ヒューリック過去最大のM&A、1735億円投じる不動産事業の「レーサム」とは

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東京都心のビル群

ヒューリック<3003>が、不動産事業を手がけるレーサム<8890>を子会社化することになった。

TOB(株式公開買い付け)でレーサムの約36%の株式を取得し、その後、香港投資ファンドのオアシス・マネジメントが保有する約64%のレーサム株を買い取る。

事業領域が重ならないためマイナスの相乗効果やデメリットなどがなく、両社の強みを相互活用することで持続的な成長が可能と判断した。

TOBの買付代金は最大613億9200万円、オアシス・マネジメントからの株式取得価格は約1086億円。その他関連債権を合わせた買収総額はヒューリック過去最大の約1735億円に達する。

年商4463億円、営業利益1461億円(2023年12月期)のヒューリックが、これほどまでの巨額を投じて傘下に収めようとするレーサムとは、どのような会社なのか。

不動産価値最大化のノウハウなどを高く評価

ヒューリックによると、不動産販売などを通じて取引関係にあるレーサムは、安定的な仕入や販売ルートを持ち、幅広いアセットクラス(住宅、商業施設などの資産区分)に対応可能なバリューアッド(不動産価値の最大化)のノウハウや、難易度の高い案件をまとめる組織体制、早い意思決定など高く評価できる特徴を持つという。

現在、レーサムは用途変更や大規模改修、新たなテナント誘致などを行う「資産価値創造事業」、賃貸管理や建物管理業務などを行う「資産価値向上事業」、コミュニティホステル、高度医療専門施設の運営や非常用電源開発などを行う「未来価値創造事業」を手がけている。

2025年3月期は、売上高1150億円(前年度比22.0%増)、営業利益230億円(同0.8%増)の増収営業増益の見込みで、売上高は2024年3月期から2期連続、営業利益は2022年3月期から4期連続の増加となる。

健康状態に懸念を抱き株式を売却

レーサムの創業は1992年で、田中剛氏が収益不動産による資産運用と資産形成コンサルティングを目的にレーサムリサーチとして設立し、2008年に現社名に変更した。

2001年に店頭登録したあと、ジャスダック証券取引所や大阪証券取引所JASDAQ市場、東京証券取引所JASDAQ(スタンダード)市場などを経て、2022年に東京証券取引所スタンダード市場に移行した。

創業者の田中氏が、同社会長だった2021年11月に、自身の健康状態に懸念を抱き、レーサムの取締役を退任するとともに、田中氏の資産管理会社でレーサム筆頭株主のPower Oneが保有する株式を手放す意向を固めた。

株式の売却についてさまざまな方策を模索したあと、2022年7月にPower Oneのファイナンシャルアドバイザーを務める証券会社が、オアシスにレーサムの買収を打診したことから話が進展し、オアシスが約312億円を投じてレーサムの株式を取得し親会社となった。

オアシスに2024年2月下旬に打診

買い手のヒューリックは1957年に、日本橋興業として設立され、不動産事業を中心に事業を拡大。創業50周年の2007年に現社名に改称した。

現在は東京都心を中心に、約250 件の賃貸物件(賃貸可能面積約134 万メートル)を保有・管理する不動産賃貸事業を中核としている。

事業を拡大する手段として、協業や提携と並んでM&Aを積極的に活用しており、2010年以降に同社が適時開示した案件は今12件に達する。

今回のレーサム株の取得については、2024年2月下旬にオアシスに意向を伝えていた。

文:M&A Online記者 松本亮一


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