M&Aに関連する記載も想定される「KAM」とは何か しっかり学ぶM&A基礎講座(60)

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会計および監査の業界では「KAM」という用語が注目されています。KAMというのは「Key Audit Matters」の略で日本語では「監査上の主要な検討事項」を意味します。

上場企業などが公表する財務諸表には監査法人あるいは公認会計士の監査報告書が付されています。この監査報告書に新たに記載することが予定されている項目がKAMです。

監査人が監査の過程で何に注目し、どのような判断を行ったのかを記載するものであるため、財務諸表利用者にとっての情報価値の向上を通じて監査の信頼性向上にもつながるものと期待されています。今回はこのKAMの概要について紹介したいと思います。

新たな監査報告書に求められるもの

監査報告書は基本的に標準文例に従ったものであり、どの企業の監査報告書を見ても代わり映えするものではありません。また、ほとんどの監査報告書が企業の作成した財務諸表を適正と認める「無限定適正意見」となっており、その点でも財務諸表の利用者に何か特別に情報提供するものとはなっていません。

こうした監査報告書にもそれなりの利点があり、長年利用されてきた報告スタイルではありますが、不正会計などの不祥事が起こるたびに見直しが必要ではないかという議論がなされてきました。

近年では2015年に発覚した電機大手の不正事件を受けて金融庁が「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置し、翌2016年3月には監査についての提言が取りまとめられました。

監査法人のマネジメント強化、第三者の眼による監査品質のチェックなど様々な提言がなされる中で「監査報告書の透明化」という項目も盛り込まれました。

これは同じ無限定適正意見であっても、監査人がどのようなことを重要事項と考え、どのような対応をとったのか財務諸表の利用者に伝えることにより、監査報告書の情報価値や監査の信頼性を高めようという趣旨の提言です。

KAMとして選定される事項とは

KAMすなわち「監査上の主要な検討事項」は、財務諸表の監査において監査人が特に重要と判断した事項のことを指します。監査報告書に記載するKAMを選定する際には、いくつかある監査上の論点のうちでも、監査役等と協議した事項の中から選定されるのが一つの特徴です。

現行の監査においても監査役等とのコミュニケーションは重要視されており、主要な論点については十分に協議することが求められていることを考えると自然なプロセスといえるのかもしれません。

こうした諸論点の中で、特別な検討を必要とするリスクが識別された事項、重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された事項、見積りの不確実性が高いと識別された事項などを中心として、さらに監査人の専門的判断で特に重要というフィルタをかけた事項を監査報告書で開示するという流れになります。

監査報告書に記載される項目

具体的に監査報告書に記載される項目は「監査上の主要な検討事項の内容」「監査人が監査上の主要な検討事項であると決定した理由」、そして「監査における監査人の対応」となります。これらの項目は監査報告書に独立の区分を設けて記載されることになります。

【監査報告書における記載】

•監査上の主要な検討事項の内容

•監査人が監査上の主要な検討事項であると決定した理由

•監査における監査人の対応

なお、今回のテーマとは異なりますが、継続企業の前提に重要な不確実性が認められる場合にも監査報告書において情報提供がなされますが、従来の強調事項とは独立した区分に記載されることになりました。これも監査報告書の見直しの一環と位置付けられます。

有価証券 報告書に開示される「継続企業の前提に関する注記」とは しっかり学ぶM&A基礎講座(59)

M&Aに関連する記載も想定される

導入に先立ち、日本公認会計士協会は2017年にKAMの試行結果を取りまとめて公表しています。参加監査法人は大手4法人と準大手3法人、参加企業(監査先)は26社です。記載されたKAMの総数は68件、1社あたり2.61件という結果になりました。

KAMとして選定された領域でもっとも多かったのは「資産(のれん以外の固定資産)の減損」の18件です。そして、次に多かったのが「企業結合に関する会計処理、のれんの計上及び評価」の17件でした。つまり、M&Aを実施している企業では関連する会計処理や評価がKAMとして認識される可能性が高いことを示しています。

KAMの記載は2021年3月期の監査から適用されます。監査人にとっても、被監査会社にとっても、KAM導入に向けて検討すべき課題は多いといえますが、標準文例によらない新たな情報提供により監査報告書をじっくり読む機会が増えることは間違いないでしょう。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)