なぜ「かっぱ寿司」は「はま寿司」の日次売上データが必要だったのか?

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2021年2月に田辺公己氏がカッパ・クリエイトの代表取締役社長に就任していた

かっぱ寿司の社長が競合から告訴される

「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト<7421>が、競合のはま寿司(港区)から不正競争防止法にまつわる告訴がなされ、6月28日に関係当局による捜査が行われたと適時開示を行いました。カッパ・クリエイトの代表取締役社長である田辺公己氏が、2020年11月から12月にかけて日次売上データを元同僚から個人的に入手していたというもの。田辺氏は2014年にはま寿司の取締役を務めた後、2020年にカッパ・クリエイトの顧問に就任していました。

なぜカッパ・クリエイトは、はま寿司の日次データがそれほどまでに必要だったのでしょうか?
また、入手したデータが2020年11月・12月というタイミングだったのは、どうしてでしょうか?

この記事では、カッパ・クリエイトの業績を見ながらその理由を推測するものです。

・回転ずし各社(カッパ・クリエイト、スシロー、くら寿司)の業績
・かっぱ寿司が仕掛けた「食べ放題」の行方
・売上データが必要だった理由

ゼンショーで出世街道を歩んだ田辺氏

はま寿司は全国で500店舗以上展開しています。店舗数は国内トップのスシローやくら寿司と肩を並べています。すき家を運営するゼンショーホールディングス<7550>が、2002年回転寿司事業を立ち上げるために子会社のはま寿司を設立しました。

渦中の人となった田辺公己氏は、1998年に東海大学開発工学部を卒業後、ゼンショーに入社しました。2009年に経営改革室ゼネラルマネジャー、2014年にはま寿司の取締役に就任しています。その後、オリーブの丘社長執行役員、2017年にジョリーパスタ代表取締役社長、2018年にココスジャパン代表取締役社長を務めました。グループの中で順調に出世を重ねてきた実力派と言えます。

2020年にゼンショーを飛び出して、はま寿司の競合となるカッパ・クリエイトの顧問に就任しました。その年の12月に執行役員副社長、2021年2月には代表取締役社長に就任しています。

利益が出せる体質になっていたかっぱ寿司

多くのメディアでカッパ・クリエイトの業績低迷が取り沙汰されています。確かに、2014年12月にコロワイドに買収されてからも、業績が急回復することはありませんでした。2017年3月期には5億2,400万円の営業損失(前年同期は25億4,900万円の黒字)となり、58億円の純損失(前年同期は52億8,100万円の黒字)を計上しています。

しかし、カッパ・クリエイトはこのどん底期を抜けて業績は回復傾向にありました。不採算店を退店し、利益が出る体質になっていたのです。

新型コロナウイルス感染拡大が鮮明になる前の2020年3月期の売上高は前年同期比1.8%減だったものの、営業利益は同68.0%増の10億5,700万円となりました。1%を割り込んでいた営業利益率は1.4%まで回復しています。

■回転ずし各社(かっぱ寿司、スシロー、くら寿司)の業績推移

※スシローはFOOD&LIFE COMPANIESに社名変更しました。

スシローのようにコロナ禍でも増収増益となるほどの成長力はないものの、じわじわと力をつけていたのです。カッパ・クリエイトは重視する経営指標を売上高から利益へと移していました。

他社と比較すると営業利益率はまだ低く、薄氷を踏むような経営管理が求められていました。そんな中、集客施策として期待をかけていたのが回転ずし業界を震撼させた「食べ放題」企画でした。

「食べホー」食べ放題
カッパ・クリエイト「2019年3月期第2四半期決算説明資料」より画像引用

食べ放題の集客効果は

かっぱ寿司は2017年6月13日から7月14日までの1か月間、食べ放題企画を投入します。初めは21店舗での試験導入でした。

男性1,580円、女性1,380円の「食べホー」企画は、多くのメディアで取り上げられて話題となり、同じ年の8月28日からは36店舗、2017年11月1日からは全店での実施となりました。

36店舗から350店舗へと一気に拡大したのです。全店での実施は再度メディアを賑わせましたが、劇的な集客効果があったかと言えば疑問が残ります。

というのも、既存店舗2017年11月の客数に注目してください。前年比94.8%という結果になっています。10月と比較すれば10ポイント以上伸びていますが、前年比100%を上回るほどのインパクトはありません。

■かっぱ寿司 2017年度 月次売上高

かっぱ寿司2017年度売上報告
カッパ・クリエイト 投資家情報「売上報告2017年度」より抜粋

かっぱ寿司は食べ放題でどれだけ集客効果があるのか、正確に見極めることが困難だったと考えられます。

その後、複数の食べ放題メニューを用意したり、アイドルタイム(14時~17時)からランチ・ディナーへと拡充したりと、試行錯誤を繰り返しながら食べ放題企画を継続していました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で飲食店が自粛を強いられ、2020年10月末でサービスを一時休止することとなったのです。

売上データが欲しかった理由

ここで、田辺公己氏がはま寿司の売上データを入手していたとされる時期が気にかかります。報道等では、11月から12月とされていましたので、かっぱ寿司が食べ放題企画を中止したタイミングと重なります。

チェーン系の飲食店はどの会社も、店舗ごとの売上や客数、客単価、昨年との比較データを経営陣や管理職、店長などと日次で共有しています。しかし、数字が並んだだけのそのデータをたとえ競合の経営者や社員が漠然と眺めたとしても、それほど経営や意思決定に寄与する内容とはなりません。

ところが、コロナ禍という特殊な状況下で食べ放題のキラーコンテンツを一時中断したタイミングであれば、データの見え方はがらりと変わります。奇しくも2020年11月はGo To Eatキャンペーンがちょうど終了した時期でもありました。

すなわち、食べ放題や国を挙げてのキャンペーンの影響がなく、純粋な店舗の集客力を競合店と比較して測ることができたと考えられます。

戦略的に進めてきた退店の意思決定に売上データが寄与したかもしれません。しかも、田辺氏は2021年2月にはカッパ・クリエイトの社長に就任することが決まっており、何としても成果を出したかったはずです。

はま寿司がカッパ・クリエイトを告訴した今回のケースは、回転ずし業界が熾烈な過当競争にさらされていることを如実に示すものだと言えます。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由