それでもやっぱり政府が緊急事態宣言を出さない「三つの理由」

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が止まらない。すでに世界中で春の第1波、夏の第2波を超える秋の第3波が襲来。日本でも2020年11月28日に過去最高となる2685人の感染が判明した。

担当相が「緊急事態宣言」に言及

11月25日には西村康稔経済再生・新型コロナウイルス担当相が「感染増加を抑えられなければ、緊急事態宣言が視野に入ってくる」と発言した。が、政府による緊急事態宣言が出される可能性は極めて低い。なぜか。

「緊急事態宣言も視野に入る」と警鐘を鳴らす西村担当相(内閣府ホームページより)

緊急事態宣言が二度と出されない背景には、(1)GDPの「過去最大の下落」(2)自治体独自の「緊急事態宣言」発令(3)国民の「自粛」定着がある。

政府の緊急事態宣言により、2020年第2四半期(4〜6月)GDPは物価変動を除いた実質の年率換算で過去最悪の前期比28.1%減にまで落ち込んだ。が、その反動で同第3四半期(7〜9月)は同21.4%増に持ち直した。ここで再び緊急事態宣言を出して景気を腰折れさせることは避けたいはずだ。

「感染爆発」が全国に拡大しているのは事実だが、依然として東京を中心とする千葉・埼玉・神奈川、大阪を中心とする兵庫・京都、そして北海道に集中しており、その他の県とは感染者数が大きく違う。緊急事態宣言は政府による全国一律ではなく、都道府県が感染状況に応じて出し、感染者が少ない県では経済活動を止めない方向で進むはずだ。

緊急事態宣言が出れば、休業などに伴う給付金や補助金などの税金投入が避けられない。しかし国民による「自粛」であれば、そうした財政出動は不要になる。すでにコロナ対策で国も地方自治体も「金庫は空っぽ」の状態で、緊急事態宣言を新たに出す財政的余裕はない。

さらに現在では緊急事態宣言を出さない「新たな理由」が出てきた。

新たな三つの「出さない理由」

新たな理由1・年末年始が近い

政府は現在、12月17日までの「我慢の3週間」を訴えている。クリスマスから正月三が日明けまでの約10日間は経済活動が年間で最も低調になる。恒例の「休眠期間」まで持ちこたえれば、感染拡大がピークを超えるという「自然減」に期待しているのだ。

新たな理由2・ワクチン供給にメドがついた

米ファイザーや米モデルナ、英アストラゼネカなどが開発中のコロナワクチンに高い有効性が認められ、早ければ12月にも保健当局の承認が受けられそうだ。

ワクチンが広く一般に行き渡るのは最速でも2021年春以降と見られているが、これまでのような「手の打ちようがない感染症」ではなくなる。国民の安心感も高まり、緊急事態宣言を出さないことで非難を受ける可能性が低くなってきた。

新たな理由3・ロックダウンは効かなかった

緊急事態宣言で取り沙汰される「ロックダウン(都市封鎖)」だが、その実効性に疑問がもたれている。春の第1波で日本よりも厳しいロックダウンを断行した欧州やインドなどでは、第2波や第3波で一度は収まったコロナ感染が再燃している。

実は1918〜1920年にかけてパンデミック(世界的大流行)を引き起こしたスペイン・インフルエンザ(スペイン風邪)の疫学調査でも、ロックダウンをした都市としなかった都市で感染者数や死者数に有意な差がなかったことが分かっている。

ロックダウン中の感染者は減るが、解除後は急増するため、感染拡大期間全体で見ると同じ結果になるということだ。コロナ禍でもスペイン・インフルエンザと同様の動きとなっており、政府がロックダウンを含む厳しい緊急事態宣言を出すことを躊躇させる状況になっている。

海外ではロックダウン解除後に感染が拡大している(Photo by Bernard Sharp )

想定が外れれば、大変な事態に

政府がロックダウンを含む緊急事態宣言を出す可能性が低いとはいえ、それがコロナ禍に対する「安全性」を保証するものでない。年末年始の休眠期間はコロナウイルスの感染を減少させるには短すぎる。正月明けに経済活動が平常化すれば再び感染は拡大する可能性が高い。

ワクチンについてもアストラゼネカで治験データの不透明性が指摘され、承認が遅れる恐れがある。ファイザーやモデルナでも同様の事態が起こるかもしれない。承認を受けたとしても、生産が予定通りに進まなかったり思わぬ副作用が判明したりするリスクもある。

年内にコロナワクチンが承認される見通しというが…(ファイザーホームページより)

一つでも想定が外れれば、感染拡大に歯止めがかからなくなる可能性がある。新型コロナによる「医療崩壊」が発生して死者数が1万人を超える事態になれば、極めて短期的な感染抑制効果しかないと分かっていても政府は緊急事態宣言を出さざるを得ない状況に追い込まれるおそれがある。

文:M&A Online編集部