倒産寸前といわれた小僧寿しがコロナで下期売上112%の大躍進

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小僧寿し子母口店

2018年12月期に10億5,700万円という巨額の債務超過(このときの総資産額は14億2,900万円)に陥った小僧寿し<9973>が資本増強によって債務超過を解消し、コロナ禍で大躍進を遂げています。小僧寿しの下期売上高は前年比112.1%。買収したフードデリバリーのデリズ(福岡市)の売上高も前年比107.3%となりました。

小僧寿しが債務超過に陥った主要因であるデリズの子会社化は、新型コロナウイルス感染拡大という思わぬライフスタイルの変化が訪れて小僧寿しの成長を後押しする存在となりました。

この記事では以下の情報が得られます。

・小僧寿しの業績
・小僧寿しのデリズ買収の詳細

1億9,700万円の営業赤字から一転して黒字化を実現

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画像はイメージ(Photo by PAKUTASO)

小僧寿しの2020年12月期第3四半期の売上高は前期比1.2%増の43億3,900万円。営業利益は2,200万円(前期は1億9,700万円の赤字)、純利益が1,400万円(前期は1億3,100万円の赤字)となりました。小僧寿しは通期の売上を7.8%増の62億5,800万円、営業利益を5,900万円と予想しています。純資産は前年の900万円から2億9,400万円まで回復。増資とコロナ禍のデリバリー・テイクアウト需要の盛り上がりで、一気に息を吹き返しました。

得に好調なのがデリバリー事業。デリバリー事業の売上高は前期比15.0%増の12億6,300万円。セグメント利益は4,400万円(前期は2,400万円の損失)となりました。デリバリーはポータルサイト「出前館」と買収したデリズのサイトを通して受注したものです。持ち帰り寿し事業の売上高は前期比3.1%増の30億7,500万円となりました。

デリズは上期で売上が前年比123.1%となっています。テイクアウト、デリバリーともに前年を上回っており、好調ぶりが際立っています。

■持ち帰り寿し事業(前年対比)

 【上期】 1月 2月 3月 4月 5月 6月 上期累計
売上高 99.7 110.3 94.8 107.6 141.7 116.1 111.3
客数 102.3 111.7 95.1 101.9 128.8 106.6 107.6
客単価 97.4 98.7 99.7 105.6 110.0 108.9 103.4
 【下期】 7月 8月 9月 10月 11月 下期累計
売上高 116.7 108.6 105.8 116.1 114.7 112.1
客数 109.2 105.9 100.3 110.6 106.3 106.4
客単価 106.9 102.5 105.4 105.0 107.9 105.5


■デリバリー事業(前年比)

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 上期累計
売上高 111.5 121.4 116.1 129.1 143.9 116.8 123.1
客数 122.5 129.4 122.7 137.7 148.2 122.0 130.6
客単価 91.0 93.8 94.7 93.7 97.1 95.7 94.2
  7月 8月 9月 10月 11月 下期累計
売上高 123.6 119.2 103.8 102.4 87.2 107.3
客数 131.3 124.5 102.1 104.7 81.8 108.9
客単価 94.1 95.7 101.6 97.9 106.6 99.2

月次報告より筆者作成

持ち帰り寿しは新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し始めた2月から100%を超え、緊急事態宣言が出ていた5月に141.7%となりました。デリバリーも5月に143.9%。11月に入ってデリバリーは87.2%と急減していますが、これはGo To EATキャンペーンなどによる外食の盛り上がりがあったためと予想されます。再度、緊急事態宣言が出されたことにより、需要の回復が見込まれます。

デリズの高値掴みは大株主に利益をもたらしたか

出前
画像はイメージ(Photo by PAKUTASO)

小僧寿しが2018年12月期に10億5,700万円もの債務超過に陥った直接の原因は、デリズののれん全額減損7億9,000万円を計上したことです。小僧寿しはデリズを株式交換によって2億8,000万円で買収しました。デリズは4億円以上の債務超過状態となっていたため、現金を伴わない買収だったにも関わらず、激甚な被害を被ったのです。しかも買収したのは2018年6月。およそ6か月で全額減損という結果になりました。債務超過だったデリズをなぜ、2億8,000万円もの高値で買収したのでしょうか。

小僧寿しはDCF法を採用し、事業計画や財務予測を基に企業価値を算定しています。それが買収価格のもとになっているのです。

下の表は小僧寿しが公開したデリズの売上と営業利益の実績(2018年2月期まで)と予測です。2020年2月期の売上が前期の1.54倍、2021年2月期は1.66倍となる大胆な計画です。

■小僧寿しが公開したデリズの業績と予想(単位:百万円)

  2016年7月期 2017年7月期 2018年2月期 2019年2月期 2020年2月期 2021年2月期
売上 269 740 483 1,391 2,148 3,576
営業利益 0.02 33 23 39 131 220

デリズ完全子会社化に関するお知らせより筆者作成

デリズは2020年に9店舗、2021年に11店舗の直営店出店を計画しているため、売上の増加が見込めるとしていました。しかし、債務超過状態の会社がこれほどの出店攻勢をかけるのは難しかったと考えられます。結果として、半年でのれんを全額減損することとなるのです。

その裏でメリットのあった企業があります。2018年8月の段階で24.43%の株式を保有していたJFLAホールディングス<3069>投資ファンドEVO FUNDです。EVO FUNDは債務超過に陥った後の2019年に大量のワラントを引き受けました。格安水準のワラントを手にしたEVO FUNDは、空売りによって相当な利益を得たものと予想できます。

JFLAもEVO FUNDと同時期に割安で増資を引き受けたことにより、利益を享受することができました。2019年9月に55.34%を保有し、債務超過解消と業績好調を背景に株価が上昇したタイミングで売却しています。現在の保有比率は29.15%。小僧寿しの株価は2020年6月に108円の高値をつけました。現在は50円台で推移しています。債務超過解消や上場廃止回避による株価の上昇は織り込んでいたものと考えられますが、コロナ禍での業績好調は予想外だったでしょう。

のれんの減損をしたことにより、小僧寿しは総資産利益率を高めることができます。稼ぐ力がついたのです。外食産業がコロナ禍という思わぬ逆風で苦しむ中、苦戦続きだった小僧寿しに追い風が吹いています。

麦とホップ@ビールを飲む理由