日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画を「直ちにそれを阻止する。絶対にだ」と明言しているドナルド・トランプ前大統領。もし彼が当選したら、外国企業による米国企業のM&Aは難しくなるのか?米CIA(中央情報局)の元オペレーションオフィサーでニューズウィーク日本版コラムニストのグレン・カール氏は、必ずしも悲観すべきではないとの見方を示した。
日本記者クラブの会見で、M&A Onlineの質問に答えた。カール氏によると「今は絶対反対だと言っているが、日鉄とUSスチールの買収パッケージの中身次第で認める可能性は十分にある」という。
その根拠として、トランプ氏が2016年の大統領選挙前にNAFTA(北米自由貿易協定)について「これまでに米国が締結した最悪の貿易協定」と糾弾し、「当選後には再交渉または廃棄する」と発言した事例を挙げた。ところが当選後に再交渉はしたものの、基本的な内容は同じで名称がUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に変わっただけ。それにもかかわらず「とても良くなった」と、一転して高く評価した。
「そもそもトランプ氏が反トラスト法(米独占禁止法)を理解しているかどうかも怪しい。ただ周囲から『強い人』と見られたいだけの人。トランプ氏が大統領に返り咲いたとしても、日本企業による米国企業のM&Aはプレゼンテーション次第で実現可能だろう」(カール氏)と指摘。
トランプ氏が返り咲いた場合は、日鉄が米国での雇用拡大など「ディールで折れた」と演出することが、USスチール買収を実現するカギになりそうだ。
一方、カール氏は経済全般で見るとトランプ政権が復活した場合、「日本やアジアへの(悪)影響は大きい」と警鐘を鳴らしている。
「トランプ氏の経済政策は孤立主義で重商主義(16〜18世紀に主流だった国家の輸出を最大化し、輸入を最小化する経済政策。アダム・スミスによって批判された)的だ。金融についての知識も乏しい。さらには貿易政策が(関税の大幅引き上げで脅すなど)懲罰的で、米国市場が閉鎖的になる可能性が高い」(カール氏)からだ。
今年の大統領選については「選挙は何が起こるか分からないので予想は避けるが、一部の熱狂的な支持者を除き米国人の多くは反トランプだ」(同)と述べるにとどまった。
文:M&A Online
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