一風堂を運営する力の源ホールディングス<3561>が、郊外の小商圏やロードサイド型の出店に注力しています。4月28日に横浜泉店、5月21日に岸和田店、5月28日に武蔵小山店をオープンしました。一風堂は国内戦略において、都市部の繁華街やショッピングモールへの出店を得意としてきました。高単価の顧客を集めることにより、高額な出店費用や家賃を抑え込んできました。それが競合との差別化に繋がっていたのです。商圏の小さなエリアへの出店は、リピーターを取り込む必要があり、一風堂は戦略の大転換を迫られることになります。
この記事では以下の情報が得られます。
・一風堂の業績
・山岡家との売上比較
・これまでの一風堂の戦略
一風堂の2021年3月期の売上高は前期比43.2%減の165億3,900万円、営業損失は9億8,000万円(前年同期は6億9,700万円の黒字)となりました。純損失は23億9,200万円(前年同期は2億1,400万円の赤字)となり、2020年3月期に24.7%だった自己資本比率は8.4%まで低下しました。2022年3月期第1四半期も7,200万円の純損失を計上しています。増資などによる資本増強が必要な状態と考えられますが、今のところ明確な一歩は踏み出せていません。
一風堂は、官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパンファンド)から20億円の支援を受け、海外事業を強化してきた経緯があります。そのため、新型コロナウイルスにおいては国内、海外ともに大打撃を受けることとなったのです。
2021年3月期の国内事業の売上高は46.1%減の91億1,900万円、セグメント損失は5億1,300万円(前年同期は3億9,200万円の黒字)でした。海外事業の売上高は同44.2%減の54億1,800万円、セグメント損失は3億8,600万円(同6億8,700万円の黒字)となっています。一風堂は一時北米への出店に注力しており、厳しい外出制限を課されるロックダウンの影響を大きく受けました。一風堂が海外出店を強化していた時期はインバウンドが盛り上がっており、日本で一風堂を知り、母国でその味を楽しめるという好循環が形成されることを狙っていました。しかし、コロナによって計画は大きく狂ってしまったのです。
一風堂は海外事業の規模を縮小する動きは見せていません。2020年4月から2021年6月までで海外の店舗数は131。コロナ禍で1店舗の増加となりました。需要回復を粘り強く待つスタイルを貫くものと考えられます。
コロナによって方向性を大きく変えたのが、国内事業です。一風堂は2021年6月の月次売上高が前年比112.5%、客数も111.5%となっています。一見、好調なように見えますが、これはあくまでも2020年との比較です。これを2019年と比較すると、以下のようになります。競合の丸千代山岡家<3399>と比較してみます。
■一風堂2021年、2019年比月次売上と客数
| 6月 | 7月 | 8月 | |
| 売上高 | 54.3% | 59.5% | 51.7% |
| 客数 | 55.6% | 59.8% | 52.4% |
■丸千代山岡家2021年、2019年比月次売上と客数
| 6月 | 7月 | 8月 | |
| 売上高 | 100.1% | 113.3% | 91.6% |
| 客数 | 98.1% | 111.2% | 90.6% |
※各社月次報告書をもとに筆者作成
一風堂は2019年の水準の半分ほどに留まっています。一方、山岡家は直近3カ月平均で100%を超えているのです。ラーメンの味に違いがあるのはもちろんですが、両社は出店形態が大きく異なります。山岡家はロードサイドが主体となっているのです。
一風堂の東京第1号店は恵比寿です。その後も銀座や六本木、西麻布など、都市部への出店を強化してきました。一風堂は2018年11月にブランディング活動力を評価する日本初のアワード「Japan Branding Award 2018」で、「Rising Stars賞」を受賞しました。ファッションブランドとコラボしたユニフォームや、アメコミ映画をイメージしたラーメンイベントの開催、ラーメン店とは思えない先進的なロゴなど、消費者にブランドを想起させるためのマーケティングに力を入れていました。オウンドメディアを運用するなど、外食企業の中でも珍しい取り組みをしていたことで有名です。一風堂の戦略は人が集まりやすい都市部の消費者にブランドを浸透させ、店舗の利用を促していました。どちらかというと、新規客を集めることに力を入れていたのです。
その戦略は大転換を迎えます。ロードサイド型や小商圏型の店舗は、固定客に繰り返し来店してもらう戦略が必要です。すなわち、ファンの囲い込みです。
新型コロナウイルス感染拡大でも客離れを起こさなかった山岡家は、強力なファンに支えられています。
価格も異なります。一風堂のラーメンは1杯850円から、山岡家は670円からです。一風堂は出店形態を変えましたが、それに合わせて味や価格、マーケティング戦略を大幅に転換する必要がありそうです。
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