそうな企業を選定していく作業に入るが、ここでも、IPランドスケープ手法による評価が有効である。必要な要件をどの程度備えていそうか、知財情報、企業情報、製品情報等から総合的に評価を出していく。このようなプレDDの段階で仮説をベースに対象企業が加わった場合のシナリオを作るのである。

この仮説については、最初から正確でなくてもよい。一旦、現有の情報から導き出させる仮説を描き、DD(デューデリジェンス )を行いながら、仮説をファクトで検証し、異なる点があると、都度、修正を行っていけばよいのである。

違和感があれば、いつでも立ち止まる

最初は公開データをメインとして行う分析のため、実際の現場から出てくる情報と異なるところはあるであろう。法務と連携する契約DDでは、実際にどのような商流となっているか、どのような取引条件となっているかを確認してビジネスの評価を行うことができる。仮説を修正した上で、当初目標としていた事業戦略のゴールに到達できるのかを検討していく。

ここで重要なのは、M&Aを行うことを目的化してしまわないことである。違和感があれば立ち止まり、他の候補を検討するか、戦略のスキームを変える勇気が必要である。それぞれの企業には多くのステークホルダーがいて、M&Aは大きな影響を与える責任の重い手段のため、おかしいと思ったら、いつでも立ち止まることが必要である。

仮説を修正していくことにより、途中に辿る道は異なるかもしれない。しかし、当初目指していたゴールに到達することができるのであれば、そのM&Aはシナジーがあり、成功と言えるのである。

法務・知財部門とも協力しつつ、戦略の仮説を立て、DDで着実に検証を行いながら、M&Aを成功に導いていってほしい。(おわり)

文:MAVIS PARTNERS  アソシエイト 竹森 久美子