協力金を失う飲食店の時短制限解除を居酒屋企業は歓迎できるか?

alt

東京都は2021年10月25日以降、都の認証を受けた飲食店に対して要請を解除し、酒類の提供時間や営業時間の制限を全面的に解除する方向で検討に入りました。感染防止対策がとれていると認証した店は元通りの営業活動ができるようになります。厳しい自粛を求められていた飲食店にとっては喜ばしいことに違いありませんが、コロナ禍の居酒屋企業の業績が強力な協力金や助成金に支えられていたことも事実です。10月25日から宴会需要が完全回復する見込みはないに等しく、企業は頼みの綱だった協力金も失うことになります。

この記事では以下の情報が得られます。

・居酒屋企業が得た助成金・協力金の額と経常利益
・Go To Eatキャンペーン時の居酒屋需要

30億円超の協力金で黒字化したチムニー

時短協力金や雇用調整助成金は、日本の会計基準の場合、営業外収益に入ります。受け取った金額がそのまま収益として積まれるため、居酒屋企業の損失を埋める有効な手段になっていました。居酒屋「はなの舞」を運営するチムニー<3178>は、2022年3月期第1四半期で30億7,600万円の協力金・助成金を得て17億6,300万円の経常利益を出しました。「塚田農場」のエー・ピーホールディングス<3175>も2022年3月期第1四半期に11億8,600万円を計上し、3億5,600万円の経常利益を出しています。

■協力金・助成金の額と経常利益(単位:百万円)

チムニー 2021年3月期 2022年3月期第1四半期
協力金・助成金 1,360 3,076
経常利益 -4,553 1,763
エー・ピーホールディングス 2021年3月期 2022年3月期第1四半期
協力金・助成金 1,314 1,186
経常利益 -2,357 356
ワタミ 2021年3月期 2022年3月期第1四半期
協力金・助成金 1,461 800
経常利益 -8,197 -1,182
海帆 2021年3月期 2022年3月期第1四半期
協力金・助成金 162 113
経常利益 -791 -66

決算短信より筆者作成

時短要請に従っている限り、アルバイトなどの人件費はかからず、場合によっては家賃の減額もありました。更に協力金が得られるという”おいしい”側面があったことも事実です。

特に海帆<3133>のように資本力の弱い会社にとって、このような恩恵が一気に取り払われることは痛手以外の何物でもありません。海帆は「昭和食堂」などの居酒屋の直営店を34店舗、FCを9店舗(2021年6月時点)運営している会社です。

2021年3月期の売上高が78.3%減の8億6,100万円となり、10億6,600万円の純損失(前年同期は6億9,500万円の純損失)を計上しました。2020年3月末の段階で3億1,400万円の債務超過となっていましたが、2021年3月末に債務超過額は6億4,600万円まで拡大しました。海帆は2021年1月7日を割当日とし、投資事業などを行うTBI(東京都中央区)を割当先とした第三者割当増資で8億8,700万円を調達しています。これによって創業者で代表取締役社長の久田敏貴氏の保有比率が60.26%から20.57%に低下。筆頭株主及び支配株主としての地位を失いました。

これほど痛みを伴う増資をしましたが、2021年6月末の段階で6億9,100万円の債務超過となっており、これを解消するまでには至っていません。海帆は2022年3月期第1四半期に1億1,300万円の協力金を得ており、これを失うと今後損失額が広がる可能性が高いです。2022年3月末までに債務超過が解消できない場合、上場廃止となります。

政府主導のGo To Eatでさえも不発の結果に

気になるポイントは制限解除とともに居酒屋需要が回復するかどうかです。参考になるのは2020年10月に実施されたGo To Eatキャンペーンです。日本フードサービス協会によると、2020年10月のパブレストラン/居酒屋の売上高は前年比63.7%でした。このとき、12,500円分の食事券を10,000円で購入可能(国が25%を負担)、グルメメディアで予約した人に1,000円分のポイントを付与するなど、大々的な需要喚起策を行いました。それでも売上高は2019年比で65%を下回ったのです。

■2020年8月-12月パブレストラン/居酒屋売上高前年比(単位:%)

※日本フードサービス協会のデータより筆者作成

緊急事態宣言に入っていたとはいえ、2021年8月のパブレストラン/居酒屋の売上高は前年比31.2%。2019年比で12.8%です。いくら感染者数が落ち着いて食事がしやすくなったからといって、喚起策もないまま需要が急回復する見込みはありません。半年、一年単位で緩やかなカーブを描き、少しずつ回復するとみて間違いないでしょう。

企業によっては大量に退店を進めることがあるかもしれません。飲食店が迎える正念場は時短制限が解除された後です。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由