川崎汽船が赤字転落 投資ファンド「エフィッシモ」の打つ手は

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川崎汽船の自動車運搬船(同社ホームページより)

シンガポールの投資ファンド・エフィッシモ キャピタル マネージメントが38.99%の株式を保有する川崎汽船<9107>の2019年3月期は、2期ぶりに営業赤字に転落することがほぼ確実になった。 

期初の予想では50億円の営業利益を見込んでいたが、2018年10月31日に発表した第2四半期決済で燃料費の上昇や運航効率の悪化などにより50億円の赤字に修正。2019年1月31日に発表した第3四半期決算でも売上高は上方修正したものの、営業利益は50億円の赤字を据え置いた。 

1月-3月の第4四半期に収益性が急回復することは見込めないため、2019年3月期は第3四半期決算で発表した売上高8400億円、営業利益マイナス50億円が最終数値となりそうだ。

株式売却かM&Aか 

エフィッシモ キャピタル マネージメントは2015年9月4日に提出した大量保有報告書で、川崎汽船株式を新規で6.18%を取得し、その年の内に4回買い増し12月18日に提出した大量保有報告書では、保有割合は11.92%に高まった。 

その後も買い増しを続け、2018年6月20日に提出した大量保有報告書で保有割合が現在の38.99%に達した。 

一般的に投資ファンドの戦略としては、保有する株式を自社株買いで当該企業に引き取ってもらう、M&Aでどこかの企業に売り払う、市場で売却するなどの選択肢が考えられる。 

エフィッシモ キャピタル マネージメントが川崎汽船の2期ぶりの赤字転落を受けてどのような判断を下すのか。

創業100年の老舗

川崎汽船は1919年4月に、川崎造船所の松方幸次郎社長の「大規模な海運会社を新設し、船舶を運航する事業を興さねばならない」との考えのもとに設立された。 

1934年に最初のタンカーを建造し、1960年に鉄鉱石や石炭、穀物、木材、チップなどの専用船化を急速に進めた。1970年には日本で初めての自動車専用船を、1983年には日本初のLNG船を建造した。 

2018年に川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社が各々のコンテナ船事業と海外のコンテナターミナル事業をスピンオフしたうえで、それらを統合した新しい事業体としてオーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)を設立した。

2019年4月に設立100周年を迎える。創業者である松方幸次郎氏は1896年に川崎財閥創設者の川崎正蔵氏に要請されて、川崎造船所初代社長に就任。神戸瓦斯や神戸新聞、神戸桟橋などの社長や神戸商業会議所の会頭、衆議院議員などを務めた。川崎造船所社長時代に欧州で買い集めた絵画、彫刻、浮世絵は松方コレクションとして知られる。

経験少ないM&A 

川崎汽船はこの100年間、M&Aにはほとんど手を出さなかった。2011年以降に適時開示したのは重量物貨物輸送事業を手がけるドイツのSAL社に関する案件だけだ。 

同社は2007年に海運事業の多角化を目的に、SAL社株式の50%を取得し重量物輸送事業に参入。2011年には残る50%を追加取得し完全子会社化した。しかし2008年の世界金融危機以降、エネルギー資源価格の下落に伴いSAL社の業績が低迷。このため2017年にSAL社の全保有株式をドイツのSALTO HD に売却した。 

エフィッシモ キャピタル マネージメントは保有株式の買い取りを迫るのか、それともM&Aを誘導するのか、さらに市場での売却はあるのか。

営業赤字に陥る川崎汽船にとって自社株買いは資金面から難しそうだ。また100年の歴史を持つ同社にとって経験の少ないM&Aにはとまどいがありそうだ。 

では市場での売却はどうだろうか。エフィッシモ キャピタル マネージメントが川崎汽船株を取得した2015年9月の株価は2600円ほどで、その後株式を買い増す期間には3000円を超える時期もあった。ところが2018年7月に2000円を割り込み、2019年に入ってからは1500円前後で推移している。現在が売りやすいタイミングとは言えそうにない。 

自社株買い、M&A、市場での売却はいずれもハードルは高いとなると、エフィッシモ キャピタル マネージメントは次にどのような手を打つだろうか。注目が集まる。

川崎汽船の沿革と主なM&A
1919 川崎造船所の松方幸次郎社長が川崎汽船を設立
1934 最初のタンカーを建造
1960 鉄鉱石、石炭、 穀物、木材、チップなどの専用船化が進展
1964 タイに拠点を設置
1968 香港に拠点を設置
1974 シンガポールに拠点を設置
1969 主要航路のほとんどでコンテナ化を進展
1970 日本初の自動車専用船を建造
1983 日本初のLNG船を建造
2001 シンガポールに“K” Line Pte Ltdを設立
2003 ドイツに“K” Line European Sea Highway Services GmbHを設立
2003 ロンドンに “K” Line Bulk Shipping(UK)Limitedを設立
2007 ノルウェーで 合弁の「K Line Offshore AS」を設立
2007 ドイツのSAL社の株式50%を取得し重量物船事業に参入
2008 インドに “K” Line(India)Private Limitedを設立
2009 ブラジル沖 での採掘船事業に参画
2017 ガーナでFPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)事業に参画
2018 川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社が各々のコンテナ船事業と海外におけるコンテナターミナル事業をスピンオフしたうえ、それらを統合した新しい事業体としてオーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)を設立
2019 4月に創立100周年

文:M&A Online編集部