小僧寿しが居酒屋と障害者グループホームを運営することへの違和感

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小僧寿し 子母口店

コロナ禍で膨らんだテイクアウト・デリバリー需要を追い風として、黒字化を成し遂げた小僧寿し<9973>が、立て続けに3社の買収を決定しました。2021年7月に居酒屋「とり鉄」のFC展開を行うトランセア(東京都中央区)、12月にペット共生型障害者グループホーム「わおん」を運営するアニスピホールディングス(東京都千代田区)、同じく12月に食肉加工のミートクレスト(大分市)を完全子会社化します。

依然として新型コロナウイルスが収束する兆しはなく、外食・デリバリー・テイクアウト需要の変化を見通すことはできません。テイクアウトとデリバリーに経営資源を集中して復活を遂げた小僧寿しが、今このタイミングで居酒屋や障害者グループホーム事業を展開するメリットがあるのでしょうか?

この記事では以下の情報が得られます。

・買収する3社の業績
・デリズ買収の詳細

デリズ買収の痛手が繰り返されるか

小僧寿しの債務超過の原因となったのがフードデリバリーのデリズ(福岡市)買収でした。小僧寿しは2018年6月にデリズを簡易株式交換によって完全子会社化しました。小僧寿しは2017年12月期に4億2,900万円の純損失を計上しており、この時点での純資産額は2億9,800万円でした。デリズは2018年2月末時点で3億7,700万円の債務超過に転落していましたが、小僧寿しはこの会社を2億8,000万円で買収したのです。小僧寿しは買収した年の2018年12月期にデリズののれん7億9,000万円を全額減損することとなります。その結果、10億4,700万円という巨額の債務超過へと転落したのです。

その後、小僧寿しはJFLAホールディングス<3069>EVO FUND(東京都千代田区)を割当先とする第三者割当増資を実施し、債務超過を回避します。このとき296.1%もの株式の希薄化を伴いました。デリズの買収は明らかに失敗でした。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大という思いもよらない出来事により、デリズ率いる小僧寿しは大復活を遂げることとなりました。2020年12月期の売上高は前期比5.6%増の61億3,000万円、2,700万円の純利益(前年同期は1億1,600万円の純損失)を計上。自己資本比率は0.5%から17.9%まで回復しました。2021年12月期の売上高は前期比7.9%増の66億1,700万円、純利益は402.1%増の1億3,700万円を予想しています。2021年12月期第3四半期は、持ち帰り寿し事業(小僧寿し)の売上高が前期比11.7%増、デリバリー事業(デリズ)の売上高が前期比18.8%増とどちらも二桁増と好調です。

小僧寿しは一時ラーメン店「麺や小僧」を出店するなど、事業の多角化を計画しました。しかし、テイクアウトとデリバリーに経営資源を集中することによって業績が回復したのは明白です。そうした中での突然の買収の発表でした。

居酒屋と食肉加工2社は小僧寿し株主からの譲渡案件

トランセアは「とり鉄」などの居酒屋をチェーン展開しており、出店店舗数は73(FC店舗数は61)です。譲受前の株主はアスラポート(東京都中央区)で、この会社はJFLAホールディングスの完全子会社です。JFLAホールディングスは、小僧寿しの株式19.41%を保有する筆頭株主でもあります。

トランセアの2021年3月期の売上高は前期比36.9%減の12億4,300万円、1億5,200万円の純損失(前年同期は1,400万円の純利益)でした。2021年3月末時点での純資産額は3億6,900万円です。小僧寿しはトランセアを3億8,100万円で買収しています。2021年12月期第3四半期において、小僧寿しはトランセアののれん2億1,300万円を計上しました。

アスラポートはトランセアの業績予想として、2022年3月期に2,500万円、2023年3月期に7,000万円の営業利益を出すとしています。この数字がトランセアの買収金額を決める要素の一つとなっていますが、この会社のコロナ前の2019年3月期の営業利益は7,200万円であり、宴会需要が消失したと言われるコロナ後の居酒屋市場において、その水準まで戻るのかどうかは疑問の余地があります。

居酒屋に食材を提供して仕入れ価格抑制を狙った買収が食肉加工のミートクレストでした。ミートクレストの2021年5月期の売上高は前期比12.7%増の30億4,200万円、純利益は同86.7%減の400万円でした。純資産額1億6,000万円の会社を5億5,000万円で買収しています。ミートクレストはHSIグローバル(東京都中央区)が100.0%の株式を保有しています。HSIグローバルはJFLAホールディングスの代表取締役社長である檜垣周作氏の資産管理会社です。HSIグローバルの全株式を保有するのが阪神酒販(神戸市)。阪神酒販は2009年3月にJFLAホールディングスがTOBで子会社化しました。そして阪神酒販は小僧寿しの株式4.11%保有する第2位の株主です。

小僧寿しは本来であれば主力事業を支える海産物加工業を買収するのが筋だと考えられますが、始めたばかりの居酒屋事業で早々と垂直統合を決めたことになります。

そして3つ目がペット共生型障害者グループホーム「わおん」「にゃおん」を展開するアニスピホールディングスの買収です。2021年3月期の売上高は前期比21.4%増の10億1,500万円、純利益は同12.9%増の3,500万円です。純資産1億2,800万円の会社を2億3,000万円で買収しています。アニスピホールディングスはケアホームのFC展開をしており、2021年10月末時点で600超の施設を全国展開しています。急成長を遂げている企業です。小僧寿しは施設への食提供を行い、シナジー効果が得られるとしています。

アニスピホールディングスの全株を保有するのが、創業者で代表取締役の藤田英明氏です。藤田氏は一時M&Aで渦中の人となった過去があります。

藤田氏は2006年2月に介護ステーション「茶話本舗」を開設し、2007年からフランチャイズ展開を行いました。2009年には100事業所、2013年には700事業所を開設しました。急拡大する姿は世間から注目を集めます。

2014年10月にチェーン展開する日本介護福祉グループ(現:JC-Group 東京都港区)の全株式を、Jトラスト<8508>の子会社アドアーズ(現:KeyHolder<4712>)が取得しました。しかし、2015年8月、買収から1年も経たないうちに藤田氏が5,000万円で買い戻しました。アドアーズは、日本介護福祉グループの介護事業は競争激化によって稼働率が伸び悩むなど業績不振に陥ったため、デューデリジェンスで想定していた金額を超えて大幅な債務超過に陥ったとの発表をしています。アドアーズは2015年12月に藤田氏を提訴するなど、このM&Aは泥沼化していました。

10億円の売上規模に成長したアニスピホールディングスですが、2021年7月~2022年6月の売上高を7億4,300万円、2億8,800万円の営業損失と予想しています。2022年7月~2023年6月の売上高は12億9,900万円、営業利益は9億9,000万円と再び成長軌道に乗るとしていますが、直近での売上高の急落と営業赤字転落は不安要因でしかありません。

復活を遂げた小僧寿しが仕掛けるM&Aは凶と出るか吉と出るか、注目が集まります。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由