起業の力で伝統工芸をつなぐ cvgストライク賞受賞の金出大和さんに聞く

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「メタバースで若い世代に伝統工芸産業を身近に感じてほしい」と話す金出さん

若い世代に起業熱が高まっている。かつての勢いを失い、GDPでもドイツに抜かれて世界4位に転落した日本。国内経済を立て直す原動力となるスタートアップ企業の担い手が求められている。キャンパスベンチャーグランプリ東京大会(cvg東京)(日刊工業新聞社主催)で「ストライク賞」を受賞した金出大和(東京大学農学部4年生)さんも、その1人。メタバース(インターネット上に構築された仮想空間)を利用した伝統工芸の継承とビジネスについて聞いた。

伝統工芸産業の担い手不足に危機感

-第20回cvg東京で金出さん、三箇雪花さん、兒玉大昌さんの「伝統工芸産業維持に向けたトータルサービス」がストライク賞を受賞しました。受賞されたビジネスプランについて教えてください。

伝統工芸産業の担い手不足が問題になっていますが、やはり市場規模が縮小している影響が大きいと思います。高齢者はじめ年配の方は日常生活の中で伝統工芸品を使っていると思うのですが、40代以下の世代になると関わりが薄いのかなと思うんです。

なので最新のメタバースというサイバー空間と伝統工芸産業を結びつけることで、若い世代にも親しみを持ってもらえるようなビジネスプランができないかと考えました。私の調べた限りではメタバースで伝統工芸ビジネスを展開している事例はなく、ビジネスチャンスがあるのではないかと思っています。

店舗・現地に行かなくても作品をリアルにイメージできるメタバースで伝統工芸品を知ってもらい、メタバース内のバーチャルショップで納得してご購入いただけます。

-このビジネスプランを発想した背景は?

私は大学で蚕(カイコ)の研究をしているのですが、養蚕業や関連する紡績業が衰退していて、なんとか活性化できないかとの思いを強くしていました。私は長崎出身なのですが、地元の「長崎くんち」などの祭りで使われる「長崎刺繍(ししゅう)」という伝統工芸品があります。

現在、プロとしてお仕事をされている方は1名だけになってしまいました。長崎刺繍は長崎に居住していた唐人(中国人)によって17世紀後半頃に伝えられた刺繍技術が長崎で定着し、伝統工芸品となりました*。

長崎刺繍のような伝統工芸を、どうしたら若い世代の人たちに身近かで魅力的なものと感じてもらえるのかがビジネスプランのカギだと思います。

長崎県の無形文化財になっている「長崎刺繍」(長崎県ホームページより)

*長崎刺繍の特徴としては、1,色糸を撚(よ)って様々な太さの糸を作り、質感を変化させている 2,縫った色糸をさらに着色することで、繊細な濃淡のぼかしが表現されている 3,刺繍の下に綿や紙縒(こより)を入れて立体感を出す「盛り上げ」が施されている-などがある。

メタバースで海外からの需要も見込む

-メタバースでは、どのようなコンテンツを公開するのですか?

長崎刺繍をはじめとする伝統工芸品の製作過程を通して、作品の美しさや職人たちの熟練した技を公開したいと考えています。長崎刺繍は「長崎くんち」に代表される地元のお祭りで、傘鉾の垂(幕)や衣装に使われてます。メタバースでも「お祭りの空間」を体験できるようにして、伝統工芸の魅力を伝えたいですね。

-海外からの需要にも期待しているようですね。

長崎刺繍はシーボルトが本国に持ち帰り、ヨーロッパでコレクションとして高く評価されたと言われています。世界的に日本文化への関心が高まっていることに加えて、円安がインバウンド消費を呼び込み、海外の方がお金を出してくれるようになりました。

実際に起業した場合は、売上高の6割程度が海外からの受注になるのではないかと予想しています。もちろん伝統産業を継承するという目的もあるので、国内の顧客を増やして後継者の発掘や育成につなげていきたいと考えています。

-今後の起業に向けた取り組みを教えて下さい。

4月からは東大の公共政策大学院に進学しますが、アイデアをもう少しちゃんと練ろうと思っていて「これなら行ける」と判断したら起業したいですね。

-金出さんのような若い世代で、起業に対する関心が高まっていますね。

起業にはリスクがあり、生活が不安定になる可能性はあります。しかし、すでに終身雇用制度は崩れていて、企業に就職すれば生活が安定するとは言えない状況になっています。だから、自分がやりたいことを自分の思うままに実行できる起業が注目されているのではないでしょうか。

聞き手・文:M&A Online 糸永正行編集委員、撮影:林 莉帆

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