「排除」前言だけが敗因じゃない、M&Aの視点でみる「希望の党」

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「排除宣言」の背景は…

「希望の党」が2017年11月10日の両院議員総会で、同党国会議員のトップとなる共同代表に玉木雄一郎衆議院議員を選出し、ようやく国会でのスタートを切った。しかし、前回の衆院選で過半数超えを狙って235人を公認したものの、わずか50議席に終わった傷跡は深い。結党早々、歴史的大敗をした非常に珍しいケースだが、「民進党と希望の党によるM&A」という視点から今回の敗因を探ってみよう。

 希望の党の敗因として最も多く指摘されているのは、東京都知事でもある小池百合子代表の「排除宣言」だ。とはいえ小池代表が「排除宣言」をしたのには、それなりの背景がある。当時、小池代表には様々な「仲介者」から提携の申し入れや情報があった。なかでも「自民党の反安倍(晋三首相)派が党を割って希望の党に合流する」との情報は、小池代表の心を大きく動かしたという。

 これが実現すれば民進党の左派グループは、自民党反安倍派との合流後の党内で不協和音を引き起こす要因になる。さらに自らが代表とはいえ、所属議員の多数が左派・右派混交の民進党出身者となると選挙後の党運営で主導権を握れなくなるおそれもあった。ならば自分と意見の近い自民党出身者と民進党右派に候補者を絞った方が、選挙後の党運営に有利だ。なにより自民党反安倍派へ合流の秋波を送ることになる。そこで飛び出したのが「排除宣言」というのだ。

「希望的な観測」が判断を誤らせた

 ところが「排除宣言」の直後に、希望の党に合流すると目されていた自民党幹部が「そんな話はしたことも、聞いたこともない」と明言して、「自民党分裂」の噂は立ち消えに。小池代表があわてて「排除宣言は本意ではない」と否定したが、時すでに遅し。あまりのタイミングの良さに「官邸が仕掛けた謀略だったのではないか」との勘繰りもあった。しかし、どうやら仲介人の一人が出馬に煮え切らない小池代表を選挙に引っ張り出すために語った「希望的観測」が、同じく小池代表出馬を熱望する側近から「重大情報」として小池代表本人に伝わったようだ。

 もともと「希望の党が勝利するには、小池代表の出馬が絶対条件」というのが、政界の一致した見方だった。民進党の前原誠司前代表も「小池さんは政権奪取が狙えるとなれば、都知事を辞任して衆院選に出馬するはずだ」との情報を小池氏側近から聞いて、希望の党への合流を決断している。この「政権奪取が狙えるとなれば」の部分が仲介者たちに共有され、「自民党反安倍派の離党・合流」の噂に現実味を持たせたわけだ。トップ同士の本音話が交わされないまま、情報は複数の仲介者や側近者たちを介して「伝言ゲーム」のように伝わった。

 ようやく10月5日に小池代表と直接会って正式な出馬要請をした前原氏だったが、すでに「排除発言」で希望の党の支持率は急降下していた。前原氏が小池代表の側近から聞いた「政権奪取が狙えるとなれば」との情報は正しかったようだが、選挙情勢は政権を奪取する状況ではなくなっていた。結局、小池代表は「出馬しない」と明言し、希望の党主導による政界再編構想は完全に破綻する。

企業のM&Aでも同様の混乱が

 希望の党惨敗の最大の原因は、複数の仲介者が介在し、それぞれの思惑で都合の良い情報を当事者に伝えたり外部へ流したりしたため、合流交渉が大混乱に陥ったことにある。これは企業のM&Aでも起こりうる。シャープ<6753>の救済合併や東芝<6502>の半導体子会社売却でも、両社の経営陣が金融機関や経済産業省などの仲介者の思惑に翻弄され、混乱したのは記憶に新しい。

欠かせない「信頼できる仲介者

 このような事態を招かないためにも、信頼できるM&Aの仲介者を厳選し、それ以外からの余計な情報をシャットアウトすることが重要だ。そしてなにより当事者のトップ同士が直接会って、提携内容を徹底的に詰めることを忘れてはいけない。小池代表や前原氏の判断を誤らせた「はずだ」や「だろう」は政治に限らず、企業のM&Aにとっても禁句なのだ。

文:M&A Online編集部