花王<4452>は、1887年(明治20年)創業の大手生活用品メーカーである。1890年(明治23年)に発売した「花王石鹸」が事業拡大の起点となっている。
現在は、「ビューティケア事業」「ヒューマンヘルスケア事業」「ファブリック&ホームケア事業」の3事業でコンシューマ向け商品を展開する一方、「ケミカル事業」で工業製品を展開している。2015年12月期連結売上高1兆4717億円、連結営業利益1643億円。日用品売上高は、国内第1位を誇り、化粧品売上高でも資生堂に次いで第2位の規模を持つ大手企業である。
■花王が行った主なM&A
年月 | 内容 | 買収金額 | 売上高 | 出資比率(%) |
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1977 | スペインのモーリンズ イ プーチョナウを買収 | |||
1986.5 | カナダのDidak Manufacturingを買収 | |||
1987.7 | 米国のHigh Point Chemical Corporationを買収 | |||
1988.5 | 米国のThe Andrew Jergens Company(現・Kao USA)を買収 | |||
1989.5 | ドイツのGoldwell(現・Kao Germany)を買収 | |||
1992.10 | ドイツのChemische Fabrik Chem-Y (現・Kao Chemicals)を買収 | |||
2002.9 | 高級ヘアケア製品メーカーのジョン フリーダを4億5千万ドルで買収 | 4億5000万ドル | ||
2004.4 | 花王販売(所有割合53.72%)を株式交換により5009億円にて完全子会社化 | 株式交換 | 5009億4900万円 | 53.72→100 |
2005.10 | 高級化粧品ブランドの英国のモルトン・ブラウン社(売上高87億円)を340億円で買収 | 34,000百万円 | 87億円 | 0→100 |
2005.12 | カネボウ化粧品(売上高1555憶円)の株式86%を2634億円にて取得し子会社化 | 2634億0100万円 | 1555億5800万円 | 0→86 |
2006.2 | カネボウ化粧品の株式を追加取得し156億円にて完全子会社化 | 156億2400万円 | ― | 86→100 |
花王は1960年代から海外展開を行い、70年代には既にM&A実績があり、スペインの企業を買収している。
86年5月、情報関連事業進出のためカナダのDidakを買収した同社は、主力商品のフロッピーディスクの売り上げは一時、全世界シェアの15%、自社売り上げの10%の約800億円を占めていたが、市場の縮小により98年に同事業から撤退している。以降は本業の化学品事業に回帰し、他事業の買収は実施していない。
80年代、90年代は米国、ドイツの企業を各2社ずつ買収、グローバル展開に欠かせない欧米市場、北米市場の拠点となる製造ラインおよび化粧品メーカーを傘下に加えた。現在はドイツ、米国とも2社を合併させ、1社に集約している。
花王のM&Aの戦略の特徴は、グローバル展開を企図したビューティケア事業の中高価格帯のブランド獲得にある。花王が買収した企業の中で特筆すべきはカネボウ化粧品の買収であろう。安定した実績を上げている日用品事業に比べ、出遅れていた化粧品事業のマーケットシェア拡大のため、特許権などの譲渡額を合わせ約4000億円かけた大型買収であった。
売上高の推移を見てみると、買収前の売上高852億円に対し、買収後は2926億円に増加。化粧品販売の国内マーケットシェアも4位から2位に順位を上げている。
■売上高(化粧品)
花王の化粧品事業を含む、ビューティケア事業の買収後売上高及び営業利益の推移を見てみると、買収翌年の2007年の売上高は5842億円、14年は5899億円でほぼ横ばいとなっている。これは、買収したブランドを生かしきれておらず、期待した買収効果は得られていないことになる。
■売上高(ビューティケア事業)
※12年度は決算期変更(3月→12月)により国内グループ会社は9カ月間の計上。
一方、営業利益の推移を見てみると、09年以降は右肩上がりの成長をたどっており、07年実績は、29億円だったが、14年は284億円となり、約10倍の伸びとなっている。
■営業利益(ビューティケア)
※12年度は決算期変更(3月→12月)により国内グループ会社は9カ月間の計上。
昨今の日本国内の景気回復、アジア圏を中心とした購買力向上などの影響もあると考えられるが、02年からの化粧品会社買収や、販売会社の完全子会社化など、06年カネボウ買収までに実施したM&Aの経営施策が、徹底したコスト管理で定評のある花王がその力をいかんなく発揮し、会社全体の販売体制の再構築、継続して取り組んでいる日本および海外での化粧品ビジネスの構造改革を行った結果、実績に結びついているといえるだろう。
13年以降、カネボウ化粧品の美白用品自主回収(白斑問題)に伴う特別損失の計上(14年12月期89億円)などがあり、買収が成功であったとの判断は現時点では難しいが、マーケット拡大による経営の効率化、コストメリットといった視点で見てみると、カネボウ化粧品および02年から06年にかけて実行したM&Aが成果を上げているといえる。
この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料や新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。
まとめ:M&A Online編集部