相次ぐコロナ補助金の不正発覚が「大量倒産」を招くかもしれない

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コロナ対策の不正受給が相次いで発覚している(写真はイメージ)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経営支援策として交付された補助金の不正が、相次いで明らかになっている。経済産業省によると、12月9日時点で不正受給が判明したのは828事業者にのぼり、総額は8億3157万3000円に達している。このうち624事業者が、不正受給した6億2658万5000円に20%の加算金と年率3%の延滞金を上乗せして国庫に返納した。相次いで発覚する不正受給の行き着く先には何があるのだろうか?

コロナ禍の直撃を受けた旅行業界で不正受給が明るみに

旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)<9603>の子会社2社が、観光需要喚起策の「Go Toトラベル」補助金を不正に受けていた疑いを持たれている。実際には宿泊していないのに給付申請した件数が1万8000泊相当に達するとみられている。HISは12月9日に調査委員会を設置、13日に予定していた2021年10月期の決算発表を延期するなど対応に追われている。

同じ旅行業界ではワールド航空サービス(東京都)が、国の雇用調整助成金約1億7750万円を不正受給していたことが明らかになっている。同助成金はコロナ禍で休業した企業が従業員を解雇するのを防ぐため、会社が支給する休業手当を補助するもの。同社は約4億5000万円を受給していたが、休業中の従業員が上司の指示で出勤するなど実際には勤務していた事例もあったという。日本旅行業協会の会長企業である同社の不正受給に、旅行業界では衝撃が広がっている。

不正受給ではないが、10月の衆院選で落選し、内閣官房参与に就任したばかりの石原伸晃氏の事務所が雇用安定助成金約60万円を受給していたことが判明。多額の歳費が支給される国会議員の事務所が助成金の交付を受けたのは不適切だとの批判を受け、12月10日に就任かわわずか1週間で辞任に追い込まれた。

不正受給を返納できない中小企業の「大量倒産」も

おそらく、これらは「氷山の一角」だろう。政治家は論外として、旅行会社や宿泊業、飲食業などではコロナ禍の業績低迷から、やむにやまれず補助金や助成金を不正受給したケースも少なくないはずだ。

こうした場合は本来なら融資を受けるべきで、国の後押しもあって運転資金の融資は受けやすい状況になっている。だが、融資は融資、いつかは返済しなくてはならない。しかし、コロナ禍の出口は見えず、経営難の企業が返済義務のない補助金や助成金を頼ろうとするのも無理からぬことだ。

コロナ倒産防止のため補助金・助成金の交付を急いだために、事前審査が甘くなったのは否定できない。それだけに国は不正受給を徹底的に洗い出し、「逃げ得」を許さない方針だ。事実、すでに個人事業主の受給不正も多数報告されている。「大手ならともかく、中小零細企業までは調査の手が回らないだろう」と甘く見るのは危険だ。

中小企業庁では「調査開始前に自主的な返還の申出を行い、返還を完了した場合は原則として加算金・延滞金を課さない」と、自主返還を呼びかけている。それをせずに不正受給が発覚した場合は、企業名と代表者氏名、所在地が公表され、信用失墜で経営が行き詰まる恐れもありそうだ。もちろん補助金や助成金の返済と加算金・延滞金の支払い義務は消えない。

経営に余裕がある不正受給者ならば、補助金や助成金に加算金と延滞金を上乗せして返納できるだろう。だが、経営に余裕がなく、わらをもつかむ思いで不正受給に手を染めた企業にそのような余裕はない。そもそも余裕があれば、不正受給になど手を出さなかったはず。

行政の調査が進めば、不正受給の発覚に伴う「大量倒産」が発生する可能性もありそうだ。国は不正受給企業が悪質な確信犯ではなく、返納の意思があると確認できれば、経営状況を把握した上で支払期限を先延ばしするなど、きめ細かい措置を取るべきだろう。

文:M&A Online編集部


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