「条件付取得対価」で対価の一部が返還される場合の会計処理は?しっかり学ぶM&A基礎講座(58)

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2019年1月16日、企業会計基準委員会(ASBJ)から改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」などが公表されました。これは「条件付取得対価」で対価の一部が返還される場合の取扱など定めた改正によるものです。

条件付取得対価というのは、M&Aの契約時において取得対価が確定しておらず、契約締結後の事象や取引の結果にもとづいて取得対価が調整されるものを指します。M&A契約に「アーンアウト条項」などが含まれる場合がこれに該当します。

アーンアウト条項については下記の記事もご参照ください。

「アーンアウト条項のついたM&Aとは?」しっかり学ぶM&A 基礎講座(25)

https://maonline.jp/articles/kitagawa20180723

条件付取得対価の会計処理は?

アーンアウト条項には、投資の成果に不確実性がある場合でも当初から過大な投資をしなくて済むというメリットがあります。それでは、アーンアウト条項が付された株式はどのように会計処理がなされるのでしょうか。

これは当初に支払った対価で株式を計上し、その後、アーンアウト対価を支払うことが確実となり、時価を合理的に決定できるようになった時点で追加計上を行うというのが原則になります。そのため、連結貸借対照表でのれんが計上されている場合、のれんの金額も事後的に調整されます。

対価の一部が返還される場合の会計処理は?

通常、アーンアウト対価は追加的に支払うことが想定されますが、事後的に対価の一部を返還するというケースも考えられます。今回の「企業結合に関する会計基準」などの改正は、まさにそうしたケースにおける取扱を定めたものです。

従来の企業結合会計基準第21号の27項では「条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合には、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれん又は負ののれんを追加的に認識する」とされていました。

これに対して、改正後の企業結合会計基準第21号の27項では「対価を追加的に交付する又は引き渡すとき」と「対価の一部が返還されるとき」に場合分けされています。

そのうえで、前者の場合には「条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれんを追加的に認識する又は負ののれんを減額する」と規定されています。

そして、後者の場合には「条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識する」とされています。

本改正は取扱の明確化が目的

改正後の規定ぶりを見ると、対価を追加的に支払う場合には「のれんを追加的に認識する又は負ののれんを減額」し、対価が返還される場合には「のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識」するという部分が丁寧に書き分けられています。

これは従来の処理を見直すものではなく、あくまで対価の一部が返還された場合の取扱を明確にするものという位置づけといえます。ちなみに、公開草案の段階では、従来から規定されている処理についても表現や勘定科目の見直しがなされていましたが、寄せられたコメントなどを勘案し、そのような見直しは行わない方向で修正されました。

なお、改正された企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」は、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用することとされています。  

文:M&A Online編集部