赤字が続くイトーヨーカドーの切り離し新規上場は実現するのか?

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イトーヨーカドー(写真は東京都武蔵野市)

8年間で800億円もの赤字を計上している大型スーパー事業のイトーヨーカ堂。投資ファンドなどから成長を続けるコンビニ事業のセブン-イレブンとの切り離しを要求され、新規上場(IPO)によるカーブアウト(事業切り出し)の検討に入った。だが、果たして赤字企業のIPOに成算はあるのか?

祖業の切り離しに苦心するセブン&アイ

「セブン&アイ・ホールディングス<3382>の経営陣にとっては、不採算事業のヨーカ堂を切り離したいのが本音だろう」というのが流通業界の通説だ。が、ヨーカ堂はセブン&アイの祖業であり、創業家である伊藤家が切り離しには難色を示しているといわれる。

セブン&アイの筆頭株主は伊藤家の資産管理会社である伊藤興業で、同社株の7.9%を保有している。2016年4月のセブン-イレブン・ジャパン社長更迭人事を巡る対立でコンビニ事業の立役者だった鈴木敏文セブン&アイ会長兼CEO(最高経営責任者)が電撃退任した背景にも、伊藤家の存在があったという。1割以下の持株比率ではあるが、その意向は無視できない。

とはいえ、多くのセブン&アイ株主の間で不採算事業のヨーカ堂を保持することに不満が高まっていることも事実。米投資ファンドのバリューアクト・キャピタルが2023年5月にヨーカ堂の売却を求めて、井阪隆一セブン&アイ社長らの退任を要求する株主提案をするなどの圧力がかかっていた。

こうした非オーナー系株主からの風当たりも強くなり、セブン&アイが打ち出したのがヨーカ堂のIPOである。バリューアクト・キャピタルもIPOによるカーブアウトを好感し、会社提案の取締役選任議案に賛成票を投じると表明している。

非オーナー系株主から求められている不採算事業の切り離しを実現すると同時に、ヨーカ堂の「身売り」に難色を示しているとされる伊藤家にとっても祖業の「独立」と「上場」であれば抵抗感が少ない。

まさに経営陣、一般株主、創業家にとって「三方よし」の出口戦略ではあるが、問題は実現可能性だ。もちろん赤字企業のIPOは不可能ではないし、事例も多くある。しかし、いずれも成長が期待されるスタートアップ企業ばかりだ。

成長期待が持てないヨーカ堂の赤字IPOは厳しい

2023年12月に東証グロース市場に新規上場した「yutori」は、ファッションEC(電子商取引)大手ZOZOの子会社で、「ナインティナインティ(9090)」や「センチメーター(CENTIMETER)」「パム(PAMM)」などの人気アパレルブランドを運営するなど、強固な顧客層で成長が期待できる。

2024年4月に同市場で上場を果たしたゼンリン子会社のWill Smart<175A>はモビリティーに特化したDX(デジタルトランスフォーメーション)スタートアップで、カーシェアや電気自動車(EV)充電の運用アプリ、デジタルサイネージとウェブサービスの組み合わせで観光地の周遊性を向上するプロジェクトなど、将来性が期待できる技術に強みがある。

一方、ヨーカ堂のビジネスは衰退期に入っている大型スーパーだ。スタートアップのような高成長業種とは違う。しかも、年間100億円前後の赤字が続くヨーカ堂の上場が認められる可能性は低い。仮に上場できたとしても、「厄介払い」的なIPOに投資家がついてくることもないだろう。IPOを成功させるには、ヨーカ堂が手がける大型スーパービジネスを成長させる必要がある。

ただ、それが実現すれば、セブン&アイがヨーカ堂をIPOでカーブアウトする必要はなくなる。「本業との関連性が低い」とオリエンタルランド株を手放すようアクティビスト(物言う株主)から責められている京成電鉄と違い、ヨーカ堂の大型スーパー事業は消費者向け小売業でありセブン-イレブンとのシナジー効果もある。黒字に転換すれば切り離す必然性がない。

2005年からスタートした「アリオ」のような集客力の高い複合大型ショッピングモール事業を強化して、イオン同様にテナント賃料で収益を上げるビジネスモデルなど、新たな成長の芽も出ている。ひょっとしたらセブン&アイは、それまでの「時間稼ぎ」としてIPOを持ち出したのかもしれない。

文:M&A Online

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