スタジオジブリ子会社化で日テレ株高騰、投資家は何に期待した?

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東京都小金井市で行われた記者会見で握手する日本テレビの杉山美邦会長(右)とスタジオジブリの鈴木敏夫社長(Photo By Reuters)

日本テレビホールディングス<9404>によるスタジオジブリ(東京都小金井市)の子会社化は、株式市場で好感をもって迎えられた。発表翌日の9月22日に日本テレビHD株は一時、前日終値の1375円よりも22%高い1675円で取引されている。投資家は日本テレビHDのジブリ子会社化に何を期待しているのか?

アニメ制作はいつまで?

言い換えれば「日本テレビHDはジブリをどうマネタイズ(収益化)していくのか?」となる。ジブリの事業はアニメーション制作だけでなく、作品のライセンス管理、三鷹の森ジブリ美術館(東京都三鷹市)やジブリパーク(愛知県長久手市)のテーマーパーク運営と幅広い。

アニメ制作については、代表作を手がけてきた宮崎駿監督が2023年7月公開の「君たちはどう生きるか」で長編作品の制作を終了するとみられている。過去に「引退宣言」をしたにもかかわらず本作を制作した経緯があり、今後も作品を制作する可能性も高い。

とはいえ、82歳(2024年1月5日には83歳になる)という宮崎監督の年齢を考えれば、長期間にわたって作品制作を継続するのは難しいだろう。そうなると、これまで制作してきた作品のライセンス管理事業が、収益の柱として期待される。株式市場が最も期待しているのも同事業だろう。

huluでのネット配信は、日テレにもメリット

その際たるものが、日本テレビHDが2014年に日本事業を譲受した、定額制ビデオ・オン・デマンドサービス「hulu」でのジブリ作品の配信だ。ジブリ作品の大半は、国内でネット配信されていない。ディズニー傘下の米ルーカスフィルムと共同制作した短編アニメ「禅 グローグーとマックロクロスケ」が「Disney」で配信されているだけだ。

「Netflix」はジブリ作品を配信しているが、日本では視聴できない。つまりhuluで配信できれば、国内では初めてジブリ制作の長編アニメをネット視聴できるようになる。圧倒的なブランド力を持つジブリ作品を独占配信することでhuluの国内契約数が急増するのは間違いなく、それによる親会社・日本テレビHDの収益増が期待される。

長編ジブリ作品の多くは製作委員会方式で制作されているが、委員会に参加している主要企業もジブリにマイノリティー出資している可能性がある。ネット配信でジブリが潤えば配当などによる収益増が見込まれるため、反対意見は少ないだろう。新潮社と原作者の野坂昭如氏が著作権を持つ「火垂るの墓」を除けば、ネット配信は可能だ。

有望なテーマパーク運営

テーマパーク運営については、宮崎監督の長男で建設コンサルタント・環境デザイナーとしてジブリ美術館やジブリパークを開発した宮崎吾朗氏の手腕が発揮できる事業だ。吾郎氏は現在56歳で、ジブリの有力な後継者候補だったが、1人でジブリを背負うのは難しいとして固辞してきた経緯がある。

これまで通り同事業を吾郎氏に任せることで部分的ではあるが親族内事業承継が実現すると共に、1998年から四半世紀にわたってジブリの経営に関わってきた人材であることから、企業としての存続性も担保できそうだ。

同事業自体も、ジブリ作品のブランドイメージが高いことに加えて、現在の入場料収入や物販、飲食から、いずれは宿泊にも広がる可能性もあり、伸びしろがあるビジネスと言える。ポストコロナで観光事業が復調している上に、円安で外国人観光客の集客も期待できるため、新作アニメがなくても収益を維持できる強みを持つ。

ジブリを子会社化した日本テレビHDの大滝公成総務・人事管理局 IR・SR部⻑は「現時点で決定しているのは、子会社化により新たなアニメ作品づくりをバックアップすること。ライセンスについては権利関係が複雑で、すぐに何かできるわけではない。その他の事業についても、これからジブリ側とじっくり話し合って決めていく」 と話している。

スタジオジブリの事業概要

事業名 内容 将来展望 メリット 課 題
アニメ制作 新作アニメの制作 高い企画・制作能力があり、「ジブリ映画なら絶対に観る」熱烈なファン層も厚い。 歴代の作品を手がけてきた高畑勲氏が2018年に死去。宮崎駿氏も高齢で、アニメ制作を主導する後継者の育成が急務。
ライセンス 公開済み作品の配信、関連商品の企画・販売 長編映画だけでも23作品あり、多くがヒット作で視聴ニーズが高い。日本では長編映画がネット配信されておらず、日本テレビ傘下のhuluの差別化に貢献できる。二次利用なので、基本的に新たなコストが発生しない。 権利関係が複雑で、調整を要する可能性がある。二次利用はネット配信大手の力が強く、使用料を低く抑えられる傾向があるため、長期的な収益の柱にはなりにくい。

TP運営

三鷹の森ジブリ美術館やジブリパークの整備・運営 作品のブランド力が極めて高く、過去の作品世界のみをテーマにしても十分な集客を見込める。コンテンツ配信と比べると、事業の収益性が高い。新作がなくても長期的に安定した売り上げが期待できる。 設備投資や運営にコストがかかる。コンテンツ人気が高いとはいえ、長期間にわたって同じアトラクションでは飽きられるため、設備のリニューアルやイベントの更新も必要。他の2事業に比べると、カネと人手と手間がかかる。

文:M&A Online

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